AOSpine分類B3型は前縦靭帯(ALL: Anterior Longitudinal Ligament)を含む前方張力帯が断裂する過伸展損傷(hyperextension injury) 。損傷は椎間板または椎体を通り、脊柱は過伸展位となるが、後方のヒンジが保たれてそれ以上の転位を防ぐ。強直性脊椎炎(AS)・DISH(びまん性特発性骨格過骨症)などの強直性疾患でよくみられる[1] 。強直した脊椎の伸展損傷ではB3とC型(転位・並進型)の判定が分かれやすく、後方ヒンジの損傷を画像で慎重に評価する[1] 。
【分類の注意】 AOSpine分類はMagerl分類を改訂して作られた分類で、本記事ではAOSpine分類を基準 とする[1] 。
分類体系 B1 B2 B3 AOSpine(2013) 後方骨性張力帯断裂 後方張力帯断裂(骨性・靭帯性を問わない)[1] ALL断裂を伴うhyperextension-distraction損傷 Magerl旧分類(1994) 後方靭帯性distraction 後方骨性distraction(Chance型) 前方shear損傷
AOSpine分類のB3(本記事の対象)は、前方張力帯である前縦靭帯(ALL)が断裂 し、損傷が椎間板または椎体を通る過伸展損傷で、後方のヒンジは保たれる[1] 。後方張力帯が断裂するB1(骨を通るChance骨折)・B2(骨性・靭帯性を問わない後方張力帯断裂)とは、断裂する張力帯の部位が異なる[1] 。強直した脊椎の伸展・牽引損傷は、転位がなくても後方ヒンジが疑わしく不安定性が高いため、多くは手術的安定化 で治療されると想定されている[1] 。
重症度・疫学
年間発生件数(日本): 胸腰椎骨折全体の約5〜10%が後方要素骨折合併型(B3型)と推定される
好発: 強直性疾患(AS・DISHなど)の脊椎でよくみられる[1]
受傷機転: AS・DISH患者では軽微な転倒・追突でも発生(脊椎の骨性強直により過伸展外力が集中するため)。正常脊椎では高エネルギー過伸展外力(後方衝突・後屈強制)が必要。シートベルト損傷(flexion-distraction機序)はB3ではなくAOSpine分類のB1/B2に対応するため除外 する
分類上の特徴: AOSpine分類B3は、脊椎の前方張力帯として過伸展を防ぐ前縦靭帯(ALL)が断裂する損傷型で、損傷は椎間板または椎体そのもの(特に強直脊椎)を通り、保たれた後方ヒンジが大きな転位を防ぐ[1] 。後方張力帯が断裂するB1・B2と異なり、前方張力帯の断裂 が本型の特徴である[1]
神経障害: 神経学的所見はTLICS(thoracolumbar injury classification system)で点数化され、PLCの損傷・損傷形態の点数と合わせて治療選択の目安となる[1]
注意すべき合併症
脊髄損傷:不全脊髄損傷(N3)から完全脊髄損傷(N4、ASIA A)まで生じうる[1]
馬尾症候群:胸腰椎では馬尾損傷を不全脊髄損傷と同じN3に分類する[4]
後方要素の遅発性不安定:保存加療中に後弯・転位が進行するリスクが高い
血管損傷:大動脈・分節動脈の損傷(高エネルギー外傷では腹部臓器損傷を合併しやすい)
VTE(静脈血栓塞栓症):急性期脊髄損傷の合併症として深部静脈血栓症・肺塞栓症に注意する[5]
骨癒合遷延・後弯変形進行:後方骨折が不十分な固定のまま残ると後弯が進行しやすい
呼吸障害:急性期の脊髄損傷では肺炎・無気肺の合併に注意する[5]
治療方針
⚠️ 保存療法
→ 神経学的に正常かつ後方要素骨折が軽微で脊柱管狭窄がない例のみ相対的適応 → 手術の目安:TLICSの合計5点以上は手術の候補、3点以下は保存の候補、4点はどちらもありうる[2] → 保存を選択する場合も、画像と神経所見で経過を確認する → 骨減少症・骨粗鬆症は、手術適応が相対的な例で手術に賛成にも反対にも働きうる患者固有の併存症(修飾因子M2)として治療選択に考慮する[1]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ TLICS ≧5点 :手術適応(後方要素骨折合併型はPLC損傷でスコアが高くなりやすい)ℹ 外傷性脊髄損傷あり:医学的に可能なら受傷後24時間以内の除圧が推奨される[5] 。中心性脊髄損傷では、除圧の至適時期や手術の要否そのものが明らかでない[5] 。AS/DISH合併例では骨片除圧より脊椎安定化が優先 されることがある。不全麻痺で骨片・ヘルニアによる前方圧迫が確認される場合は前方除圧(ACDF/ACCF等)も選択肢となる。後方固定単独では前方圧迫の解除が不十分な場合があることに注意 ℹ 脊柱管狭窄あり:MRIは神経圧迫の部位と程度の判定に役立つことが多い[1] ℹ B3(hyperextension-distraction型)の術式選択: ALL断裂による前方不安定性が本型の本質。