中足骨(第2〜4中足骨を主体とした中央列)の骨幹部骨折のうち、複合型・粉砕型(複数骨折および/または骨幹部の高度粉砕を含む) 。AO分類81-A3は中足骨骨幹部の複合型・粉砕型骨折に相当し、2本以上の中足骨骨幹部骨折(多発型)および単一中足骨の高度粉砕型を包含する。単発骨折(81-A1)と比較して前足部アーチの複合的な破綻・隣接関節損傷(Lisfranc関節・趾節間関節)の合併リスクが著しく高く 、転位量・アーチ崩壊の有無が機能予後を左右する最重要因子となる。多発骨折では単純X線で転位が過小評価されやすい ため、CTによる三次元評価とLisfranc靱帯損傷の除外が必須である。
重症度・疫学
疫学: 多発中足骨骨折は隣接する中足骨に生じ、第3中足骨骨折の63%は第2または第4中足骨骨折を伴った[3]
好発: 中足骨骨折全体では患者の平均年齢は42歳で、高年齢層ほど女性の割合が高い[3]
受傷機転: 急性の直達外力は足背への重量物の落下などのつぶし外力によるものが最も多く、しばしば隣接する中足骨に横骨折・粉砕骨折を生じる[5]
注意すべき合併症
コンパートメント症候群:つぶし外力による隣接中足骨の横骨折・粉砕骨折では足部のコンパートメント症候群を疑い、適応があれば早期に筋膜切開を行う[5]
Lisfranc関節損傷合併(足根中足関節脱臼骨折):多発骨折の約20〜30%に合併。見逃すと慢性扁平足・変形性関節症の原因となる。なお多発中足骨骨折にLisfranc関節の不安定性(第1〜2中足骨間隙 ≥2mm・fleck sign)が認められる場合は81-B系(Lisfranc損傷)としての管理を検討する
変形癒合(malunion):疼痛のない荷重には中足骨頭の横断面・矢状面での正しいアライメントが必要で、中足骨骨折後の短縮や角状変形は避けなければならない[1]
偽関節(nonunion):第5中足骨近位部骨折では遷延癒合や偽関節の可能性に留意する[1]
伸筋腱・屈筋腱損傷:背側軟部組織への直達外力による腱の断裂・絞扼
足背動静脈・深腓骨神経損傷(第1・2中足骨間で最多)
DVT/PE(免荷期間中の静脈血栓リスク)
治療方針
⚠️ 保存療法
→ 骨折のみで手術を決めず、軟部組織の状態と患者要因を評価して治療法を選ぶ[1] → ギプスまたはウォーキングブーツで固定し、段階的に荷重を進める → 標準・ストレス下・荷重下X線で2mm超の転位を呈する不安定型の足根中足関節損傷を合併する場合は手術的治療の適応となる[1] → 多発型では保存療法中の遅発性転位に注意し、1〜2週以内にX線再評価を行う
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 手術適応:遠位の斜骨折(短縮が頻発する)、および短縮や角状変形が明らかに起こりうる症例では観血的なプレート・スクリュー固定を考慮する[1] ℹ K-wire固定(髄内固定):複数列の横骨折では中足骨は剪断による短縮をしないため、数本のK-wireによる髄内固定が有効。K-wireは趾節骨の足底面から挿入し、対応する中足趾節関節を解剖学的な位置で貫通固定する[1] ℹ プレート固定:短縮や角状変形が起こりうる症例に観血的なプレート・スクリュー固定を行う。第2・第3列は共通の中足骨間縦皮切、第4・第5列は対応する背側の中足骨間縦皮切から進入できる[1] ℹ スクリュー固定:遠位の斜骨折など短縮や角状変形が起こりうる症例では、プレートと組み合わせてスクリューで固定する[1] ℹ 創外固定:重度の軟部組織損傷を伴う挫滅足では、K-wire・スクリュー・創外固定器の併用と、露出した骨の早期の軟部組織被覆が最適な選択肢とされる。一方で重度の挫滅足では一期的な膝下切断のほうが成績がよいことを示唆する研究もあり、特に地雷による爆風損傷に当てはまる[1] ℹ Lisfranc損傷合併:解剖学的整復が成績と直接関連する。純粋な靱帯損傷は成績がより悪いとされ、多くの術者は関節の一期的固定を選ぶ[1]
治療選択アルゴリズム
診断・評価
Lisfranc損傷を合併すると、足根中足関節部の圧痛、中足部背側の腫脹と足底内側部の内出血 を認め、立位が可能でも片側つまさき立ちで疼痛を訴える。腫脹が著しい症例ではコンパートメント症候群の可能性がある [1] 。
X線(正面・側面・斜位): 初期評価には荷重を模した正面・側面像と斜位像を含める。臨床的にLisfranc型損傷が疑われる場合は、健側像や後前像も必要となりうる[5] 。
