胸腰椎移行部(T11〜L2)[5] に生じる回旋・並進を主体とした骨折脱臼 。AO分類(Magerl)のC群は、B群(後方靱帯複合体の後方離開損傷)に回旋が加わった損傷で、重症度はA→Cの順に増す[6] 。捻転・剪断による破綻は、圧迫による破綻より多くの正常構造の破壊を伴い、はるかに強い不安定性 をもたらす[2] 。神経学的状態は脊柱損傷の重症度を示し、手術判断の要となる [2] 。
重症度・疫学
発生頻度: 胸腰椎は脊椎で最も骨折の多い部位であり、外傷性脊椎骨折3,142例のシリーズでは54.9%が胸腰椎の骨折であった[5]
好発: 外傷性脊椎骨折全体では、頸椎損傷は交通事故に、腰椎損傷は転落に多い[5]
受傷機転: 剪断力・捻転力により、損傷部より頭側の脊柱が尾側に対して並進・回旋する[2]
神経学的障害: 脊髄・馬尾は骨性の鎧に守られており、神経損傷の存在は脊柱損傷の重症度を示す[2]
注意すべき合併症
脊髄損傷(ASIA A〜D):神経学的状態は緊急度の低い順に、神経学的正常・神経根損傷・完全脊髄損傷・不全脊髄損傷または馬尾損傷と記載する[2]
円錐・馬尾レベルの損傷:腰椎(円錐)障害では1年後にASIAで1段階以上改善する可能性が最大90%で、胸椎(T4〜9)・胸腰椎(T10〜12)損傷の22.4%より高い[5]
多系統外傷:胸骨骨折・重度の閉鎖性頭部外傷・四肢切断と並び、治療方針を左右しうる遠隔の併存因子の一つ[2]
胸腹部外傷:CTは胸腹部外傷の評価で一般に撮像されるため、脊椎の評価も時間を大きく延ばさずに行える[5]
多発隣接肋骨骨折:治療方針を左右しうる局所的な臨床修飾因子の一つ[2]
後方靱帯複合体(PLC)断裂の遺残:PLCは治癒能が乏しく、断裂した場合は一般に手術的介入を要する[2]
治療方針
51-C2を含む回旋損傷はTLICSで形態3点+PLC断裂3点となり、神経学的状態にかかわらず手術治療の対象となる [5] 。
⚠️ 保存療法(原則非適応)
→ 回旋損傷はTLICSで形態3点+PLC断裂3点となり、神経学的状態にかかわらず手術治療の対象となる[5] → 合併損傷・併存疾患・全身状態などの臨床的修飾因子により、点数上の手術例が非手術となることもある[2] → 手術は合併損傷・循環動態の安定性・手術室と人員の確保状況をふまえ、可能な限り早期に行う[5]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 【手術適応】回旋損傷(TLICS 5点以上、AO C型)には早期手術が推奨される[5] ℹ 神経学的不完全損傷(ASIA B〜D):外科的除圧の適応として一般に受け入れられている[2] 。神経損傷例は一般に入院後24時間以内に除圧・固定されるが、胸腰椎骨折での早期手術の有益性はまだ証明されていない[5] ℹ 神経学的完全損傷(ASIA A):神経学的改善率は約7.7%にとどまる(ASIA Dでは95.2%)[5] ℹ 神経学的正常例:回旋損傷は形態3点+PLC断裂3点となり、神経学的状態にかかわらず手術治療の対象となる[5] ℹ 標準術式:回旋損傷は定義上PLC損傷を伴い、PLC損傷例は原則として後方からのインストゥルメンテーションと固定を要する[5] ℹ 前方からの神経圧迫:不全神経損傷で、体位整復または観血的整復を試みた後も前方要素による神経圧迫が残る場合は、一般に前方手術を要する[2] ℹ 回旋脱臼の整復:術中透視下での牽引・回旋矯正。関節突起の嵌頓(locked facet)がある場合は関節突起切除による整復が必要
治療選択アルゴリズム — 神経学的評価・全柱破壊評価に基づく緊急手術計画
診断・評価
脊椎外傷が疑われる患者は、全身状態の安定後に画像でスクリーニングする。胸腹部外傷の評価でCTを撮影することが多く、脊椎の評価も大きな時間の追加なく行える[5] 。
51-C2の診断ポイント
X線正面像で棘突起の水平方向の離開や、損傷高位上下の椎弓根配列の急な変化を確認し、軸位CTで損傷部の正中矢状面のずれを確認する。矢状断再構成CTで椎間関節の跳躍(facet jump)や骨折を評価する[2] 。MRIは特に神経障害例で、椎間板・靱帯・神経要素の評価に推奨される[5] 。
診断評価 — CT横断像で三柱破壊+回旋変位を確認(後方靱帯複合体断裂・関節突起脱臼)
【主な評価】 CT(胸腹部外傷の評価と合わせて撮影し、損傷形態を評価)・MRI(とくに神経障害例で椎間板・靱帯・神経要素を評価)・神経学的評価(ASIAスケール)[5]
