上腕骨外科頸における関節外2骨片骨折のうち、近位骨片が遠位骨片に嵌頓した安定型(AO 11-A2)。骨折端が互いに食い込んでいるため初期安定性は高いが、整復には嵌頓解除(disimpaction)が必須であり、残存内反位(varus malposition)は二次転位・骨癒合不全の主因となる。腋窩神経(C5〜C6)が近傍を走行するため、手術操作は常に5cm以内の切開長を目安とし神経保護を徹底する。
重症度・疫学
年間発生件数(日本): 上腕骨近位部骨折は骨折全体の約5%。AO 11-A2(外科頸嵌頓型)はそのうち最も多い単純型で、骨粗鬆症骨折の代表例
好発: 60歳以上の高齢女性(骨粗鬆症)が主体。男性では若年〜中年の高エネルギー外傷でも発生
受傷機転: 高齢者では転倒時の肘伸展位での手掌着地(軸圧+外転力)、若年者では直達外力・スポーツ外傷
Neer分類との対応: Neer 2-part surgical neck fracture(impacted型)。外科頸部での骨折で大結節・関節面は非転位
注意すべき合併症
- 腋窩神経損傷:約5〜10%(三角筋前外側の感覚脱失・筋力低下)
- 腋窩動脈損傷:まれ(高齢者・高エネルギー外傷で注意)
- 二次転位・varus malunion:整復不十分例で30〜40%に発生
- 肩関節拘縮:保存療法長期固定例で高頻度(早期リハビリで予防)
- インプラント関連:スクリュー関節面穿破・プレート下縁の腱板損傷
- 骨頭壊死(AVN):嵌頓型では少ない(約3〜8%)が、整復操作で血流障害が増悪し得る
治療方針
⚠️ 保存療法の適応条件
- →嵌頓型で整復可能かつ整復後に安定性が確認できる症例(valgus impaction型)
- →外科頸部の角度変位が20〜30°以内・内反変形が軽度
- →高齢・低活動性で手術リスクが高く、余命・ADL期待値が低い場合
- →整復後:三角巾固定3〜6週、疼痛に応じた早期振り子運動を開始
手術介入の主目的は正確な整復(骨頭頸幹角の回復)と安定固定である。嵌頓型では単純牽引のみでは整復不十分なことが多く、骨膜剥離子によるdisimpaction(嵌頓解除)を行ったうえで整復する。整復不十分な内反位での固定は varus malunion・固定失敗の主因となる。
🔷 手術適応基準・術式選択
- ℹ内反角度20〜30°超・明らかなvarus変形を伴う嵌頓型
- ℹ整復後の安定性が不良、または嵌頓解除後に整復が維持されない
- ℹ活動性の高い患者(年齢を問わず)
- ℹ第一選択:MIOスクリュー固定(最低2本の4.0〜4.5mm部分ネジ式有窓スクリュー+ラグスクリュー法)
- ℹ代替(粉砕・骨質不良):ロッキングプレート(ORIF)— 角度安定型を優先
- ℹ代替:上腕骨髄内釘(straight nail)— 多骨片合併例・プレート固定困難例
- ℹ高齢・骨質不良・3〜4骨片化した場合はリバース型人工肩関節置換も考慮
治療選択アルゴリズム — 嵌頓型外科頸骨折に基づく術式選択フロー
診断・評価
患側肩の疼痛・腫脹・皮下出血(上腕内側に拡散することが多い)を呈する。外旋変形・上腕短縮は軽度(嵌頓のため)。腋窩神経領域(三角筋外側〜上腕外側)の感覚を必ず確認し神経損傷を除外する。橈骨動脈・尺骨動脈の脈拍触知で血管損傷を評価する。
11-A2の診断ポイント:外科頸部での嵌頓と整復可能性
X線正面像(true AP)と軸位像でNeer分類・骨頭頸幹角・内反変形の程度を評価する。正常頸幹角は130〜135°で、骨折後の内反・傾斜を定量する。CTは粉砕の程度・大結節の転位(>5mm)・3/4骨片化の有無を評価し術式選択に直結する。
X線正面像(true AP) — 外科頸嵌頓型・頸幹角の評価
X線軸位像(axillary lateral) — 骨頭傾斜・前後転位の評価
CT冠状断+3D再構成 — 粉砕評価・大結節転位の確認
【必須】 肩関節true AP像(Grashey view)、axillary lateral像(または Velpeau view)、肩甲骨Y像
【考慮】 CT:骨折型の詳細分類・大結節の転位量(>5mmで手術適応に影響)。MRI:軟部組織損傷(腱板断裂・血管神経)疑い時
✅ 許容される整復位
- ✓頸幹角 130°以上(内反変形が軽微)
- ✓前後転位が骨幹径の50%以下
- ✓骨折部での内外反変形が20〜30°以内
- ✓大結節転位 5mm 未満
