上腕骨近位部の大結節(greater tuberosity)のみが骨折した関節外2-part型 で、AO分類11-A1に相当する[2] 。大結節には棘上筋・棘下筋・小円筋が停止し[1] 、上方または後方への転位は腱板機能不全と肩峰下インピンジメントの原因となる[2] 。Platzer らの施設ではいずれの平面でも転位5mm超を整復固定の適応とし、Park らは活動的な患者で5mm超、スポーツ選手や頭上動作の多い重労働者で3mm超を手術適応として提唱している[2] 。
重症度・疫学
発生頻度: 上腕骨近位部骨折は全身で3番目に多い骨折で全骨折の4〜10%を占め、成人の年間発生率は10万人あたり31〜250人と報告されている[1]
好発: 転位型大結節骨折で手術を受けた52例の平均年齢は47歳(25〜66歳)で、女性は平均41歳、男性は平均50歳であった[2]
受傷機転: 上肢を伸ばしたままの転倒が42%、スポーツ関連が37%、交通事故が15%、その他が6%[2]
手術適応の目安: 多くの著者は転位5mm未満で保存療法、10mm超で手術を推奨し、Platzer らの施設はいずれの平面でも転位5mm超を整復固定の適応としている。Park らは活動的な患者で5mm超、スポーツ選手や頭上動作の多い重労働者で3mm超を手術適応として提唱している[2]
注意すべき合併症
腱板機能不全・インピンジメント症候群:上方または後方への転位骨片が肩峰下でインピンジメントを起こし、可動域制限と機能障害の主因となる[2]
肩関節脱臼合併:手術例52例中9例(17%)が急性肩関節脱臼を合併し、術前に徒手整復を要した[2]
腋窩神経損傷:切開整復内固定例に一過性の腋窩神経不全麻痺が1例生じ、リハビリテーション後に神経機能は完全に回復した[2]
腱板断裂合併:切開整復内固定を行った症例のうち16例で棘上筋腱と肩甲下筋腱の間に腱板断裂を認め、同時に修復された[2]
骨癒合遅延・偽関節:手術例では全例が骨癒合し、遅延癒合・偽関節は認められなかった[2]
肩関節拘縮:術後10週以降に骨癒合は得られているが関節拘縮がある場合は、理学療法士による徒手的な他動可動域運動と等張性運動を追加する。保存治療例でも手術治療例でも、最大限の機能回復には術後のリハビリテーションが欠かせない[1]
治療方針
⚠️ 保存療法の適応条件
→ 転位量5mm未満(多くの著者が保存療法を推奨する範囲。Park らは活動的な患者で5mm超、スポーツ選手や頭上動作の多い重労働者で3mm超を手術適応とする)[2] → 肩関節機能へのニーズが多くない患者(75歳以上の骨粗鬆症患者でニーズが多くない場合は、転位のある骨折でも保存療法とする)[1] → 全身状態不良・高齢・コンプライアンス不良で手術の利益が小さいと判断される患者[2] → 保存療法では2〜3週間の三角巾固定と早期振り子運動を行い、その後に自動可動域訓練へ進める[1]
転位型(>5mm)では保存療法の機能成績が有意に劣るため、整復固定が推奨される [2] 。Park らは活動的な患者で転位5mm超、スポーツ選手や頭上動作の多い重労働者で3mm超を手術適応として提唱している[2] 。
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ いずれの平面でも転位5mm超が整復固定の適応(Platzer らの施設方針。Park らは活動的な患者で5mm超、スポーツ選手や頭上動作の多い重労働者で3mm超を提唱)[2] ℹ 経皮的(低侵襲)固定(CRPF)— 小さな外側切開から大結節骨片を可動化・整復し、内側皮質を貫くK-ワイヤで仮固定したうえでカニュレイテッドラグスクリューで固定する[2] ℹ 切開整復内固定(ORIF)— 骨片を強固な非吸収糸(21例)または外側皮質のスクリュー頭・ドリル孔に締結する8字状の張力帯ワイヤー(9例)で固定する[2] ℹ 腱板断裂合併例:骨折固定と腱板修復を同時に行う ℹ 肩関節脱臼合併例:本研究では52例中9例(17%)が大結節骨折に急性肩関節脱臼を伴い、術前に徒手整復を要した[2] ℹ 単独の2-part結節骨折:スクリューよりも縫合糸のほうが頼りになり、腱板の腱停止部を用いた縫合は骨粗鬆症例の整復・固定を容易にする[1]
治療選択アルゴリズム — 転位量と患者背景に基づく術式選択フロー
診断・評価
肩関節の変形は顕著でないこともあるが、明らかな変形は脱臼を示唆する。可動域制限は腱板損傷と区別すべきであり、腋窩神経の運動機能・感覚機能は常に評価する。脱臼がある場合は腕神経叢の機能と手関節周辺の脈拍も評価する[1] 。
11-A1の診断ポイント:転位量の正確な計測
正面(AP)像で上方転位を計測し、腋窩像で後方への引き込みを評価する[2] 。CTは冠状面・矢状面・三次元再構築で骨折線や上腕骨頭の詳細を描出する[1] 。単純X線で診断が不確実な場合、MRIは微小な大結節骨折と腱板部分断裂の検出に有用である[3] 。
