大腿骨転子部骨折(単純型) (31-A1)

大腿骨転子部骨折(単純型)

31-A1
骨粗鬆症性骨折JOAガイドライン対応

著者

SurgiLink 編集部SurgiLink AO Editorial Team

監修

監修医師名所属施設・診療科
最終更新: 2025年6月

大転子から小転子を通る単純な骨折線を有する転子部骨折。大転子と小転子の両方が骨折片に含まれるが、後内側皮質(小転子を含む骨片)の骨折片数が少ない安定型骨折

AO分類31-A1では骨折線が1本で、内側皮質の支持が比較的保たれる。内側皮質の接触が保たれるため、スライディングヒップスクリュー(SHS)および髄内釘いずれも適用可能であり、術後早期から荷重開始が可能な安定型骨折の代表例である。

重症度・疫学

年間発生件数(日本): 約11万件/年(大腿骨頸部骨折と合わせると20万件超)

好発: 75歳以上の高齢女性(女性:男性 = 3:1)

受傷機転: 低エネルギー転倒(立位・歩行中)が主体。骨粗鬆症を背景とした軽微な外力で発生する骨粗鬆症性骨折の代表例。

1年死亡率: 約15%(高齢者の全身状態・合併疾患に依存)

JOAガイドライン: 大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版)第4章 — 推奨グレードA、エビデンスレベルI(pp.52–67)

注意すべき合併症

合併症発生率重篤度
カットアウト(スクリュー逸脱)約3%重大
深部静脈血栓症・肺塞栓症約5%生命の危機
術後感染約1%重大
骨折再転位・偽関節約2%重大

治療方針

保存療法を選ぶ条件

  • ASA分類IV以上など手術リスクが極めて高い場合
  • 余命が極めて短い終末期患者(疼痛管理目的)

長期臥床による合併症リスク(肺炎・深部静脈血栓症・褥瘡)が高く、原則として手術療法が推奨される。

手術適応基準

  • 大腿骨転子部骨折(安定型31-A1を含む)は全例に手術療法が推奨される
  • 手術時期は受傷後24〜48時間以内(JOAガイドライン推奨グレードA)
  • 安定型(31-A1)の第一選択はスライディングヒップスクリュー(SHS)
  • 内側皮質の支持が保たれる場合は2〜4穴プレートのSHSで対応可能
  • 髄内釘(PFNA、Gamma3等)は軟部組織侵襲が少なく骨粗鬆症例にも適用しやすい代替選択肢

いずれの術式においても、TAD(Tip-Apex Distance)25mm以下の維持がカットアウト予防の最重要項目である。

治療選択アルゴリズム — 骨折タイプ・患者背景に基づく方針決定フロー
治療選択アルゴリズム — 骨折タイプ・患者背景に基づく方針決定フロー

診断・評価

受傷後に股関節部の疼痛、患肢の外旋・短縮変形、荷重不能を呈する。大腿近位部の腫脹・皮下出血を認めることが多い。

身体所見として大転子部の圧痛・叩打痛が特徴的であり、患肢の外旋変形(外旋45〜90度)が著明に認められる。

転子部骨折では大腿骨頸部骨折(Pauwels分類)と異なり、骨折部への血流障害が少なく骨頭壊死の発生率は低い。MRIは単純X線陰性の不全骨折(occult fracture)の診断に有用であり、受傷後48〜72時間以内の施行が推奨される。

【必須】 骨盤正面X線、患側大腿骨正面・側面X線

【推奨】 術前CTによる骨折形態の詳細評価(特にA2/A3との鑑別、後壁骨皮質の評価)

MRI:単純X線陰性かつ骨折疑いの場合に施行

術中透視(Cアーム)の3方向評価

方向確認項目
AP像頸体角・内側皮質・整復アライメント評価
軸位像(最重要)頭頸部内インプラントの前後位置確認
側面像骨折端の前後アライメント確認

TAD(Tip-Apex Distance)は術中にAP像距離と軸位像距離を加算して計測し、25mm以下を目標とする。

X線正面像 — 骨折線・転位・短縮の確認
X線正面像 — 骨折線・転位・短縮の確認

X線側面像 — 矢状面方向の転位評価
X線側面像 — 矢状面方向の転位評価

CT冠状断(骨条件 + 3D再構成)
CT冠状断(骨条件 + 3D再構成)

整復基準

許容される整復

  • AP像:内側皮質に接触があること(medial cortex contact)
  • AP像:頸体角が正常範囲(125〜135度)で内反変形がないこと
  • AP像:大転子が正常位置にあること(外反変形なし)
  • 軸位像:前方皮質が連続していること
  • 軸位像:約15度の前捻(anteversion)が保たれていること
  • 短縮変形は軽度(1cm以内)まで許容可
  • TAD(Tip-Apex Distance)25mm以下

