踵骨の後距踵関節(posterior facet)を含む関節内骨折のうち、骨折線が3骨片以上を形成する陥没・粉砕型 (Sanders III型)。AO分類71-B2に相当し、踵骨高の喪失(Böhler角の減少)・後距踵関節面の粉砕が特徴。関節面の解剖学的整復が困難なため、プライマリー固定術後の変形性距踵関節症リスクが高く、術式選択に際しては患者背景(年齢・活動性・喫煙・糖尿病)を含めた慎重な検討が必要 。
重症度・疫学
発生頻度: 踵骨骨折は多く発生し、足根骨損傷の約60%を占める[1]
好発: 受傷時年齢は平均40歳(15〜68歳)で6割超が30〜49歳、37%は労災に関連する受傷である[3]
受傷機転: 高所からの転落や交通事故などの高エネルギー外傷に起因し、軸圧で距骨が尾側方向へ踵骨に押される。骨折の重症度・分類・部位は足の位置、かかった外力の方向・強さ、骨質に左右される[1]
治療方針: 転位している踵骨関節内骨折の治療は議論が分かれ、関節の転位が最小限の場合・踵骨全体の位置が許容範囲内の場合・手術治療が禁忌の場合は保存的に治療する[1]
注意すべき合併症
距骨下関節症(上関節面を正確に整復しても発生する可能性があり、粉砕が著しいほど末期の距骨下関節症との関連性が高い。永続的な症状の場合は距骨下関節固定が必要となることがある[1] )
創傷治癒の問題(拡大外側進入法の皮切の角は皮膚壊死が起こりやすい。開放骨折・喫煙・コンプライアンス不良・糖尿病が危険因子[1] )
外側壁骨片の外方化による腓骨のインピンジメント[1]
内側進入時の後脛骨神経血管の損傷(内側壁は厚く、足趾屈筋腱および後脛骨神経血管が近接する[1] )
コンパートメント症候群(足部、特に高エネルギー損傷例・10〜15%)
変形癒合(不十分な整復あるいは整復位の保持不全に由来する。隆起の内反転位は足底の接地面を変化させ、足や足関節における正常な荷重ができなくなる[1] )
DVT/PE(下肢骨折・長期免荷によるリスク上昇)
治療方針
⚠️ 保存療法(相対的適応)
→ 末梢血管疾患・神経障害・内科的に体調不良の患者、アルコールおよび/または薬物乱用のある患者では手術は禁忌であり、保存療法を考慮する[1] → 喫煙・糖尿病・開放骨折では術後創傷治癒の問題が発生しやすく、腫脹や水疱のある足は手術の禁忌となる[1] → 保存療法の方法:早期から機能訓練を開始し、軟部組織の腫脹が適度に消退してから足関節や距骨下関節の全可動域運動を始める。通常6〜12週後に骨折治癒が確認されるまで荷重を制限する[1]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 拡大外側進入法によるORIF:踵骨外側全体・前方突起・中関節面を展開する。縦皮切はアキレス腱と平行、横皮切は踵骨の足底面と平行にとる[1] ℹ 拡大外側進入法で合併症のリスクが高い患者や症例を選んだ場合には、限定的な外側進入である足根洞(sinus tarsi)進入法が有用となりうる[6] ℹ 重度の関節粉砕では、一次的に距骨下関節を固定し踵の形態を再建する方法も選択肢となる[1] ℹ 整復は前方突起・隆起骨片・後距踵関節面の外側関節骨片の順に行い、最後に外壁を元に戻す[1] ℹ 踵骨を整復することによって踵部全体の形態および距骨下・踵立方関節面を再建することが目標となる[1]
治療選択アルゴリズム
診断・評価
踵骨部には軟部組織の著しい腫脹が多くみられる。転位した関節内陥没型では骨折転位により内側または外側の皮膚に強い張力が生じ、水疱が生じることがある[1] 。
X線(足3方向と軸射位〈Harris view〉): 側面像でBöhler角(正常25〜40°)の減少により関節損傷と転位(陥没)の重症度を評価し、軸射位像で一次的な関節の転位・隆起の角変形・踵幅の増加をみる[1]
CT(必須): 骨折形態を完全に理解するには横断面と冠状面のCTが不可欠で[1] 、Sanders分類は後距踵関節が最も広く載距突起が見える冠状断で2mmを超える転位のある骨折線の数により、1本をII型、2本をIII型、3本以上をIV型とし、骨折線は外側から内側へA・B・Cと表記する[6]
術前X線(側面像・Harris axial view) — Böhler角の減少・Gissane角の変化・踵骨短縮・外側壁膨隆を評価
CT冠状断・三次元再構成 — Sanders III型骨折パターン(後距踵関節3骨片分裂)の評価と術前計画
✅ 許容される整復
✓ Böhler角の回復(正常値は25〜40°)[1] ✓ 後距踵関節面の転位 ≦2mm(労災補償を受けていない患者では、段差や間隙が≦2mmの整復は、>2mmや粉砕整復より良好な成績[3] ) ✓ 踵骨幅の正常化(関節外転位による横径の増大の是正)[1] ✓ 踵骨の高さと長さの回復(術中透視や単純X線の側面・軸射・斜位像で評価する)[1] ✓ 後足部アライメントに内反を残さない(術中の軸射位像で踵骨再建に内反がないことを確認する)[1]
