上腕骨近位部の外科頸レベルの骨折で、転位を伴うが嵌頓(インパクション)のない関節外2-part骨折 (AO分類11-A3)。外科頸は解剖頸より遠位の骨幹端移行部に位置し、関節外骨折のため上腕骨頭への血流障害は少なく、骨頭壊死(AVN)リスクは11-B/11-Cに比べ低い 。一方、転位が大きい例では腋窩神経・腋窩動脈損傷を合併することがあり、初期評価で神経血管の確認が必須である。
転位型(非嵌頓型)では整復・内固定が原則となるが、整復後の安定性・骨質・患者の全身状態 により術式を選択する。髄内釘(Proximal Humerus Nail)またはLCP(ロッキングプレート)による観血的整復固定術(ORIF)が主体であり、高齢・骨粗鬆症の重篤例では人工肩関節(半関節形成術・逆行性人工肩関節)も考慮する。
重症度・疫学
年間発生件数(日本): 上腕骨近位部骨折は日本の骨粗鬆症骨折の約7〜10%を占める。11-A3は外科頸骨折の中でも転位型であり、外科頸骨折全体(11-A)の約20〜30%
好発: 65歳以上の骨粗鬆症高齢女性(女性:男性 ≈ 3:1)および若年者の高エネルギー外傷
受傷機転: 高齢者は上肢伸展位での転倒(FOOSH: fall on outstretched hand)、若年者は交通外傷・スポーツ外傷
神経合併症: 腋窩神経損傷が最多(約5〜15%)、高エネルギー損傷では腕神経叢損傷も
注意すべき合併症
腋窩神経損傷:約5〜15%(デルタ筋麻痺・外側上腕部感覚障害)
腋窩動脈損傷:高エネルギー外傷時(まれだが見逃し禁忌)
内固定後の二次内反転位(varus collapse):骨粗鬆症例で多い
術後スクリュー関節内穿破(切り抜け: cut-out):不適切なスクリュー長・骨質不良で発生
腱板機能不全・腱板断裂合併:高齢者の転位型で合併頻度が高い
凍結肩(肩関節周囲炎):不動化期間が長い場合
骨癒合不全・偽関節:転位が大きい例・骨質不良例で約5〜10%
上腕骨頭壊死(AVN):11-A3では少ないが、外科頸内側皮質損傷例で発生リスクあり(約5%未満)
治療方針
⚠️ 保存療法の適応条件
→ 転位が軽度(角状転位15°未満・短縮10mm未満)で機能的に許容される例 → 高齢・低活動・麻酔リスクが高い(ASA分類IV以上)場合 → 末期・認知症で手術に同意が得られない場合 → 保存療法の場合は三角巾固定(2〜3週)+早期関節可動域訓練を行う
転位型(非嵌頓型)では整復位保持が困難なことが多く、多くの例で手術が適応 となる。整復後に安定性を確認し、不安定であれば積極的に内固定を検討する。
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 外科頸骨折で角状転位>15°・短縮>10mm・整復後不安定例が手術適応 ℹ 第一選択:プロキシマルヒューメラス髄内釘(PHN)—最小侵襲で固定性良好 ℹ 代替:LCPプレート(ロッキングコンプレッションプレート)による ORIF—展開・整復が必要な複雑例に有利 ℹ 高齢・骨粗鬆症重篤例・腱板機能不全合併:半関節形成術または逆行性人工肩関節(RSA)を考慮 ℹ 整復前に腋窩神経・橈骨神経・血管の神経血管評価を必ず実施 ℹ 手術時期:全身状態が安定次第、受傷後5〜7日以内を目標とする(神経血管損傷合併例は緊急手術)
治療選択アルゴリズム — 転位型外科頸骨折の術式選択フロー
診断・評価
上腕骨近位部の疼痛・腫脹・皮下出血(上腕から腋窩に波及する紫斑)・上肢挙上困難を呈する。高エネルギー外傷では腋窩部の拍動性出血・脈拍消失(腋窩動脈損傷)や三角筋麻痺・上腕外側の知覚障害(腋窩神経損傷)に注意する。
11-A3の診断ポイント:外科頸レベルの転位・角状変形
X線正面像(true AP / Grashey view)・Y字像(scapular Y view)・腋窩像(axillary view)の3方向を撮影し、骨折線のレベル・転位方向・角状変形・回旋ずれを評価する。外科頸骨折では骨幹部が内転・前方転位し、頭部フラグメントが外転・後方傾斜することが多い。CTは粉砕・大結節合併骨折・関節内進展の評価に有用。