前方再建(ALL・椎間板高の修復:ACDF/ACCF等)またはPSF(後方椎弓根スクリュー固定)が主な選択肢。前方不安定性が高度な場合は前後合併固定を検討するℹ 後方経路椎弓根スクリュー固定(PSF) (骨折椎を中心に2〜3椎体上下に固定範囲を設定):前方安定性が比較的保たれている場合や全身状態不良例では後方固定単独でも対応可能ℹ 骨片による脊柱管圧迫:後方除圧(椎弓切除)または経椎弓根的骨片整復 ℹ 骨折部の過度の後弯や著しい椎体圧壊は、治療選択に影響する因子として個別に考慮する[2] ℹ AS/DISH合併例:骨性強直椎での骨折は不安定性が極めて高く、長節固定(3椎体以上)が必要なことが多い
治療選択アルゴリズム
診断・評価
神経症状(下肢の筋力低下・感覚障害・膀胱直腸障害)の有無を確かめる。受傷後の画像では過伸展位の配列異常がしばしばみられる[1] 。多発肋骨骨折・胸骨骨折・重度の頭部外傷・多系統の多発外傷は治療方針に影響する[2] 。
神経学的評価(必須): 初診時の神経学的状態はAOSpineのN分類(N0:正常、N1:一過性の神経障害、N2:神経根症、N3:不全脊髄損傷・馬尾損傷、N4:完全脊髄損傷、NX:評価不能)で記載する。ASIA分類は72時間以内の3回の評価で決まるため、初診時の判断には使いにくい[4]
X線・CT像 — 後方要素骨折合併型(椎弓根骨折・後弯変形・脊柱管狭窄)
【必須】 脊椎X線・CT(大多数の症例はCT・単純X線で分類できる)。MRIは前方・後方張力帯の断裂(少なくともB型であること)や後方ヒンジの断裂(伸展・牽引損傷が実はC型であること)の確認、神経圧迫の部位と程度の評価に用いる[1]
TLICSスコアリング:
評価項目 スコア 骨折形態(distraction)[2] +4 PLCの損傷(疑い〜確定)[2] +2〜3 神経障害なし 0 神経根障害 +2 不全脊髄損傷 +3 完全脊髄損傷 +2 合計 ≧5点 → 手術適応
✅ 許容される整復・状態
✓ 後弯角 Cobb法で ≦15°(骨折部局所後弯) ✓ 椎体圧壊 ≦30% ✓ 神経学的異常なし(TLICSの神経学的所見 0点)[2] ✓ 後方要素骨折が細骨片(棘突起のみ等)で不安定性が軽微
❌ 許容されない変形
✕ 骨折部の過度の後弯(治療選択に影響する因子)[2] ✕ 脊柱管占拠率 >50%(脊髄・馬尾への圧迫が高度) ✕ 著しい椎体圧壊(治療選択に影響する因子)[2] ✕ 後方要素の完全骨折(椎弓根・椎弓が全骨折)を伴う不安定性 ✕ 神経障害の悪化(その防止のために手術を要する例がある)[2]
手術手技
体位
腹臥位(プローン体位): 脊椎後方固定の標準体位。腹部を完全フリーにしてフレーム(ウィルソンフレームまたはジャクソンテーブル)上に支持する。腹部圧迫による静脈系圧上昇と術中出血増加を防ぐことが重要。頸部は正中位に固定し眼球・上腕神経叢の圧迫を防ぐ。
手術体位(腹臥位・ウィルソンフレーム) — 腹部フリー・透視確認位置
後方経路椎弓根スクリュー固定(PSIF)— 第一選択
骨折椎の同定: 透視下で棘突起と椎体を確認。術前CT・MRIで後方要素骨折の分布を把握し固定範囲を決定(骨折椎の上下2〜3椎体)
椎弓根スクリュー刺入: C字透視下(またはナビゲーション下)で骨折椎周囲に椎弓根スクリューを刺入。後方要素が骨折している椎体へのスクリュー刺入は慎重に行い、骨折椎を挟む上下健常椎にアンカーを確保する
除圧(必要な場合): 脊柱管内骨片・椎間板ヘルニアによる神経圧迫がある場合は椎弓切除・内側椎弓根切除で神経を除圧する
後方要素の骨折処置: 椎弓・横突起の骨片を可能な限り解剖学的に整復しスクリュー固定または骨接合する。棘間靭帯複合体が骨折で断裂している場合は修復を図る
ロッド挿入・整復: ロッドを刺入し適切な矯正力をかけながら後弯を矯正。椎間孔および脊柱管の開放を確認
固定・後外側植骨: ロッドをロックナットで固定し横突起間・椎弓間に自家骨または人工骨を充填して後外側固定を行う
最終確認: 透視・術中MEP/SEPモニタリングで神経機能を確認し閉創(ドレーン留置)
⚠️ 後方固定 ピットフォール
✕ 後方要素骨折椎体への椎弓根スクリュー刺入時の骨把持力低下 → 隣接健常椎へのアンカー延長を検討 ✕ 脊柱管内の骨片整復不完全 → 術前・術中CTナビゲーションの活用 ✕ 矯正後弯時の過矯正 → 過剰な後弯矯正は椎間孔狭窄・神経根症を引き起こす ✕ 後外側植骨量不足 → 固定が長期的に維持されず遅発性後弯が生じる ✕ 術中神経モニタリング(MEP/SEP)の警告サインを見逃す → 即時にスクリュー位置確認・矯正力軽減
