距骨頸部の骨折のうち、距骨下関節・距腿関節ともに転位を生じない安定型(Hawkins I型) 。AO分類71-C1に相当する。距骨は足部の要石であり、血流が乏しい特殊な解剖学的構造を有するため、骨頭壊死(AVN)が最大の合併症リスク となる。Hawkins I型はAVNリスクが最も低いが、見逃し・不適切な荷重による二次転位に注意が必要である。早期画像評価と適切な荷重管理が機能予後を左右する 。
重症度・疫学
疫学: 距骨頸部骨折の発生は稀で、多くは高エネルギー外傷による[4]
好発: 高エネルギー外傷による受傷が多く、多発外傷に合併する[1]
受傷機転: 手術治療を受けた距骨頸部骨折100例では、自動車事故60例・高所転落27例が多かった[4]
Hawkins分類: I型(非転位)→ II型(距骨下関節転位)→ III型(距腿・距骨下両関節転位)→ IV型(距舟関節も脱臼)と重症度が上がるにつれてAVNリスクが増大
注意すべき合併症
距骨の阻血性壊死(AVN):報告ではHawkins I型で最大13%(II型で最大50%、III型で最大84%、IV型で最大100%)[4]
外傷後変形性関節症:距骨頸部骨折後は距骨下関節症が多く、その頻度は60〜100%[1]
Hawkinsサイン:X線mortise像で距骨滑車の軟骨下骨に骨透亮像を認めれば血行があり、AVNの可能性が低い(予後良好のサイン)[1]
偽関節:頸部骨折ORIF後の60骨折中2骨折(3.3%)[4]
変形癒合:術中の整復不良や、整復後の骨癒合前の再転位が原因となる[1]
深部静脈血栓症(DVT):長期非荷重・ギプス固定中に発生リスク
皮膚壊死:距骨体部の脱臼例では脱臼骨片の圧迫による二次的な皮膚壊死が起こりうる[1]
治療方針
⚠️ 保存療法(Hawkins I型の選択肢)
→ 転位のない距骨頸部・体部骨折は非手術的に治療されることがある[5] → 短下肢ギプスまたは歩行用ブーツで固定(6〜8週)、非荷重管理 → CTで頸部・体部に転位がないことが条件[1] → 高齢者・活動性が低く手術リスクが高い患者では保存療法を積極的に考慮 → 転位を認める場合は外科的介入を選択する[1]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 転位のある距骨頸部骨折ではアライメントの回復・維持のため手術治療が必要[4] ℹ 活動的な若年患者・スポーツ選手では積極的に内固定を選択 ℹ 距骨頸部の固定に用いる主な進入法は前内側進入法と前外側進入法で、正確な整復と安定した固定には両方を要することがある[1] ℹ スクリュー方向:一般に距骨頭部から距骨体部へ向け、距骨頭部の内側または外側面から挿入し、ヘッドを埋没させて距舟関節でのインピンジメントを避ける[1] ℹ 許容できる整復の基準には議論があり、2mmを許容上限とする研究がある[6]
治療選択アルゴリズム — Hawkins分類に基づく術式選択フロー
診断・評価
距骨頸部骨折ではしばしば軟部組織の損傷と腫脹を認める。高エネルギー外傷では体部後方の脱臼、内果骨折、その他の同側足部・足関節部骨折の合併を確認する。距骨体部の後内側脱臼では、距骨後方が距腿関節窩に整復されなければ皮膚壊死・神経血管損傷の合併が予想される [1] 。
X線正面像・側面像・斜位像(Canale view): 足関節(正面・側面・mortise像)と足部(正面・側面・斜位像)を撮影し、距骨頸部の詳細な描写には管球を頭側・内側に15°傾斜させるCanale像を撮影する[1] 。
CT: 矢状面・冠状面を含む再構築CTをルーチンで撮影する。骨折と転位を詳細に描写し、距骨下関節内の粉砕部と関節内遊離片を同定し、整復と外科的アプローチの計画に役立つ[1] 。
MRI: 阻血性壊死の予後判断にMRIを使用するときは留意が必要である[1] 。
術前X線正面・側面像 — 距骨頸部骨折線・転位量・距骨下関節の整合性を評価