X線正面像(true AP / Grashey view)— 外科頸骨折の転位評価
X線側面像(scapular Y view)— 前後方向の転位・角状変形評価
腋窩像(axillary view)— 回旋ずれ・関節内進展の評価
【必須】 肩関節正面(true AP・Grashey)・Y字像・腋窩像、患側鎖骨・肘関節(合併損傷の除外)
【考慮】 CT:粉砕・大結節合併骨折・関節内進展の評価。血管超音波・CTA:腋窩動脈損傷疑い時
✅ 許容される整復位(保存療法継続の条件)
✓ 角状転位15°未満(矢状・冠状面いずれも) ✓ 短縮10mm未満 ✓ 回旋ずれ25°未満 ✓ 整復後に透視下で安定性確認(関係する筋の牽引で再転位しない)
❌ 許容されない変形(手術を要する)
✕ 角状転位>15°(特に内反変形+内側皮質粉砕は内反崩壊リスク) ✕ 短縮>10mm ✕ 回旋ずれ>25° ✕ 大結節の有意な転位合併(>5mm) ✕ 整復後不安定(透視下で牽引解除後に再転位) ✕ 神経血管損傷合併(緊急手術)
手術手技
体位
手術体位 — ビーチチェア位(半座位)のセットアップ
ビーチチェア位(beach chair position): 上半身を45〜70°起こし、肩甲骨を手術台端よりわずかに突き出す。上腕を自由に動かせるよう肘関節以遠を術者がコントロールできる体位をとる。透視(Cアーム)はY字像・腋窩像が得られる位置に設置する。全身麻酔下で斜角筋間または鎖骨上神経ブロックを併用すると術後疼痛管理に有効。
プロキシマルヒューメラス髄内釘(PHN)— 第一選択
適応: 転位型外科頸骨折(11-A3)の第一選択。最小侵襲で強固な固定を得られ、骨粗鬆症例でも有効。骨幹端の粉砕が中等度あるいは大結節合併骨折にも対応可能。
前外側アプローチ — 棘上筋分割と釘挿入口
釘挿入・近位ロッキング — 透視下での手技(AP / 軸位)
整復: 腱板縫合糸(棘上筋・棘下筋・肩甲下筋腱)を腱骨接合部直上に挿入してフラグメントハンドルとして使用。Kワイヤーや骨膜剥離子でジョイスティック操作し骨幹部フラグメントを整復する。フラグメントを1:1整復し頸部骨片を骨幹部に合わせる
挿入口確認: 前外側切開(肩峰前外縁から3〜5cm)。棘上筋を筋線維方向に分割(最大3cm)。挿入口は上腕骨頭最高点の後外側、関節内・上腕二頭筋腱後方に設定。Kワイヤーを挿入して透視で位置確認
髄腔開口: カニュレイテッドドリルでKワイヤー上を開口。挿入口が不正確では骨幹端の整復不良を招く(最重要ステップ)
釘挿入: 軽く回転させながら骨折部まで挿入(透視確認)。外科頸骨折部で整復位を維持しながら骨幹端まで進める。釘の近位端が骨表面より突出しないことを確認
後捻(retroversion)調整: エイミングアームを前方へ約25°スイングさせ上腕骨頭の生理的後捻に合わせる。前腕を25°外旋させてtrue AP像を得る
近位ロッキング: エイミングデバイスを通じてロッキングスクリューを挿入。骨質・骨折形態に応じてスクリュー数(通常3〜5本)を選択。下内側カルカースクリューは内反転位例に強く推奨される
遠位ロッキング: 骨幹部遠位に1〜2本のロッキングスクリューを挿入(骨粗鬆症例は2本)
エンドキャップ: 骨表面より突出しないよう設置。棘上筋割創を修復し、腱板縫合糸をプレートのホールへ通して中立化縫合を追加する
最終確認: 上肢を複数の肢位に動かしてAP・軸位透視で整復位・インプラント位置・スクリュー関節内非穿破を確認
⚠️ 髄内釘ピットフォール
✕ 不正確な挿入口 → 骨幹端の整復不良(最も重要な回避事項) ✕ 釘の近位端突出 → 肩峰インピンジメント・棘上筋障害 ✕ 近位スクリューの関節内穿破(cut-out)— "woodpecker"ドリリング技法で回避し、スクリュー長は測定より1〜2mm短くする ✕ 腋窩神経損傷 — 遠位ロッキング時に肩峰下5cm以遠の切開を制限し、神経を触知して確認 ✕ 大結節の再転位 — 近位ロッキング挿入時に大結節フラグメントを保護する ✕ 整復後の内反転位見落とし — 頸体角をtrue AP像で確認(目標 約130〜140°)