CT: CTやMRIなどの高度な画像検査は足根中足関節複合体の三次元的解剖を描写し、中足骨基部骨折など合併損傷の評価に有用である[1] 。
術前X線正面・斜位像 — 第2〜4中足骨骨幹部多発骨折・各骨折の転位量・Lisfranc関節整合性の評価
CT冠状断・矢状断 — 多発骨折の骨片数・転位方向・Lisfranc関節面・前足部アーチ崩壊の三次元評価
✅ 許容される整復
✓ 中足骨の短縮がない[1] ✓ 角状変形がない[1] ✓ 中足骨頭が横断面・矢状面の両方で正しいアライメントにある[1] ✓ Lisfranc関節の整合性が維持されている(各中足骨基部と相対する足根骨との間に2mm超の転位がない)[1] ✓ 骨折断端の回旋変形なし(足趾の向きが正常軸)
❌ 許容されない変形
✕ 中足骨の短縮や角状変形(疼痛のない荷重には中足骨頭の横断面・矢状面での正しいアライメントが必要)[1] ✕ 中足骨頭の横断面・矢状面でのアライメント不良(疼痛のない荷重の妨げとなる)[1] ✕ Lisfranc関節の不整合 — 足根中足関節脱臼骨折では初回整復の質が成績不良の主な決定因子で、足根部の不安定性と晩期の変形性関節症が症状の主因となる[2] ✕ 骨折部の高度回旋変形(足趾の重なり) ✕ つぶし外力による骨折での足部コンパートメント症候群 — 疑って評価し、適応があれば早期に筋膜切開を行う[5]
手術手技
体位
仰臥位: 透視で足部の正面・側面・斜位像を確認できるようにC-armを配置する。
手術体位・C-arm配置 — 仰臥位・前足部突出・背側・斜位透視設定
ORIF(プレート+スクリュー) — 遠位の斜骨折や短縮・角状変形が起こりうる症例
皮膚切開(Step 1): 第2・第3中足骨には共通の背側中足骨間縦皮切を用いる。第4・第5中足骨も対応する背側の中足骨間縦皮切から進入できる[1]
骨折露出と整復(Step 2): 骨折部を展開して整復する
斜骨折のスクリュー固定(Step 3): 遠位の斜骨折では短縮が頻発するため、プレートおよびスクリューで観血的に固定する[1]
プレート設置(Step 4): プレートを設置し、スクリューで固定する
K-wire固定(Step 5): 複数列の横骨折では数本のK-wireで髄内固定する。K-wireは趾節骨の足底面から挿入し、対応する中足趾節関節を解剖学的な位置で貫通固定する[1]
最終確認(Step 6): 各中足骨頭が横断面・矢状面の両方で正しいアライメントにあることを確認する[1]
閉創(Step 7): 止血を確認し、皮膚に過度の張力をかけずに閉創する
術中透視・ORIF手技 — 背側ミニプレート(2.4mmロッキング)とK-wire髄内固定の比較・整復位・implant設置方法
⚠️ ORIF ピットフォール
✕ コンパートメント症候群の見逃し — 圧挫などで隣接する中足骨に横骨折・粉砕骨折が生じた例では、足部コンパートメント症候群を疑い、適応があれば早期に筋膜切開を行う[5] ✕ 深腓骨神経・足背動脈の損傷 — 第1〜2骨間の切開では解剖学的走行を確認してから伸筋腱を牽引する ✕ 中足骨頭のアライメント不良の残存 — 複数の中足骨を処理する際は、各中足骨頭が横断面・矢状面の両方で正しいアライメントにあることを確認する[1] ✕ 回旋変形の見落とし — 骨折部の回旋は正面X線では判定困難。足趾の向き・爪の方向・臨床的確認が必須 ✕ Lisfranc損傷の見逃し — 臨床的に強く疑われる場合や痛覚が低下している場合は、早期の見逃しとその後の長期不良を避けるため追加の画像検査を行う[4]
術後管理
術後X線正面・斜位像 — ミニプレート・K-wire固定後の整復位確認・前足部アーチ回復・各中足骨頭高さの均等化
手術タイミング: 骨折だけを根拠に手術を決めず、軟部組織の状態と患者要因を評価してから判断する。高エネルギー外傷は軟部組織関連の合併症のリスクが高い[1]
術後荷重: 術後0〜6週は完全非荷重(前足部に荷重をかけない)。K-wire固定は術後4〜6週で抜釘後にギプスブーツ装着で荷重開始。プレート固定は術後6〜8週のX線で骨癒合初期像確認後、4〜6週かけてtoe-touch → 部分荷重へ移行。目標:術後10〜14週での全荷重(骨癒合確認後)
VTE予防: エドキサバンまたは低分子ヘパリン皮下注を術後12〜24時間より開始(最低14日間、高リスク例では術後35日まで延長)。弾性ストッキング・間欠的空気圧迫装置を併用