CT矢状断・軸位断 — 転位量の三次元評価・距骨下関節・距腿関節の関節面整合性確認
✅ 許容される整復
✓ 目標は解剖学的整復(頸部・体部に段差も角状変形もない状態)[5] ✓ 距骨下関節・距腿関節の関節面整合性が保たれている ✓ 距骨頸部の内反変形がない(内反は距骨下関節の運動制限・外がえし制限に直接関係する)[1] ✓ Canale viewで頸部の変形がない(内側粉砕を過小評価すると内反変形を生じうる)[4]
❌ 許容されない変形
✕ 解剖学的整復が得られない転位の残存(アライメントの回復・維持が外傷後関節症を抑えうる)[4] ✕ 距骨頸部の内反変形(内側列が短縮し、後足部が内反・内旋位に固定される)[6] ✕ 距骨下関節・距腿関節の脱臼(Hawkins II型以上)は緊急整復が必要[4] ✕ 距骨頸部の内反変形の残存(後足部が内反・内旋位に固定される)[6]
手術手技
体位
仰臥位(標準): 放射線透過性の手術台に仰臥位とし、ターニケットを装着する(加圧は出血制御が必要な場合のみ)[5] 。
体位・透視設定 — 仰臥位・殿部挙上・足関節末端突出配置
ラグスクリュー固定 — 骨片同士の良好な接触が得られる場合
適応: CTで頸部・体部に転位を認める距骨頸部骨折(距骨ではいずれの転位も外科的介入が必要)[1] 。
整復確認(Step 1): 距骨下関節脱臼を合併する場合は、膝を屈曲して腓腹筋を弛緩させ、足を牽引しながら足関節を底屈して非観血的整復を試みる[1]
アプローチ決定(Step 2): 前内側進入法・前外側進入法を用い、正確な整復と安定した固定には両方を要することがある。前外側進入法では距骨下関節と距骨頸部外側・外側突起を展開できる[1]
ガイドワイヤー刺入(Step 3): 距骨頭部の内側または外側面から距骨体部に向けて刺入し、スクリューヘッドは埋没させて距舟関節でのインピンジメントを避ける[1]
スクリュー設置(Step 4): 骨片同士の良好な接触が得られればラグスクリューで固定し、粉砕部をまたぐ固定にはポジショニングスクリューかプレートを用いる[1]
内反変形の防止(Step 5): 内側粉砕がある場合、内側列への圧迫固定は過度の圧迫でそれ自体が内反変形を生じうるため注意する[6]
最終透視確認(Step 6): Canale viewで変形を評価し、内側粉砕の過小評価による内反変形がないことを確認する[4]
⚠️ スクリュー固定 ピットフォール
✕ 距骨頸部の内反変形は内側列を短縮させ、後足部を内反・内旋位に固定する[6] ✕ 距骨頭部から挿入するスクリューはヘッドを埋没させ、距舟関節でのインピンジメントを避ける[1] ✕ 距骨体部への主要な血行は足根管動脈に由来し、手術進入法や深部の展開を計画する際に血管の位置関係を考慮する[1] ✕ 距骨頸部骨折では整復の質が良いほど骨癒合の可能性が高い[5] ✕ Canale viewを省略すると頸部内側の粉砕を過小評価し、内反変形を来しうる[4]
術後管理
術後X線正面・側面像 — スクリュー位置・整復位・Hawkins sign評価(術後6〜8週)
手術タイミング: 距骨頸部骨折の手術時期については意見が一致しておらず、早期固定で阻血性壊死が減るとされる一方、手術時期が結果に及ぼす影響は明確でない。距骨体部脱臼・神経血管損傷・開放骨折・過剰な軟部組織への圧迫があれば早期の外科的介入が必要[1]
術後荷重: 骨癒合のため患肢の荷重は少なくとも6〜12週以上禁止し、6週と12週でX線像上の骨癒合や血管新生の徴候を評価する[1]
VTE予防: エドキサバンまたは低分子ヘパリン皮下注を術後12〜24時間より開始(最低14日間。長期非荷重例では継続延長)。弾性ストッキング・間欠的空気圧迫装置を併用
疼痛管理: 多モード鎮痛(NSAIDs・アセトアミノフェン・局所浸潤麻酔)。オピオイドは術後48〜72時間に限定
リハビリテーション: 術後は足を中間位にして後方副子で保持し、創治癒に問題がなければ可及的早期から無制限の足関節・距骨下関節の自動可動域運動を開始する[1]