❌ 許容されない変形
✕ 後距踵関節面の2mmを超える転位(距骨下関節の整復不良は関節症の発生に関係する[1] ) ✕ Böhler角の回復不良(受傷時のBöhler角が0°以下の場合、より多くの症例で距骨下関節固定を施行する結果となっている[1] ) ✕ 外側壁の外方化の残存(腓骨のインピンジメントの原因となる[1] ) ✕ 隆起の内反転位の残存(足底の接地面が変化し、足や足関節における正常な荷重ができなくなる[1] ) ✕ 後距踵関節面の外側関節骨片の陥没・嵌入の残存[1]
手術手技
体位
側臥位(患側上): 患者を側臥位にしてドレーピングと消毒を行う。滅菌した枕を患側の足関節の下におき足をわずかに内反させ、側面像と軸位像を撮影するときは透視装置を手術台の尾側から入れる。透視画像は手術チームと放射線技師に全景が見えるように配置する[1] 。
体位・透視設定 — 側臥位(患側上)・Cアーム配置・止血帯設置。術中透視で側面・軸位像確認が可能な配置
ORIF — 外側拡大アプローチ(Extensile Lateral Approach)
皮切(Step 1): 縦皮切はアキレス腱のすぐ前方で腓骨遠位端のやや近位から始め、横皮切は外側踵骨動脈に栄養されるアンジオソームの縁に相当する皮下出血の遠位端に沿っておき第5中足骨基部遠位に達する。踵で比較的鋭角に2つの皮切をつなげる。腓腹神経は皮切の近位部と遠位部で損傷するリスクがある[1]
全層皮弁の剥離(Step 2): 踵骨外側を骨膜下に剥離して全層性(骨膜-筋膜-皮膚を含む)の皮弁を作製する。この皮弁は腓腹神経・腓骨筋腱・踵腓靱帯を含む。皮弁は徒手的に牽引するか、距骨および/または外果・立方骨に挿入したK-ワイヤで視野を確保し、進入や整復の最中に皮弁を保護する[1]
腓腹神経の保護(Step 3): 皮弁は腓腹神経・腓骨筋腱・踵腓靱帯を含み、皮切の近位端と遠位端では腓腹神経を損傷する危険性がある[1]
外側壁の展開(Step 4): 後外側関節骨片および踵腓靱帯を展開するために、踵骨外壁を翻転しないといけない場合もある[1]
後距踵関節面の整復(Step 5): 骨膜剥離子で隆起骨片の嵌入を解除し、転位しない載距突起骨片を指標に隆起骨片を整復する。次に陥没・嵌入した外側関節骨片を整復して後距踵関節面の解剖学的整復を得、K-ワイヤで一時的に整復位を保持して載距突起に挿入した3.5mmの皮質骨ラグスクリューで固定する[1]
プレート固定(Step 6): 外側プレートは隆起骨片から前方突起までかかり、プレート穴をとおして内側載距突起も個別にスクリュー固定できるのが理想的である。小さく薄い(low-profile)インプラントは大きく厚めのプレートと同様の生体力学的性質をもち、整復した後距踵関節面に対するラグスクリューはプレート穴をとおすか単独で挿入する[1]
最終確認(Step 7): 踵骨全体を整復しK-ワイヤで整復位を保持したうえで、直視および透視で術中評価を行う。術中透視または単純X線(Broden view)で側面・軸射・斜位像を撮影し、隆起と後距踵関節面の整復状態および踵骨の高さ・長さを評価する[1]
⚠️ 外側拡大アプローチのピットフォール
✕ 皮弁角部の血流障害 — 拡大外側進入法の皮切の角は皮膚壊死が起こりやすく、皮膚弁の角を供給する血流の大部分は外側踵骨動脈が担うため、進入や整復の最中は皮弁を保護する[1] ✕ 腫脹・水疱のある足での手術 — 外科的禁忌であり、足部外側の手術創予定部位にしわがよるまで(通常受傷後7〜14日)待機する[1] ✕ 後距踵関節面の整復不全 — 後距踵関節面の整復は骨片間に嵌入した隆起骨片を挙上整復した後にのみ行え、陥没・嵌入した外側関節骨片の整復が不十分だと関節面不整合が残存する[1] ✕ 載距突起へのスクリュー固定 — 載距突起骨片の位置とこの部位の骨密度は整復固定の重要な鍵で、整復位をK-ワイヤで保持したうえで載距突起に3.5 mmの皮質骨ラグスクリューを挿入する[1] ✕ 距骨下関節へのスクリュー穿通 — 術中に直視および透視で整復と固定位置を評価する。後距踵関節面を穿通したスクリューは抜釘のための再手術を要することがある[3]
術後管理
術後X線(側面像・Harris axial view) — 踵骨プレート固定後のBöhler角回復・関節面整復・踵骨幅正常化を確認
手術タイミング: 軟部組織の状態が手術時期を決定する最重要要素であり、ORIFは腫脹が軽減するまで遅らせる。足部外側の手術創予定部位にしわがよること(wrinkle sign)が適切な手術時期の目安で、通常受傷後7〜14日である。待機中は患肢の挙上が不可欠[1]
術後荷重: 粉砕の程度や固定の安定性によるが、荷重は術後8〜12週まで行わない。活動は症状によって徐々に拡大し、受傷から6か月間は衝撃の強い動作を避ける[1]
VTE予防: エドキサバンまたは低分子ヘパリン皮下注を術後12〜24時間より開始(最低14日間、高リスク例では28日間)。弾性ストッキング・間欠的空気圧迫装置を入院中は継続
