踵骨の関節内骨折のうち、後距骨下関節(後距骨踵関節)を含む舌状型(tongue-type)またはSanders IIに相当する2骨片型関節内骨折 。AO分類71-B1に相当する。後距骨下関節の骨折線が1本(Sanders II)で、骨折後壁(外側壁)の外側への膨隆(lateral wall blowout)とBöhler角の消失が特徴。関節面の解剖学的整復と距骨下関節機能の回復が機能予後の最重要決定因子 であり、軟部組織管理と骨折型の精密な評価が手術タイミング・術式選択の鍵となる。
重症度・疫学
頻度: 踵骨骨折は足根骨損傷の約60%を占める[1]
好発: 高所からの転落や交通事故などの高エネルギー外傷が主因[1]
受傷機転: 距骨の軸圧による踵骨圧壊。踵骨後距骨下関節面が距骨外側突起(lateral process of talus)により劈開される。足関節底屈・回内位での着地で舌状型(tongue-type)を形成しやすい
合併損傷: 脊椎や四肢の骨折を頻繁に合併するため、正確に評価する[1]
治療方針: 試験全体では手術療法と保存療法の成績に差は無かったが、労災補償を受けていない患者の層別解析では、Sanders II型(粉砕の少ない骨折)は手術治療でSF-36が平均を上回る可能性が2.74倍高かった[4]
注意すべき合併症
外傷後距骨下関節症(受傷自体に由来すると考えられるが、関節面の整復不良からも発生し、粉砕が著しいほど末期の関節症と関連する)[1]
創部壊死・深部感染(拡大外側アプローチによるORIFで深部感染5%、表層の創壊死17%)[4]
腓骨とのインピンジメント(外方化した外側壁骨片による)[1]
踵骨後外側角(角)の突出による靴擦れ・慢性疼痛
腓腹神経損傷(拡大外側アプローチでは皮切の近位端と遠位端で損傷の危険があり、最大10%の報告)[6]
コンパートメント症候群(足底コンパートメント:高エネルギー外傷の10〜15%)
DVT/PE(長期臥床・下肢免荷例でリスク上昇)
踵骨の変形癒合(不十分な整復または整復位の保持不全による)[1]
治療方針
⚠️ 保存療法(限定的適応)
→ 関節の転位が最小限で、踵骨全体の位置が許容範囲内の場合は保存療法[1] → 軟部組織の状態が損なわれている場合[6] → 糖尿病・末梢血管疾患・肥満・喫煙などの身体的禁忌がある場合[6] → 全身状態が手術に耐えられない場合 → 保存療法では早期から機能訓練を行い、腫脹が消退したら足関節・距骨下関節の可動域運動を始める。荷重は通常6〜12週後に骨折治癒を確認するまで制限する[1]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 標準術式:拡大外側アプローチ(extensile lateral approach)によるORIF[6] ℹ Sanders II(2骨片型)かつ舌状型(tongue-type):経皮的整復(Essex-Lopresti法)またはsinus tarsiアプローチが低侵襲選択肢 ℹ 手術適応:2mmを超える関節面の転位(相対的適応)[1] ℹ Sinus tarsi approach(最小侵襲):拡大外側アプローチで合併症リスクが高い患者や選択した症例で有用な可能性がある[6] ℹ 創外固定単独:開放骨折・高度軟部組織損傷では暫定または最終固定として選択 ℹ 距骨下関節固定術(subtalar arthrodesis):重度の関節粉砕では一次的に距骨下関節を固定し、踵の形態を再建する[1]
治療選択アルゴリズム
診断・評価
軟部組織の著しい腫脹が多くみられる。転位した舌状型では、アキレス腱に引かれた踵骨隆起の圧力で後方の皮膚が損傷されることがあり、転位した関節陥没型では内側・外側の皮膚に張力が生じて水疱ができることがある[1] 。
X線正面像・側面像・斜位像・軸射位像(Harris view): 側面像でBöhler角(正常25〜40°)の減少を評価する。軸射位像では踵骨隆起の転位や角状変形(短縮や内反)と踵骨の幅の増大を評価する[1] 。
CT(必須): 骨折形態の理解に横断面と冠状面のCTは不可欠。Sanders分類は載距突起を通る冠状面CTで後方関節面の骨折線の位置と数から決める。冠状面像で後関節面への影響と踵骨隆起の短縮・位置を評価する[1] 。
術前X線側面像・軸位像(Harris view) — Böhler角消失・外側壁膨隆・踵骨体部幅拡大を評価
CT冠状断・矢状断 — Sanders II骨折線パターン・後距骨下関節面転位量・舌状骨片の確認
✅ 許容される整復