フォローアップ
術後2週: X線(正面・側面・mortise像)[5]
術後6週: X線(骨癒合・血管新生の徴候〔Hawkinsサイン〕の評価)[1]
術後10〜12週: X線(骨癒合の確認。癒合が確認されるまで非荷重)[5]
術後6ヶ月: X線(距骨の血流の再確認。以後6か月ごとに2年間続ける)[1]
術後12〜24ヶ月: X線(6か月ごとに距骨の血流を再確認)。MRIで阻血性壊死の予後を判断するときは留意する[1]
予後
Hawkins I型の骨癒合率:約85〜95%(適切な固定・荷重管理下)
距骨の骨壊死(AVN):報告されている発生率の上限はHawkins I型13%、II型50%、III型84%、IV型100%[4]
Hawkins sign:転位型の孤立性距骨頸部骨折16例で、骨壊死予測の感度67%・特異度86%・正確度75%[5]
外傷後足関節症:距骨頸部骨折のORIF後、39例中7例(18%)[4]
距骨下関節症:距骨頸部骨折後に多くみられ、頻度は60〜100%[1]
足関節可動域:適切なリハビリで背屈10〜15°・底屈30〜40°を目標
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(71-C1 = 距骨頸部骨折・Hawkins I型・非転位型) 2 Hawkins分類の確認(I型:転位なし / II型:距骨下関節の脱臼・亜脱臼 / III型:距腿・距骨下関節の脱臼・亜脱臼 / IV型:さらに距舟関節の脱臼・亜脱臼)[1] 3 CTによる転位量・関節面整合性の評価完了(隠れた転位の除外) 4 神経血管損傷の評価完了(神経血管損傷があれば早期の外科的介入が必要)[1] 5 治療方針の決定(CTで転位を評価し、転位があれば外科的治療)[1] 6 距骨頸部内反変形の確認(内側粉砕例では内側列への過度な圧迫固定が内反変形を生じうる)[6] 7 AVNリスク・Hawkinsサインの説明(術後6週・12週のX線で血管新生の徴候を評価する予定を説明)[1] 8 術後荷重スケジュール確認(X線上血管新生の徴候がない例に長期の荷重制限をしても、血行再開や結果改善の根拠はない)[1] 9 VTE予防薬の処方確認(長期非荷重のため継続管理)
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Hawkins LG(1970)Fractures of the neck of the talus. J Bone Joint Surg Am, 52(5):991–1002. PMID: 5479485
Canale ST, Kelly FB Jr(1978)Fractures of the neck of the talus. Long-term evaluation of seventy-one cases. J Bone Joint Surg Am, 60(2):143–56. PMID: 417084
Vallier HA, Nork SE, Barei DP, et al.(2004)Talar neck fractures: results and outcomes. J Bone Joint Surg Am, 86(8):1616–24. PMID: 15292407
Lindvall E, Haidukewych G, DiPasquale T, et al.(2004)Open reduction and stable fixation of isolated, displaced talar neck and body fractures. J Bone Joint Surg Am, 86(10):2229–34. PMID: 15466732
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