術後の患肢管理: 創治癒に対する考慮から、数日間は下肢を心臓よりやや高く挙上する[1]
リハビリテーション: 創部の状態が許せばすぐに、通常術後2〜5日で足関節および距骨下関節の可動域運動を開始する。活動は症状によって徐々に拡大するが、受傷から6か月間は衝撃の強い動作を避ける[1]
フォローアップ
術後2〜5日: 創部の状態が許せば足関節および距骨下関節の可動域運動を開始[1]
術後6週: X線(側面像・軸射位像で整復位の維持を評価。荷重は術後8〜12週まで行わない)[1]
術後12週: X線(側面像・軸射位像。粉砕と固定の安定性に応じ、荷重は術後8〜12週まで行わない)[1]
術後6ヶ月: X線(側面像・軸射位像)。受傷から6か月間は衝撃の強い動作を避ける[1]
術後12ヶ月: X線(側面像・軸射位像で距骨下関節症を評価。永続的な症状があれば距骨下関節固定を検討)[1]
予後
骨癒合率:約90〜95%(ORIF施行例)
距骨下関節症:踵骨の上関節面を正確に整復しても発生する可能性がある[1] 。拡大外側進入法後の二次的な距骨下関節固定術の施行率は4.2〜5.6%[6]
機能予後:拡大外側進入法では各種の評価尺度でgood〜excellentが70〜88%、AOFASスコアは1研究で100点中83点[6]
主要合併症:拡大外側進入法では浅い感染・軽度の創合併症が6.6〜19.7%、深部感染が0.5〜5.6%、二次的な距骨下関節固定術が4.2〜5.6%[6]
就労復帰:受傷後に同じ職業へ復帰したのは64%で、軽〜中等度の労働は回復後に可能なことが多いが、重労働は困難なことが多い[3]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(71-B2 = 関節内骨折・Sanders III型:後距踵関節3骨片分裂) 2 CT評価完了(横断面と冠状面は骨折形態の理解に不可欠、矢状面再構築で詳細を把握。冠状面での後距踵関節面の骨折線の数と位置からSanders分類を決定)[1] 3 Böhler角を側面X線で計測・記録(正常は25〜40°、15°以上であれば保存的治療を検討できる)[1] 4 軟部組織と神経・腱の評価(薄い外側壁には踵腓靱帯の付着部と腓骨筋腱の反転を認め、厚い内側壁には足趾屈筋腱・後脛骨神経血管が近接する)を確認[1] 5 軟部組織評価完了(腫脹・水疱の分布・後足部外側面の皮膚のしわ(wrinkle sign)の有無・喫煙・糖尿病のリスク評価)[1] 6 手術タイミング確認(足部外側の手術創予定部位にしわがよることを確認し、通常受傷後7〜14日での手術計画)[1] 7 術式選択の根拠(患者背景・Sanders III型・軟部組織状態を踏まえたORIF vs 低侵襲 vs 保存療法) 8 術後荷重スケジュール確認(粉砕の程度や固定の安定性によるが、荷重は術後8〜12週まで行わない)[1]
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Sanders R(1992)Intraarticular fractures of the calcaneus: present state of the art. J Orthop Trauma, 6(2):252–65. PMID: 1602349
Buckley R, Tough S, McCormack R, et al.(2002)Operative compared with nonoperative treatment of displaced intra-articular calcaneal fractures. J Bone Joint Surg Am, 84(10):1733–44. PMID: 12377902
Agren PH, Mukka S, Tullberg T, et al.(2013)Factors affecting long-term treatment results of displaced intraarticular calcaneal fractures. Foot Ankle Int, 34(2):183–91.
Folk JW, Starr AJ, Early JS(1999)Early wound complications of operative treatment of calcaneus fractures: analysis of 190 fractures. J Orthop Trauma, 13(5):369–72. PMID: 10406705
Schepers T(2011)The sinus tarsi approach in displaced intra-articular calcaneal fractures: a systematic review. Int Orthop, 35(5):697–703. PMID: 21336854