X線正面像(AP) — 大結節転位量の計測
X線Y字(Outlet)像 — 大結節後方転位の評価
CT画像 — コロナル断(左)・アキシャル断(右)での骨折評価
【必須】 肩関節の真の正面像(true AP)、スカプラY像、軸射像(腋窩像)の3方向(外傷シリーズ)[1]
【考慮】 CT:複雑な骨折で追加情報を得る。冠状面・矢状面および三次元再構築で骨折線、関節窩、上腕骨頭の詳細を描出する[1] 。MRI:単純X線で診断が不確実な場合に微小な大結節骨折と腱板部分断裂を検出する[3]
✅ 保存療法が許容される所見
✓ 大結節の上方転位量が5mm未満(多くの著者が保存療法を推奨する範囲)[2] ✓ 骨折の粉砕と転位の程度が軽い(骨折の粉砕と転位の程度、腱板損傷の有無が予後と相関する最も重要な要因)[1] ✓ 腋窩像で後方への引き込み(posterior retraction)が著明でない[2] ✓ 腱板断裂の合併がない(腱板損傷の有無は予後を左右する要因[1] 。単純X線で診断が不確実な場合はMRIで微小な大結節骨折と腱板部分断裂を検出できる[3] )
❌ 許容されない転位・所見
✕ いずれの平面でも転位5mm超(Platzer らの施設方針。Park らは活動的な患者で5mm超、スポーツ選手や頭上動作の多い重労働者で3mm超を手術適応とする)[2] ✕ 腋窩像で骨片の後方への引き込みによる関節面への重なりが認められる[2] ✕ 腱板断裂の合併(複数の著者は、骨片の解剖学的整復がより容易で腱板断裂も同時に修復できることから、強固な非吸収糸またはテンションバンドワイヤーによる観血的整復内固定をより適した術式として推奨している)[2] ✕ 肩関節脱臼の合併(大結節骨折は単独で起こるほか、肩関節前方脱臼に合併して起こる)[2]
手術手技
体位
手術体位セットアップ — ビーチチェア位または半側臥位
ビーチチェア位(標準): 患側肩を手術台のX線透過部に置き、上腕と肩全体を頚部から指先まで消毒して手と前腕を防水ストッキネットで覆う。U字ドレープは割れ目を腋窩に向けて使用し、透視装置もドレーピングする[1] 。
経皮的カニュレイテッドスクリュー固定(MIO法) — 第一選択
適応: 徒手整復と経皮的なピン・スクリュー挿入は、骨質良好な若年患者の単純な骨折型、大結節の単独骨折、外反嵌入型骨折に最適である[1] 。
アプローチ — 外側ミニ切開(経皮的ガイドワイヤー刺入)
スクリュー配置概念図(正面・軸位)
整復: 大結節骨片を可動化して小さな外側切開から整復し、内側皮質を貫くK-ワイヤで一時的に保持したうえでカニュレイテッドラグスクリューを刺入する[2]
皮膚切開: 大結節骨片を可動化・整復できる短い外側切開を置く[2]
ガイドワイヤー刺入: 短い外側切開から骨片を可動化・整復し、内側皮質を貫くK-ワイヤーで一時的に保持したうえでカニュレイテッドラグスクリューで固定する[2]
ドリリング・長さ計測: スクリュー長を計測しドリリングする。術後のスクリューの貫通と整復位喪失は最も多く発表されている合併症であり、スクリューが適切に挿入されていることを透視下で確認する[1]
スクリュー固定: 海綿骨スクリュー2本で固定する。生体力学的にはテンションバンドと2本の海綿骨スクリューが単独の大結節骨折に対し最も強固な固定を与える[3]
最終確認: スクリューが適切に挿入されていることを確認するため、すべてのスクリューの挿入位置を透視下でモニタリングする[1]
術中透視像 — スクリュー位置確認(正面・腋窩像)
⚠️ MIO法 ピットフォール
✕ 整復不十分なまま固定 → 肩峰下でのインピンジメントと腱板機能不全が残存(整復固定の根拠は差し迫るインピンジメントの予防と腱板の生理的機能の確保)[2] ✕ スクリューが関節を貫通 → 術中の技術的な誤り、または嵌入・内反変形を伴う整復位の喪失により二次的に起こる[1] ✕ スクリュー単独での固定 → 骨幹端部では固定強度が比較的弱く、単純な結節骨折では縫合糸固定の強度のほうが強い[1] ✕ 脱臼骨折や大きく転位した骨片の整復操作 → 腋窩神経損傷(三角筋アプローチや分割アプローチ、レトラクタ挿入時は慎重な展開でリスクを減らす)[1] ✕ スクリュー単独では固定強度が不十分になりうる(上腕骨近位部の骨幹端部ではスクリュー固定の強度が比較的弱く、単純な結節骨折では縫合糸固定のほうが強い)[1]
切開整復内固定(ORIF)— 代替選択肢
適応: 経皮的整復・固定で整復位が得られない転位例、腱板断裂合併例。複数の著者は解剖学的整復が容易で腱板断裂も同時に修復できることから強固な非吸収糸またはテンションバンドワイヤーによる観血的整復内固定を推奨しているが、両術式の機能成績に差はなく一方を他方より推奨できない[2]