疼痛管理: 多モード鎮痛(NSAIDs・アセトアミノフェン・局所浸潤麻酔)。術後48〜72時間はアイシング(1回20分、1日3〜4回)を積極的に併用。足部挙上(心臓より高く)を徹底。オピオイドは術後48〜72時間に限定
リハビリテーション: 疼痛のない歩行には中足趾節関節の自動屈曲が欠かせない。治療では中足趾節関節の運動機能を保つことを目指す[1]
フォローアップ
術後2週: 抜糸・創部確認・X線(整復位維持・implant位置・創部離開の有無)
術後4〜6週(K-wire固定): X線確認後に抜釘・ウォーキングブーツへ移行
術後6〜8週(プレート固定): X線(骨癒合初期兆候・荷重増量の判断)
術後10〜12週: X線(骨癒合の評価・全荷重達成確認・implant不快感の確認)
術後6ヶ月: X線(骨癒合完成・前足部アーチの維持・隣接関節症の評価)
術後12ヶ月: X線(最終骨癒合・機能評価・スポーツ復帰判断)
予後
骨癒合率:約85〜95%(固定方法・骨折型・患者因子による)
前足部機能回復:適切な治療により、ほとんどの例で受傷前の機能状態に戻ることが期待できる[5]
偽関節リスク:第5中足骨近位部骨折(Jones骨折を含む)は、転位のない例の保存療法でも遷延癒合や偽関節の可能性に留意する[1]
変形性関節症(Lisfranc関節):Lisfranc関節の脱臼骨折では、遺残症状の多くが足根部の不安定性と晩期の変性関節症によるもので、不良成績の主な決定因子は初期整復の質である[2]
スポーツ復帰:術後4〜6ヶ月が目安。競技スポーツは術後6〜12ヶ月(骨癒合完成・足部機能回復後)
📋 上級医報告前チェックリスト
1 骨折した中足骨の本数・部位・骨折型(横骨折・斜骨折・粉砕の有無)を記録 2 足部コンパートメント症候群の評価完了(隣接する中足骨の横骨折・粉砕骨折では疑ってかかり、早期筋膜切開の適応を判断)[5] 3 Lisfranc損傷の除外(可能なら立位X線の正面・側面・30°内側斜位で各中足骨基部と足根骨のアライメントを確認。2 mm超の転位は不安定性を示唆)[1] 4 各中足骨の短縮・角状変形と、中足骨頭の横断面・矢状面のアライメントの評価[1] (X線は正面・側面・斜位[5] ) 5 足趾の神経血管評価(足背動脈・深腓骨神経・足趾感覚・毛細血管再充填時間) 6 術式選択の根拠の記録(横骨折ならK-ワイヤ髄内固定、遠位の斜骨折や短縮・角状変形が起こりうる骨折ならプレート・スクリュー固定)[1] 7 手術適応の判断(軟部組織の状態と患者要因の評価)[1] 8 VTE予防薬の処方確認(長期非荷重のためリスク高)
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Myerson MS, Fisher RT, Burgess AR, et al.(1986)Fracture dislocations of the tarsometatarsal joints: end results correlated with pathology and treatment. Foot Ankle, 6:225–42. PMID: 3710321
Petrisor BA, Ekrol I, Court-Brown C(2006)The epidemiology of metatarsal fractures. Foot Ankle Int, 27(3):172–4. PMID: 16539897
Sherief TI, Mucci B, Greiss M(2007)Lisfranc injury: how frequently does it get missed? And how can we improve? Injury, 38(8):856–60. PMID: 17214988
Armagan OE, Shereff MJ(2001)Injuries to the toes and metatarsals. Orthop Clin North Am, 32(1):1–10. PMID: 11465121
Renninger CH, Cochran G, Tompane T, et al.(2016)Injury characteristics of Lisfranc injuries compared with isolated metatarsal fractures. J Orthop Trauma, 30(9):e292–5.