✅ 許容される整復(術後目標アライメント)
✓ 矢状面アライメント:Cobb角 <10°(後弯矯正) ✓ 冠状面アライメント:回旋・側方変位の完全整復 ✓ 脊柱管狭窄率:術後 <20%(神経学的モニタリング改善を伴う) ✓ 椎間高の回復:前柱支持の再建
❌ 許容されない変形
✕ 回旋変位の残存(棘突起ラインの不整、関節突起の嵌頓残存) ✕ 脊柱管狭窄率 >30%(神経減圧不十分) ✕ 高度後弯(Cobb角 >20°)の残存 ✕ 前柱支柱不全でのスクリューのみ固定(アンカー不足による固定失敗リスク)
手術手技
体位
腹臥位(通常の脊椎手術フレームまたはジャクソンテーブル)。 腹部を浮かせて静脈圧を低下させ、出血量を軽減する。頸椎中立位を保ちヘッドサポートで保持。下肢は適度に屈曲・パッドで保護。手術前に透視(正面・側面)で体位確認を行い、回旋脱臼の確認・整復を計画する。
体位・アプローチ — 腹臥位・脊椎フレームでの後方経路アプローチ(正中切開・傍脊柱筋剥離)
正中切開・露出: 骨折椎体の上下2〜3椎体にわたる正中切開。傍脊柱筋を骨膜下に剥離し、椎弓・横突起・関節突起を露出する
椎弓根スクリュー挿入: 骨折椎の上下各2〜3椎体に椎弓根スクリューを挿入(椎体前方皮質に届く長さを選択し、把持力を確保する)。挿入前後に神経学的モニタリング(MEP・SEP)を確認する
回旋脱臼の整復: locked facet(嵌頓した関節突起)がある場合は関節突起の部分切除後に整復。透視下で正面像の棘突起アライメントと側面像の椎体整合性を確認しながら段階的に回旋・屈曲変位を矯正する
除圧: 神経損傷例では脊柱の整復で除圧が得られる例もあり、得られない例では前方または後方から神経要素を直接除圧する[5]
ロッド固定・変形矯正: 術前計画したアライメントでロッドを成形し、圧縮・伸延操作で矢状面アライメントを回復。回旋矯正はロッド回転法で行う
後外側骨移植(PLIF/TLIF の追加): 前柱支持が不十分な場合は、経椎間孔ケージ(TLIF)による前柱再建を同一アプローチで追加する
最終確認: 透視正面・側面で整復位・スクリュー位置・アライメントを確認。MEP・SEP の変化がないことを確認して閉創する
固定構成 — 後方長節椎弓根スクリュー固定+椎弓切除減圧(+TLIF前柱再建)
⚠️ ピットフォール
✕ 回旋脱臼の整復を焦って行う → 神経損傷増悪。透視下で段階的に整復し、各ステップでMEP/SEPを確認する ✕ locked facet の見落とし → 整復不能・残存変形。術前CTで関節突起の嵌頓を必ず評価する ✕ 椎弓根スクリューの骨折椎への挿入(骨質不良) → 術中・術後のスクリュー引き抜き。骨折椎は固定椎から除外するか、補助固定を追加する ✕ 減圧不十分(脊柱管狭窄の過小評価) → 神経学的改善不十分。術前CTで狭窄率を定量評価し除圧範囲を計画する ✕ 進入路・術式の選択 → いずれかの術式が優れるというエビデンスはなく、損傷の特徴と術者の経験に基づいて個別に選択する[5] ✕ 術中大量出血 → 腹部圧迫体位や筋剥離範囲の最小化で静脈叢出血を防ぐ。事前に血液製剤を準備する
術後管理
術後X線像(正面/側面)— 長節椎弓根スクリュー固定後の整復位と矢状面アライメント確認
手術タイミング: 神経障害を伴う例は入院後24時間以内に除圧・固定を行うことが多い[5] 。24時間以内の早期除圧で神経学的転帰が改善したのは頸髄損傷の研究(STASCIS)であり[4] 、胸腰椎骨折の神経障害例での早期手術の有益性は証明されていない[5] 。神経学的正常例も、合併損傷・循環動態・手術室の体制が許す範囲でできるだけ早期に手術する[5]
術後荷重: 長期臥床に伴う合併症を避けるため早期離床を行う。装具(TLSO)の併用は術者の経験に基づいて判断し、内固定後は原則として装具を用いない施設もある[5]
VTE予防: 脊髄損傷例は静脈血栓塞栓症の高リスク群。術後24〜48時間より低分子ヘパリンまたはエドキサバン開始。弾性ストッキング・間欠的空気圧迫装置(IPC)を術中から使用。脊髄損傷完全麻痺例では3ヶ月間の予防的抗凝固療法を継続する
疼痛管理: アセトアミノフェン定期投与を基本とするマルチモーダル鎮痛。硬膜外鎮痛は脊髄損傷例では困難なことが多く、術後静脈内PCAまたは経口オピオイドを短期使用する。神経因性疼痛(灼熱感・異常感覚)にはプレガバリン・デュロキセチンを追加する
