足関節骨折のうち腓骨骨折部が脛腓靱帯結合より近位に位置する「脛腓靭帯上型(Suprasyndesmotic)」の単純腓骨骨折 で、AO分類44-C1に相当する。Danis-Weber分類のC型に対応する。脛腓靱帯より近位の介達外力による腓骨骨幹部骨折は内側側副靱帯と脛腓靱帯結合の両者の損傷 を意味し、骨間膜と脛腓靱帯は断裂または骨付着部の裂離をきたしていて、大きな不安定性をきたす傾向がある[1] 。
重症度・疫学
発生頻度: 足関節骨折は最も多くみられる骨折の1つであり、下肢では大腿骨近位部骨折に次いで頻度が2番目である[1]
好発: 若年男性と高齢女性の二峰性の年齢分布を呈し、高齢者の足関節骨折が著しく増加している[1]
受傷機転: 足部が回内し、内側機構が緊張下にある状態で外旋力が加わって生じる[1]
AO分類の詳細(概念的整理):
44-C1:脛腓靭帯上型・単純腓骨骨折(斜骨折または横骨折。腓骨骨折部は遠位脛腓関節の近位)
44-C2:脛腓靭帯上型・粉砕腓骨骨折(複数の骨折線や骨片)
44-C3:脛腓靭帯上型・腓骨近位骨折(Maisonneuve型を含む)
※ 上記の分類は概念的な整理であり、AO/OTA 2018年改訂版では44-Cのサブ分類は骨折形態(単純/多骨片/粉砕)に基づく。最新の正式分類はAO/OTA公式資料を参照すること
注意すべき合併症
遠位脛腓関節の整復不良(術中の整復不良は珍しくなく、整復不良があると靱帯結合部は正常な張力で治癒せず、慢性的な靱帯結合不安定性に至る[1] )
内果骨折または三角靭帯断裂の合併(Type Cでは最初に内側機構が破綻し、三角靱帯断裂または内果の裂離骨折が生じる[1] )
Maisonneuve骨折の見落とし(下腿全長X線またはCTで腓骨近位を確認する)
軟部組織損傷・腫脹(著明な腫脹は手術タイミングを遅らせる要因)
外傷後の関節軟骨障害(距腿関節窩の適合性のわずかな障害でも接触面積が減少し、関節軟骨に過剰な負荷をかける可能性がある[1] )
神経血管損傷(開放創・腫脹・変形・打撲・圧痛とともに、足部の神経血管損傷を注意深く評価する[1] )
DVT/PE(下肢骨折・臥床期間延長により高リスク)
感染・創部の問題(浮腫や水疱が生じた場合は、軟部組織が回復するまで少なくとも4〜6日間手術を延期することが強くすすめられる[1] )
治療方針
⚠️ 保存療法(転位のない安定した骨折が主な対象)
→ 転位した足関節損傷はいずれも不安定なことが多く、正確な解剖学的整復は通常、観血的整復・安定した内固定によってのみ得られる[1] → 高齢者の不安定な足関節骨折では、6か月時にギプス固定とORIFの成績が同等であったとする無作為化臨床試験がある[1] → 高齢者の不安定な足関節骨折を保存療法とする場合はギプス固定を行う[1] → 腫脹が著明な場合は一時的なシーネ固定・挙上を行い、皮膚の皺(Wrinkle sign)が戻るまで待機してから手術へ移行
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 腓骨の整復固定後、フックテストと術中の外旋ストレス撮影で脛腓靱帯結合の安定性を評価し、不安定であれば腓骨から脛骨にポジショニングスクリューを挿入する[1] ℹ 内果骨折の合併:ほとんどの場合、固定の最初のステップは腓骨の再建である。三角靱帯や骨軟骨骨片が介在して完全な整復を阻害している場合は、腓骨の最終的固定に先立って内側を展開する[1] ℹ 三角靭帯断裂の合併:三角靱帯損傷は常に展開を必要とするわけではないが、腓骨整復後の術中X線で内側関節裂隙の開大が残存する場合や、腓骨の正確な整復が困難な場合は内側を展開する[1] ℹ 受傷後6〜8時間以内の早期手術:腫脹のほとんどは血腫で組織内の浮腫ではなく、手術創の一次的閉鎖が可能である[1] ℹ 浮腫・水疱形成:軟部組織が回復するまで少なくとも4〜6日間手術を延期する[1] ℹ 骨粗鬆症合併・高齢者:腓骨ではロッキングプレートが有用で、軸方向に安定している腓骨骨折で特に軟部組織の状態が悪い場合は非観血的整復と髄内固定を行う方法もある[1]
治療選択アルゴリズム — 44-C1足関節骨折における腓骨ORIF・シンデスモーシス固定・内果処置の選択基準
診断・評価
開放創・腫脹・変形・打撲・圧痛をみる。皮膚の変色や脱色は、皮膚の損傷と迅速な整復操作の必要性を示すことがある。足部の神経血管損傷を注意深く評価する [1] 。