- ✓外旋方向の整復が適切に得られている
❌ 許容されない変形
- ✕頸幹角 90°未満(重度内反変形)— varus malunion のリスクが極めて高い
- ✕骨折部での前後転位が骨幹径の50%超
- ✕大結節転位 10mm超 — 腱板機能不全・外転力低下
- ✕整復後に不安定で二次転位が懸念される
- ✕回旋変形(外旋筋・棘上筋牽引による)の放置
手術手技
体位
手術体位(ビーチチェア位)・Cアームセットアップ
ビーチチェア位(標準): 45〜60°のセミリクライニング体位。肩甲骨内縁をテーブル端に近づけ、肩甲骨後面を支持しつつ上腕を自由に動かせる体位とする。Cアームは前外側から入れ、true AP像(肩甲骨面に平行)と axillary lateral像の両方が取れることを手術前に確認する。
MIOスクリュー固定 — 第一選択(嵌頓解除が可能な例)
適応: 骨折面が斜めで長く、嵌頓解除後に骨折面が十分に接触する症例。粉砕がなく骨質が良い場合に最も低侵襲・高成功率。
三角筋前線維間アプローチ — MIO小切開のアプローチ解剖
スクリュー配置概念図 — 2〜3本のラグスクリュー配置(AP / 軸位)
- 整復操作(disimpaction): 牽引+外転位で嵌頓を解除。必要に応じ小切開から骨膜剥離子を骨折部に挿入し、骨頭を外転・外旋方向へ持ち上げて嵌頓を解除する。joystick法(K-wireまたはシャンツピンで近位骨片を操作)を補助的に用いる
- 透視確認: true AP+axillary lateral像で頸幹角・回旋・前後転位を確認。varus残存がないことを必ず確認する
- 一時固定(K-wire): 2〜3本のK-wireで整復位を一時固定。将来のスクリュー位置を避け、腋窩神経を外側から保護するように刺入する
- 切開(5cm以内): 鎖骨から5cm以内を目安とした小切開。三角筋前線維を広げ、深部へ進む際に腋窩神経の走行に注意する
- ドリリング・スクリュー設置: 最低2本の4.0〜4.5mm部分ネジ式有窓カニュレイテッドスクリューをラグスクリュー法で設置。骨折線をネジ山が跨がないように部分ネジ式を使用。骨質不良ではワッシャーを追加する。スクリューは軟骨下骨直前で停止し関節面を穿破しない
- 最終透視確認: AP・axillary lateral像でスクリュー位置・関節面非穿破・整復位を確認。腕を複数肢位で動かし固定安定性を確認する
- K-wire抜去・閉創: 確認後にK-wireを抜去し、創閉鎖する
術中透視像 — スクリュー位置確認(true AP / axillary lateral)
⚠️ MIOスクリュー固定 ピットフォール
- ✕Disimpaction不足によるvarus整復不良 — 残存内反位は骨癒合不全・malunionの主因
- ✕腋窩神経損傷 — 切開は鎖骨遠位から5cm以内に制限し、深部操作時に神経走行を意識する
- ✕スクリュー関節面穿破 — 骨格長測定に測深器を使い、測定値より短いスクリューを選択する
- ✕ネジ山が骨折線を跨ぐ — ラグスクリュー法の原則を守り部分ネジ式を用いる
- ✕骨質不良例での固定不十分 — 骨粗鬆症例ではワッシャー追加または術式変更(ロッキングプレート)を検討する
ロッキングプレート(ORIF)— 代替選択肢
適応: 粉砕・骨質不良・骨折面が短くMIOスクリューのラグ効果が期待できない例。また3骨片合併・整復が困難な例の第二選択。
デルトペクトラルアプローチ(または前外側アプローチ)で外科頸を直視下に展開し整復する。単純牽引のみでは整復不十分なため、骨膜剥離子を骨折部前方から内側・上方に挿入し disimpaction を行う。
プレート配置の原則:
- 大結節頂点から5〜8mm遠位(近すぎると近位スクリューが骨頭に浅入し、遠すぎると肩峰衝突)
- 上腕骨軸に沿って配置
- 結節間溝より2〜4mm後方(前方すぎると上腕二頭筋長頭腱・前上腕回旋動脈を損傷)
骨頭ロッキングスクリューは通常5本設置し、"woodpecker drilling"(進めては止める)で軟骨下骨を感じたら停止する。縫合糸を腱板付着部に通してプレート孔に固定することで回旋力に対する補強を行う(soft tissue augmentation)。
術後管理
術後X線像(true AP / axillary lateral)— プレート位置・整復位確認