術後管理
術後X線像(正面・腋窩像) — スクリュー位置・整復位の確認
手術タイミング: 緊急手術を要することは稀で、治療開始が遅れた例でも満足のいく結果が期待されるが、比較研究では早期の外科的介入のほうがよい機能成績が得られるとされる[1]
術後荷重(肢): 術後2〜3日目から他動運動を開始し、水平面を越える挙上・外転および内旋は4〜6週間遅らせる[2]
VTE予防: 全身状態や臥床期間を踏まえ、VTE予防の必要性を個別に判断する
疼痛管理: 術後急性期の疼痛管理を行い、鎮痛方法は施設の方針に従う
リハビリテーション: 術後10〜14日から振子運動と他動的な可動域訓練を開始し、術後6週間は自動可動域訓練を行わない。6〜10週は臨床的に骨癒合傾向がみられX線上で骨片が一塊として動き転位がない場合に自動介助可動域運動へ進み、8週から介助なしの自動運動と等尺性運動を追加する。10週以降は骨癒合が得られているが関節拘縮がある場合に、理学療法士による徒手的な他動運動と等張性運動(求心性・遠心性)を追加する[1]
フォローアップ
術後2週: 術後10〜14日から始まる振子運動・他動的な可動域訓練の進捗を確認(保存治療例・手術治療例のいずれも10〜14日後から同じプロトコルを開始)[1]
術後6週: X線で骨癒合を評価し、臨床的に骨癒合傾向がみられX線上で骨片が一塊として動き転位がない場合に自動介助可動域運動(前方および側方挙上)へ移行する[1]
術後3ヶ月: X線で骨癒合を確認し、術後10週以降は関節拘縮の有無を評価して等張性運動(求心性・遠心性)を追加[1]
術後6ヶ月: 肩関節の可動域・筋力・疼痛を評価し、機能成績を確認する
上方または後方への転位によるインピンジメントと腱板の機能不全は、可動域制限と機能障害の主因である[2]
予後
非転位型・最小限の転位に留まる骨折が95%以上を占め、保存療法で良好に治癒する。転位型では整復固定を行った例が保存療法例より有意に良好な肩機能を示した[2]
骨癒合:手術例では全例が骨癒合し、遷延癒合・偽関節の徴候はみられなかった[2]
機能成績:手術例の65%がgood(CS 80点以上・VSS 8点未満・UCLA 28点超)、15%がexcellent(3スコアのうち2つで満点)[2]
活動再開:水平面を超える挙上・外転と内旋は術後4〜6週間遅らせ、骨癒合後(術後おおむね4週)に自動運動を開始し、その後に抵抗下の運動を追加する[2]
合併症:観血的整復内固定後に腋窩神経の一時的な部分麻痺が1例みられた[2]
合併する腱板断裂は骨折固定と同時に修復する(52例中16例に断裂があり修復された)[2]
骨癒合が得られても関節拘縮がある場合は、理学療法士による徒手的な他動可動域訓練と等張性運動を追加する[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(11-A1 = 関節外2-part・大結節骨折) 2 転位量を計測(正面像・腋窩像・CTで上方転位・後方転位を定量化) 3 手術適応を判断(Platzer らの施設方針はいずれの平面でも転位5mm超で整復固定。Park らは活動的な患者で5mm超、スポーツ選手や頭上動作の多い重労働者で3mm超を手術適応として提唱)[2] 4 肩関節脱臼合併の有無を確認(大結節骨折は肩関節前方脱臼に合併して起こり、9例(17%)が術前に脱臼の徒手整復を要した)[2] 5 腱板断裂合併の有無を評価(単純X線で診断が不確かな場合、MRIで微小な大結節骨折と部分層腱板断裂を検出できる)[3] 6 腋窩神経損傷の有無を確認(腋窩神経の運動機能および感覚機能は常に評価する)[1] 7 術式を確認(観血的整復+縫合糸・テンションバンド固定と経皮的スクリュー固定は機能成績に差がなく、一方を他方より推奨できない)[2] 8 術後リハビリ計画を確認(段階的可動域訓練と筋力回復プログラム)
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Platzer P et al.(2008)Displaced fractures of the greater tuberosity: a comparison of operative and non-operative treatment. J Trauma, 65:843-8. PMID: 18349710
Yin B et al.(2012)Operative treatment of greater tuberosity fractures of the proximal humerus: a systematic review. J Shoulder Elbow Surg, 21(4):463–72.