術後管理
術後X線像(正面/側面)— 後方椎弓根スクリュー固定、後弯矯正確認
手術タイミング: 外傷性脊髄損傷では、医学的に可能であれば受傷後24時間以内に脊髄の除圧を行うことが推奨される[5]
術後荷重: 術翌日から座位を許可。術後2〜3日で歩行補助器使用の立位・歩行訓練を開始。神経障害がある場合はリハビリ専門医と連携し荷重時期・補装具を個別設定
VTE予防: 低分子ヘパリン(エノキサパリン)または直接経口抗凝固薬(エドキサバン)を術後12〜24時間から開始。神経障害に伴う下肢静脈還流低下で血栓リスクが高い
疼痛管理: 硬膜外カテーテルは脊椎手術後は困難なことが多い。アセトアミノフェン定期投与+NSAIDs(骨折癒合への影響を考慮し短期使用)+弱オピオイドを組み合わせる。神経障害性疼痛にはプレガバリン・デュロキセチンを追加
リハビリテーション: 術翌日からPT介入。神経障害例は排尿管理(導尿)・褥瘡予防・呼吸理学療法を並行。退院後は脊椎専門リハビリ施設での集中訓練を検討
フォローアップ
術後2週: 創部・X線確認。スクリュー位置・矯正角度の維持確認
術後6週: X線(正面・側面)。仮骨形成・後弯角の推移
術後3ヶ月: X線・必要に応じCT。後外側植骨の癒合評価。神経学的改善を再評価(ASIA分類)
術後6ヶ月: 植骨癒合・インプラントの緩みを評価。職場復帰・ADL自立度確認
術後1年以降: 年1回の長期フォロー。インプラント疲労骨折・隣接椎間障害の監視
予後
神経学的改善:ASIA B〜D(不全麻痺)では手術後に2グレード以上の改善が約50〜70%で期待できる。ASIA A(完全麻痺)では神経機能回復は限定的(約10〜20%)
骨癒合率:後外側植骨を伴う後方固定で約85〜95%
後弯矯正の維持:術後5年で矯正損失 5〜10°が許容範囲内とされる
疼痛・QOL:骨癒合達成例では約75〜85%が有意な疼痛改善を報告
再手術率:約5〜10%(インプラント疲労・隣接椎間障害・感染)
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(AOSpine分類B3 = 椎間板または椎体を通り脊柱が過伸展位となる損傷。前縦靭帯(ALL)を含む前方張力帯が断裂し、後方のヒンジが保たれてそれ以上の転位を防いでいる[1] ) 2 TLICSスコアを算出(≦3点は保存治療、≧5点は手術適応、4点はどちらも選択肢[2] ) 3 神経学的状態を初診時にAOSpineのN分類(N0〜N4・NX)で記録[4] 4 MRIで前方・後方張力帯と後方ヒンジの損傷を評価(後方ヒンジの断裂があれば伸延伸展損傷はC型)[1] 5 固定範囲(骨折椎の上下2〜3椎体)と術式(後方固定単独 vs 前後合併)を確認 6 手術タイミングを確認(脊髄損傷では医学的に可能なら受傷後24時間以内の除圧が推奨[5] ) 7 術中神経モニタリング(MEP/SEP)の計画を麻酔科と共有 8 VTE予防・排尿管理・早期リハビリを術後オーダーに含める
文献
Vaccaro AR, et al.(2013)AOSpine thoracolumbar spine injury classification system: fracture description, neurological status, and key modifiers. Spine, 38:2028–37. PMID: 23970107
Vaccaro AR, et al.(2005)The thoracolumbar injury severity score: a proposed treatment algorithm. J Spinal Disord Tech, 18:209–15. PMID: 15905761
Rajasekaran S, et al.(2015)ACDF/posterior stabilization for hyperextension-distraction injuries of the spine in ankylosing spondylitis and DISH. Eur Spine J, 24:1295–303.
Schnake KJ, et al.(2017)AO Spine Classification Systems(Subaxial, Thoracolumbar). J Orthop Trauma, 31 Suppl 4:S14–S23.
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Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767