手術タイミング: 受傷後5〜7日以内が理想。浮腫が強い場合は待機するが、長期待機は骨癒合不全・整復困難を招く
術後荷重: 手術側上肢は術後から三角巾固定。重量挙げ・荷重は骨癒合が得られるまで(術後6〜8週)禁止。日常的な低負荷使用(食事など)は疼痛に応じて許容する
VTE予防: 下肢DVT予防として弾性ストッキングおよびフットポンプを使用。上肢骨折ではルーチンの抗凝固薬は通常不要だが、長期臥床・高リスク例では低分子ヘパリンを考慮する
疼痛管理: アセトアミノフェン定期投与+NSAIDs(腎機能・消化管リスクに配慮)。神経ブロック(腕神経叢ブロック)は術後早期鎮痛に有効で、早期リハビリ開始を支援する
リハビリテーション: 術後早期から段階的に開始する。Phase 1(術後1〜3週):振り子運動・肘〜手指の自動運動。Phase 2(術後3〜9週):X線で骨癒合を確認後、前方挙上・外転の他動的運動を開始。外旋は術後6週まで避ける。Phase 3(術後9週〜):等張性筋力強化・受動的ストレッチ(拘縮残存例)
フォローアップ
- 術後2週: 創部確認・X線撮影(二次転位・インプラント位置)
- 術後6週: X線撮影、骨癒合の初期評価、リハビリ段階移行の判断
- 術後12週: X線撮影、骨癒合評価(臨床的・画像的)、肩関節可動域・筋力評価
- 術後6ヶ月: 最終機能評価(Constant score等)、インプラント関連問題の有無
- スクリュー関節面穿破・varus malunionの所見があれば早期に対応(再固定・インプラント抜去)
予後
嵌頓型(11-A2)は安定性が高く、適切な整復と固定が行われれば骨癒合率は高い。
- 骨癒合率:適切な固定で約90〜95%
- 骨頭壊死(AVN):嵌頓型では約3〜8%(転位型・3骨片型より明らかに低い)
- varus malunion:整復不十分例で問題となり、機能予後に直結する
- 腋窩神経麻痺:術後新規発症は約2〜5%。多くは一過性で3〜6ヶ月で回復
- 肩関節可動域:適切な早期リハビリで80%以上が良好な機能回復
- Constant スコア:術後1年で平均70〜80点(加齢・骨質・リハビリ依存性が高い)
FLS(骨折リエゾンサービス)介入による骨粗鬆症治療開始と二次骨折予防が推奨される。
📋 上級医報告前チェックリスト
- 1AO分類コードを確認(11-A2 = 外科頸・関節外・嵌頓型の2骨片骨折)
- 2骨頭頸幹角(頸幹角)を計測し内反変形の程度を評価(正常130〜135°)
- 3大結節の転位量を確認(5mm超で術式選択に影響、10mm超は手術適応)
- 4腋窩神経領域(三角筋外側)の感覚・三角筋筋力を術前に評価・記録
- 5手術適応を確認(disimpaction後の安定性・varus変形の程度)
- 6術式を確認(第一選択:MIOスクリュー / 代替:ロッキングプレートORIF)
- 7プレート配置の原則を確認(大結節頂点から5〜8mm遠位、結節間溝より2〜4mm後方)
- 8腋窩神経保護を確認(切開5cm以内ルール・深部操作時の走行確認)
文献
- Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
- Neer CS 2nd(1970)Displaced proximal humeral fractures: I. Classification and evaluation. J Bone Joint Surg Am, 52(6):1077–89. PMID: 5455339
- Sproul RC et al.(2011)A systematic review of locking plate fixation of proximal humerus fractures. Injury, 42(4):408–13. PMID: 21176833
- Handoll HH et al.(2015)Interventions for treating proximal humeral fractures in adults. Cochrane Database Syst Rev, Issue 11. PMID: 26560014
- Court-Brown CM et al.(2006)The epidemiology of proximal humeral fractures. Acta Orthop, 77(2):269–74.