✓ Böhler角の回復 ✓ 後距骨下関節面の段差・間隙 ≦2mm(労災補償を受けていない患者で、>2mmや粉砕のある整復より成績が良好)[4] ✓ 外側壁の整復(外方化した外側壁骨片による腓骨とのインピンジメントの解消)[1] ✓ 踵骨幅・高さの解剖学的回復(健側と比較) ✓ 踵骨の内反変形なし(軸射位像で確認)[1]
❌ 許容されない変形
✕ 後距骨下関節面の段差・間隙 >2mm(労災補償を受けていない患者で、≦2mmより成績が劣る)[4] ✕ 踵の高さ・位置の再建不良(踵骨全体のアライメントの正確な再建が重要)[1] ✕ 外側壁骨片の外方化の残存(腓骨とのインピンジメント)[1] ✕ 隆起の内反転位(足底の接地面が変わり、足や足関節で正常な荷重ができなくなる)[1] ✕ 踵骨の高さの喪失・横径の増大の残存
手術手技
体位
側臥位(lateral decubitus position): 側臥位にすると進入や整復がしやすい。滅菌した枕を患側の足関節の下におき、足をわずかに内反させる。側面像と軸位像は透視装置を手術台の尾側から入れて撮影する[1] 。
体位・透視設定 — 側臥位・ターニケット配置・術中透視の設定。外側拡大アプローチのための患肢設定
外側拡大アプローチ(Extensile Lateral Approach)— 標準術式
外側拡大アプローチ(L字皮切・全層皮弁挙上)と踵骨外側解剖プレート固定後(後距骨下関節整復・Böhler角回復)の2パネル術中イラスト
皮切(Step 1): L字型の拡大外側皮切。縦皮切はアキレス腱のすぐ前方で腓骨遠位端のやや近位から始め、横皮切は外側踵骨動脈のアンジオソームの縁に相当する皮下出血の遠位端に沿っておき、第5中足骨基部遠位に達する。2つの皮切は踵で比較的鋭角につなげる。腓腹神経は皮切の近位部と遠位部で損傷するリスクがある[1]
全層皮弁の挙上(Step 2): 踵骨外側を骨膜下に剥離し、骨膜・筋膜・皮膚を含む全層性の皮弁を作製する(腓腹神経・腓骨筋腱・踵腓靱帯を含む)。皮弁は徒手的な牽引、または距骨・外果・立方骨に挿入したK-ワイヤで視野を確保し、進入や整復の最中は皮弁を保護する[1]
骨折の展開(Step 3): 必要に応じて踵骨外壁を翻転し、後外側関節骨片および踵腓靱帯を展開する[1]
後距骨下関節面の整復(Step 4): 後距踵関節面骨片の間に嵌入した隆起骨片を挙上整復した後に後距踵関節面を整復する。通常これが関節面整復の最終段階[1]
踵骨の長さ・高さ・幅・回旋の整復(Step 5): 隆起骨片にSchanzスクリューを挿入することが多く、最初の整復操作で長さを回復・内反変形を修復し、隆起を内側へ移動する[1]
プレート固定(Step 6): 外側プレートを隆起骨片から前方突起までかけ、プレート穴をとおして内側載距突起も個別にスクリュー固定するのが理想的[1]
術中最終確認(Step 7): 透視および/またはBroden viewで側面・軸射・斜位像を撮影し、隆起や後距踵関節面の整復状態と踵骨の高さ・長さを評価する[1]
⚠️ ORIF ピットフォール
✕ 皮弁は徒手牽引または距骨・外果・立方骨に挿入したK-wireで保持し、進入や整復の最中は皮弁を保護する[1] ✕ 手術創予定部位の皮膚にしわが寄る(wrinkle sign)のを待ってORIFを行う(通常受傷後7〜14日)[1] ✕ 踵骨全体を整復してK-wireで整復位を保持したうえで、直視および透視で術中評価を行う[1] ✕ 外方化した外側壁骨片は腓骨とのインピンジメントを起こす[1] ✕ スクリューの関節内迷入 → 術後CTでスクリューが距骨下関節・踵立方関節内またはその近傍にあったのは5%、後関節面を貫いたスクリューの抜去に再手術を要したのは2例[4] ✕ 腓腹神経の損傷 → 拡大外側進入法では皮切の近位端と遠位端で腓腹神経を損傷する危険がある[1]
術後管理
術後X線側面像・軸位像 — 踵骨外側プレート固定後のBöhler角回復・外側壁整復・スクリュー位置確認
手術タイミング: 著明に転位した舌状型では、アキレス腱に近位へ引かれた踵骨隆起の後方からの圧力で後方の皮膚が損傷されることがある。開放骨折と経皮的手術治療を受ける患者は緊急に手術し、ORIFは軟部組織の腫脹が軽減するまで遅らせる[1]
術後荷重: 粉砕の程度や固定の安定性によるが、荷重は術後8〜12週まで行わない。活動は症状に応じて徐々に拡大し、受傷から6か月間は衝撃の強い動作を避ける[1]