許容されない変形

  • 内反変形(varus deformity):頸体角120度未満
  • 内側皮質にgap(骨折端間の開大)がある場合
  • 回旋変形(10度以上)
  • 軸位像でのstep-off(2mm以上)

手術手技

体位

手術体位・手術台セットアップ
手術体位・手術台セットアップ

骨折台での仰臥位(標準): 転子部骨折・頸部骨折への標準的体位。骨折台での牽引と下肢内旋により整復を行う。会陰部に牽引ポストを当て、患肢を牽引しながら内旋・外転させて骨折を整復する。非手術側は外転位に固定し術野と透視アクセスを確保する。

術中透視はAP像・軸位像(最重要)・側面像の3方向で確認する。牽引による閉鎖整復が容易で、髄内釘・SHSいずれにも対応可能。

アプローチ

アプローチ解剖図 — 皮膚切開線と剥離層
アプローチ解剖図 — 皮膚切開線と剥離層

近位大腿骨髄内釘アプローチ(標準): 大転子先端から3〜5cmの皮切から髄内釘を挿入する。

  1. 大転子先端の同定
  2. 皮切(3〜5cm)
  3. 殿筋筋膜縦切開(3〜8cm)
  4. 大転子先端または梨状窩への挿入点設定

危険ポイント

  • 挿入点の誤り(前外側への誤挿入)→外反変形の原因
  • 過度の軟部組織損傷
  • 整復前の強制的な釘挿入による医原性粉砕

後外側アプローチ(人工骨頭用): 大腿骨頸部骨折(Garden分類III/IV)への人工骨頭置換術。転子部骨折への適用は稀。

危険ポイント

  • 坐骨神経損傷(大転子後方で前方を走行)
  • 短外旋筋群の過剰切離による不安定性

SHS(Sliding Hip Screw)

術中透視像 — 整復・インプラント設置確認のポイント
術中透視像 — 整復・インプラント設置確認のポイント

適応: 31-A1(安定型転子部骨折)の第一選択。内側皮質支持が保たれる安定型に適する。

1

患者体位

骨折台での牽引・整復(仰臥位)。牽引と内旋により骨折整復を行い、透視でAP像・軸位像の両方向で整復の質を確認する。

🔬 整復確認(AP・軸位):内側皮質接触・頸体角・前捻の確認

2

皮切

大転子外側から遠位に向かう斜切開(10〜15cm)。腸脛靱帯・外側筋間中隔の切開後、大腿骨外側皮質を露出する。

3

ガイドワイヤー挿入とTAD確認

135度のサイドプレート用角度ガイドを使用し大腿骨頭頸部中央に刺入。AP像でセンター-センターまたは下方1/3位置を目標とする。刺入後にTAD(Tip-Apex Distance)を計測し25mm以下を確認する。

🔬 AP像:ガイドワイヤーが頭頸部中央(またはやや下方)を走行していることを確認/軸位像:前後方向中央位置を確認

🔬 TAD計測(AP像距離+軸位像距離)が25mm以下であることを確認。超える場合はワイヤーを再挿入

💡 TADはカットアウトの最強独立予測因子。倍率補正は骨頭径基準で行う

4

スクリュー挿入

ガイドワイヤーに沿ってドリリング・タッピング後、適切なサイズのラグスクリューを挿入する。骨頭軟骨下骨から5〜10mmの位置を目標とする。

5

サイドプレート固定

2〜4穴プレートで大腿骨外側皮質に固定。ノンロッキングスクリューで皮質骨に確実に固定し、バレル部のスライディング機能を確保する。

💡 スクリューをバレルに挿入後、わずかにインパクションして骨折部の圧迫を確認する

ピットフォール

  • 内反整復不十分のままの固定(内側皮質の接触確認が最優先)
  • TAD 25mm超(カットアウト高リスク)
  • ガイドワイヤーの後方偏位(軸位像で後方に位置する)
  • 小転子が大きな骨片として残る場合は31-A2との鑑別を要する

PFNA / 近位大腿骨髄内釘

適応: 31-A1への代替選択肢。生物学的固定が得やすく、骨粗鬆症例でも適用可能。軟部組織侵襲が少なく、早期荷重に有利。

1

患者体位

骨折台での牽引・整復(仰臥位)。SHSと同様に整復を行い、透視で整復の質を確認する。髄内釘ではSHSより前外側への傾きが生じやすいため、特に軸位像での整復確認が重要。