LCPプレート ORIF — 代替選択肢
適応: 大結節合併骨折・骨片が多い複雑骨折・髄内釘では整復困難な例。デルトペクトラルアプローチ(小結節整復が必要な例)または前外側・経三角筋アプローチ(大結節骨折に有利)を選択する。
プレート設置基準: プレート近位端を大結節最高点の5〜8mm遠位、上腕二頭筋溝の2〜4mm後方に置く(前方過剰 → 前上腕回旋動脈損傷、近位過剰 → 肩峰インピンジメント)。ロッキングスクリューを頭部に5本以上設置、内側カルカースクリューを内反例に追加する。腱板縫合糸をプレートホールに通して中立化縫合を加える。
術後管理
術後X線像(AP / Y字 / 腋窩)— 整復位・インプラント位置確認
手術タイミング: 全身状態が安定次第、受傷後5〜7日以内を目標とする。腫脹が著明な場合は軟部組織の状態改善を待ち最大14日以内に施行。神経血管損傷合併例は緊急手術適応
術後荷重: 上肢骨折のため下肢免荷は不要。上肢は術後2〜3週は三角巾固定し、体重支持・荷物の挙上は骨癒合確認まで禁止
VTE予防: 上肢骨折・肩関節手術は下肢骨折に比べVTEリスクが低いが、長期臥床・高齢者・肥満例ではエドキサバン(リクシアナ)または弾性ストッキングを考慮
疼痛管理: アセトアミノフェン定期投与を基本とし、術後24〜48時間はNSAIDsまたはオピオイドを追加。斜角筋間神経ブロック(持続カテーテル)は術後24〜48時間の疼痛管理に有効
リハビリテーション: 術翌日より振り子運動(pendulum exercise)を開始。段階的に自動介助・自動運動へ移行する
フォローアップ
術後2週: 創部確認、X線撮影(整復位・スクリュー位置)、三角巾を継続、振り子運動継続
術後6週: X線撮影、骨癒合開始の確認。自動介助運動(前屈・外転)を開始。外旋は最初の6週は制限(腱板修復保護)
術後12週: X線撮影、骨癒合評価。抵抗運動開始。筋力強化・等張・求心・遠心性運動を導入
術後6ヶ月〜1年: 最終機能評価(DASH・Constant-Murley scoreなど)、骨癒合完成確認。遺残可動域制限があれば理学療法継続またはサイレント肩関節鏡視下授動術を検討
予後
転位型外科頸骨折(11-A3)の予後は整復精度・骨質・インプラント選択・年齢・腱板状態に大きく依存する。
骨癒合率:約85〜95%(適切な固定が行われた場合)
骨癒合不全・偽関節:骨質不良・内反整復不良例で約5〜10%
上腕骨頭壊死(AVN):11-A3では比較的稀(<5%)。外科頸内側皮質の血管損傷で発生リスク増
関節内スクリュー穿破(cut-out):LCPプレート・髄内釘で約5〜15%(骨粗鬆症・不適切なスクリュー長)
肩関節可動域(ROM)回復:前屈平均120〜150°(術前ROM・腱板機能・リハビリ依存)
Constant-Murley score(術後1年):約65〜75点(高齢・骨粗鬆症重篤例で低下)
腋窩神経損傷合併例:約70〜80%が6ヶ月以内に自然回復
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(11-A3 = 関節外・外科頸骨折・転位型・非嵌頓型) 2 骨折のレベル(外科頸)と転位方向(内転・前方変位が多い)を確認 3 腋窩神経・腋窩動脈の評価を実施(三角筋麻痺・上腕外側知覚・末梢血管の確認) 4 X線3方向(true AP / Y字 / 腋窩像)で転位量・角状変形・大結節合併骨折を評価 5 手術適応を確認(角状転位>15°・短縮>10mm・整復後不安定のいずれかが該当) 6 術式を選択(第一選択:髄内釘PHN / 複雑例・大結節合併:LCPプレート ORIF) 7 骨質・骨粗鬆症の程度を評価(高齢・重篤な骨粗鬆症では人工関節も選択肢) 8 術中に内反転位の残存がないことをtrue AP透視で確認(頸体角 約130〜140°)
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
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