VTE予防: エドキサバンまたは低分子ヘパリン皮下注を術後12〜24時間より開始(最低14日間、高リスク例では術後35日まで延長)。弾性ストッキング・間欠的空気圧迫装置(健側)を併用
疼痛管理: 多モード鎮痛(NSAIDs・アセトアミノフェン・局所浸潤麻酔 or 膝窩ブロック)。オピオイドは術後48〜72時間に限定。踵部の慢性疼痛には術後2〜3ヶ月までNSAIDsの継続を考慮
リハビリテーション: 術後数日間は下肢を心臓よりやや高く挙上し、創部の状態が許せばすぐに、通常術後2〜5日で足関節・距骨下関節の可動域運動を開始する[1]
フォローアップ
術後2〜4週: 外来での経過観察[4]
術後6週: X線(側面像・軸射像)[1]
術後12週: X線(側面像・軸射像)[1]
術後6ヶ月: X線(側面像・軸射像)。受傷から6か月間は衝撃の強い動作を避ける[1]
術後12ヶ月: X線(側面像・軸射像)[1]
予後
骨癒合率:拡大外側進入法群・最小侵襲進入法群ともに100%[5]
外傷後距骨下関節症:受傷自体に由来するほか関節面の整復不良からも生じ、粉砕が著しいほど末期の距骨下関節症との関連が強い[1]
距骨下関節固定術への移行:足根洞進入法の症例集積で平均4.3%(0〜5.6%)[6]
主要合併症(拡大外側進入法):表層感染・軽度の創合併症6.6〜19.7%、深部感染0.5〜5.6%[6]
ORIF vs. 保存療法(Sanders II):試験全体では手術と保存療法に差は無かったが、労災補償を受けていない患者の層別解析ではSanders II骨折は手術療法でSF-36が平均を上回る可能性が2.74倍[4]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 Sanders分類の確認(載距突起を含む踵骨最大幅の冠状面CTで、後関節面の骨折線の位置と数)[1] 2 Böhler角の測定(側面X線、正常25〜40°。減少は関節損傷と転位の重症度を示す)[1] 3 骨折型の確認(舌状型 vs. 関節陥没型)— Essex-Lopresti分類の適用 4 軟部組織評価(著しい腫脹、舌状型での後方皮膚の損傷、水疱)[1] 5 神経・血管評価(手術の禁忌となる末梢血管疾患・神経障害の有無)[1] 6 脊椎評価の実施(脊椎や四肢の骨折を頻繁に合併する)[1] 7 両側踵骨骨折の除外(多施設RCTでは424例中47例が両側)[4] 8 手術タイミングの決定(軟部組織の状態が手術時期を決める最重要要素)[1]
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Sanders R(1992)Intraarticular fractures of the calcaneus: present state of the art. J Orthop Trauma, 6(2):252–65. PMID: 1602349
Essex-Lopresti P(1952)The mechanism, reduction technique, and results in fractures of the os calcis. Br J Surg, 39(157):395–419. PMID: 14925322
Buckley R, Tough S, McCormack R, et al.(2002)Operative compared with nonoperative treatment of displaced intra-articular calcaneal fractures: a prospective, randomized, controlled multicenter trial. J Bone Joint Surg Am, 84:1733–44. PMID: 12377902
Kline AJ, Anderson RB, Davis WH, et al.(2013)Minimally invasive technique versus an extensile lateral approach for intra-articular calcaneal fractures. Foot Ankle Int, 34(6):773–80. PMID: 23460669
Schepers T(2011)The sinus tarsi approach in displaced intra-articular calcaneal fractures: a systematic review. Int Orthop, 35:697-703. PMID: 21336854