2

挿入点設定

大転子先端(または梨状窩)に挿入点を設定。AP像で大腿骨髄腔軸線上を確認し、前外側への偏位を防ぐ。

🔬 AP像:挿入点が大腿骨髄腔軸線上にあることを確認

💡 PFNAでは大転子先端の前外側1/3に挿入点を設定するデザインが多い。メーカー資料で推奨挿入点を確認すること

3

開口

カニュレイテッドドリルで大転子先端を開口する。ドリルの方向が前外側に偏らないよう注意する。

4

ガイドロッド挿入

髄腔内にガイドロッドを挿入し透視でアライメントを確認する。AP像・軸位像の両方向で大腿骨長軸上にガイドロッドが走行していることを確認する。

🔬 AP・軸位両方向:ガイドロッドが大腿骨長軸に沿って走行していることを確認

5

髄内釘挿入

適切なサイズ(長さ・径)の髄内釘を選択し釘を挿入する。過度の打ち込みは遠位骨皮質の骨折を引き起こすため注意する。

6

近位スクリュー(ブレード)挿入

ターゲティングデバイスを使用してガイドワイヤーを挿入し、TADを計算しながらラグスクリューまたはブレードを挿入する。TAD 25mm以下を確保することが最重要。

🔬 AP像・軸位像:TAD計測(25mm以下を確認)、ガイドワイヤー位置の確認

7

遠位ロッキング

静的ロッキングスクリュー2本で固定する。遠位ロッキング位置が骨幹部応力集中点にならないよう確認する。

ピットフォール

  • 挿入点の前外側への偏位(外反変形の原因)
  • 整復前の強制的な釘挿入による医原性粉砕
  • 遠位ロッキング位置の誤り(応力集中による遠位骨折リスク)
  • 肥満患者では皮切延長が必要になることがある

術後管理

術後X線像(AP / Lateral)— 整復位・インプラント設置位置確認
術後X線像(AP / Lateral)— 整復位・インプラント設置位置確認

手術タイミング: 受傷後24〜48時間以内の早期手術が推奨される(JOAガイドライン推奨グレードA)

術後荷重: 術翌日より全荷重歩行を原則とする(安定型31-A1では早期荷重が予後を改善する)

VTE予防: エドキサバン(リクシアナ)または低分子ヘパリン皮下注を術後12〜24時間より開始

疼痛管理: NSAIDsは腎機能・消化管リスクに配慮しながら使用。アセトアミノフェン定期投与を基本とし、必要に応じてトラマドールなどを追加

リハビリテーション: 術翌日から端坐位、立位練習を開始。理学療法士によるADL訓練・歩行練習を積極的に導入する

フォローアップ

時期主な確認事項
術後2週創部確認、X線撮影(整復位・インプラント確認)
術後6週荷重状況確認、骨癒合評価
術後3ヶ月X線撮影、歩行能力評価、FLS介入確認
術後1年最終評価、対側骨折リスク評価

予後

安定型(31-A1)の術後成績は良好で、骨癒合率は95%以上

指標数値・概要
1年死亡率約15%(高齢者の全身状態に依存)
ADL復帰率約60〜70%
骨癒合率95%以上
術後歩行能力術前歩行能力・認知機能・栄養状態・年齢に強く依存

FLS(骨折リエゾンサービス)介入による二次骨折予防が推奨されており、対側大腿骨近位部骨折の発生リスクは未治療の場合2〜3倍となる。

📋 上級医報告前チェックリスト

  1. 1AO分類コードを確認(31-A1 = タイプA・グループ1:安定型転子部骨折)
  2. 2手術適応を確認(受傷後24〜48時間以内の早期手術が推奨)
  3. 3推奨術式を把握(第一選択 SHS、代替選択肢 PFNA/髄内釘)
  4. 4術中TADの計画(AP像+軸位像の合計25mm以下を目標)
  5. 5注意すべき合併症を把握(カットアウト・DVT・感染・再転位)
  6. 6JOAガイドライン根拠を確認(推奨グレードA・エビデンスレベルI)

文献

  1. 日本整形外科学会(2021)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版). 南江堂. Evidence Level I
  2. Rüedi TP, Buckley RE, Moran CG(2018)AO骨折治療の原則(第3版). Evidence Level II
  3. Baumgaertner MR et al.(1995)The value of the tip-apex distance in predicting failure of fixation of peritrochanteric fractures of the hip. J Bone Joint Surg Am, 77(7):1058–64. DOI: 10.2106/00004623-199507000-00012
  4. Parker MJ, Handoll HH(2008)Gamma and other cephalocondylic intramedullary nails versus extramedullary implants for extracapsular hip fractures in adults. Cochrane Database Syst Rev. DOI: 10.1002/14651858.CD000093.pub4