リハビリテーション: 入院中から退院後まで早期の理学療法が推奨される。神経障害例では泌尿器科的・心理的評価を含む多職種の支援が必要である[5]
フォローアップ
術後2週: 創部確認・X線(整復位維持・スクリュー位置)・神経学的評価(ASIAスケール再評価)
術後6週: X線(固定性評価)・リハビリ進捗評価
術後3ヶ月: X線・CT(骨癒合・固定性)・神経学的評価・膀胱機能評価
術後6ヶ月: CT(骨癒合完成評価)・機能評価(ODI・SF-36)・職場・日常生活復帰判断
術後12ヶ月: 最終評価。神経学的プラトーの判断・社会復帰支援計画の策定
スクリュー・ロッド破損の懸念がある場合は骨癒合前にCT追加。骨癒合後にハードウェア除去を検討(通常術後1〜2年)
予後
神経学的予後: 脊髄損傷例の神経学的改善率はASIA Aで約7.7%にとどまり、ASIA Bで66.7%、ASIA Cで84.6%、ASIA Dで95.2%であった[5]
骨癒合・固定率: 適切な長節後方固定(前柱再建追加例)での固定成功率は約90〜95%
慢性疼痛: 約20〜30%に術後慢性腰背部痛・隣接椎間障害が生じる
日常生活復帰: 神経学的正常または不完全損傷例では、術後6〜12ヶ月で日常生活・軽労働への復帰が期待できる。完全対麻痺例では車椅子生活への適応が中心となる
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(51-C2。C型はB型〔後方への伸延による後方靱帯複合体の断裂〕に回旋が加わった損傷)[6] 2 神経学的評価を記録(ASIAスケール・デルマトーム・膀胱直腸障害の有無) 3 不完全損傷(ASIA B〜D)の場合、上級医・脊椎外科医に即報告(不全神経損傷は外科的除圧の適応として一般に受け入れられている[2] ) 4 CTで、軸位断では損傷高位をまたぐ正中矢状面のずれ、矢状断再構成では椎間関節の跳躍(facet jump)・骨折の有無を確認[2] 5 MRI で後方靱帯複合体(PLC)断裂・脊髄信号変化を評価 6 多系統外傷・重度頭部外傷・胸骨骨折など治療方針に影響しうる併存損傷の有無と対処状況を記録[2] 7 VTE 予防開始タイミングと膀胱管理計画(CIC 指導)を確認 8 術後の装具使用の有無と早期離床の計画を患者・リハビリチームに説明[5]
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Vaccaro AR, et al.(2005)A new classification of thoracolumbar injuries: the importance of injury morphology, the integrity of the posterior ligamentous complex, and neurologic status. Spine, 30(20):2325–33. PMID: 16227897
Rajasekaran S, et al.(2015)ACGR comprehensive classification of thoracic and lumbar injuries. Eur Spine J, 24(10):2220–34.
Fehlings MG, et al.(2012)Early versus delayed decompression for traumatic cervical spinal cord injury: results of the Surgical Timing in Acute Spinal Cord Injury Study (STASCIS). PLoS One, 7(2):e32037. PMID: 22384132
Joaquim AF, Patel AA(2013)Thoracolumbar spine trauma: evaluation and surgical decision-making. J Craniovertebr Junction Spine, 4:3-9. PMID: 24381449
Aebi M(2010)Classification of thoracolumbar fractures and dislocations. Eur Spine J, 19(Suppl 1):S2–7. PMID: 19851793