X線正面像・Mortise view・側面像: 腓骨骨折部位(遠位脛腓関節より近位)の確認。内果骨折の有無。腓骨の短縮は脛骨天蓋と外果の軟骨下骨層の段差で評価し、距腿角は83±4°である。距骨と脛骨天蓋間の関節裂隙は内果と距骨内側の間隔と等しくなければならない[1] 。
下腿全長X線: Maisonneuve骨折(近位腓骨骨折)の除外。足首のX線のみでは見逃す危険がある。
CT: 果部骨折でCTが必要となることは稀だが、正確な骨折型や損傷のメカニズムが明確でない場合に有用で、大きな後方皮質(Volkmann)骨片をもつピロン骨折の異型である足関節骨折を同定できる[1] 。
術前X線(Mortise view・側面像)— 脛腓靭帯上型腓骨骨折・Medial clear space拡大・脛腓関節離開
44-C1骨折分類模式図 — 脛腓靭帯上型(C型)vs 脛腓靭帯貫通型(B型)vs 脛腓靭帯下型(A型)の腓骨骨折レベル比較
CT横断面 — 遠位脛腓関節離開・腓骨回旋転位・後果骨折合併の有無評価
✅ 許容される整復
✓ 内側関節裂隙(内果と距骨内側の間隔)が距骨–脛骨天蓋間の関節裂隙と等しい[1] ✓ 単純X線の脛腓間計測は遠位脛腓関節の状態を正確に反映せず、CTで見つかる整復不良の多くは単純X線では検出されない[4] ✓ 距腿角が健側と比べて保たれている(X線透視で整復位を確認する)[1] ✓ 腓骨の長さ・回旋の解剖学的整復 ✓ 遠位脛腓関節の適合性(CT横断像で腓骨と腓骨切痕の前方・後方との距離の差が2mmを超えれば不適合とした報告がある)[4]
❌ 許容されない変形
✕ 内側関節裂隙の開大の残存(距腿関節窩の適合性のわずかな障害でも接触面積が減少し、関節軟骨に過剰な負荷をかける可能性がある[1] ) ✕ 腓骨短縮・回旋変形の残存(mortise不整合につながる) ✕ 脛腓関節離開の残存(腓骨固定後にフックテストと術中の外旋ストレス撮影を行い、内側の関節裂隙が2mm以上開大すれば脛腓靱帯結合の不安定性を疑う。不安定であればポジショニングスクリューを挿入する[1] ) ✕ 後果骨折の見落とし(側面像で関節内骨片が全関節面の25%未満で、距骨が後方へ亜脱臼する傾向になければ、この骨片は固定する必要はない[1] ) ✕ Maisonneuve骨折の見落とし(下腿全長X線を必ず撮影する)
手術手技
体位
仰臥位(患側殿部下に砂嚢): 患側殿部下に砂嚢を入れて麻酔下の下肢外旋を防ぎ、足部を中間位とする。下腿は柔らかい枕にのせて膝関節を30°屈曲位とし、この肢位で内側・外側ともに展開しやすくなる。止血帯は必ずしも必要ではないが使用してもよい[1] 。
手術体位 — 仰臥位・ボルスター設置・Cアーム配置(Mortise view・側面)での足関節透視セットアップ
内果固定(先行手技)— 内果骨折合併例
内果骨折を合併する場合も、ほとんどの場合は腓骨の再建から固定を始める。三角靱帯や骨軟骨骨片が介在して整復を阻害している場合は、腓骨の最終固定に先立って内側を展開する[1] 。
内側アプローチ: 内果の後方あるいは前方に沿って皮膚切開。伏在静脈と伏在神経を保護する[1]
骨折整復: 骨折間隙に介在する骨膜をすべて取り除き、小さな先端鋭の整復鉗子で内果を把持して整復位を保持する[1]
仮固定: K-wireで仮固定する[1]
本固定: 4.0mm部分ねじ切り海綿骨スクリューまたは3.5mm皮質骨スクリューのラグスクリューで固定する。骨片が十分に大きければ平行なスクリュー2本とする[1]
腓骨ORIF(解剖学的プレート固定) — 第一選択
腓骨の解剖学的整復・固定によりmortiseの長さ・回旋の基準を確立し、その後に遠位脛腓関節の安定性を評価する。
外側アプローチ: 腓骨に沿ってまっすぐな皮切をおく。外側プレートではプレートが縫合部の直下にならないよう皮切をやや前方に、後方の抗滑走プレートではやや後方におく。前方では浅腓骨神経、後方では腓腹神経に注意する[1]
骨折整復: 骨折面の血腫・骨膜組織を除去。ポインテッドリダクションクランプで骨折部を圧着し解剖学的整復(長さ・回旋・アライメント)を得る
仮固定: K-wireで仮固定。透視で整復位(腓骨長・回旋・骨折線)を確認
ラグスクリュー固定(短斜骨折・螺旋骨折の場合): 骨折部を整復鉗子で正確に整復したのち、ラグスクリューで固定する[1]
プレート設置: 1/3円プレートを保護プレートとしてラグスクリューに併用する[1]
術中透視確認: AP(Mortise)・側面・斜位で腓骨長・回旋・骨折整復位を確認
腓骨ORIF術中透視像(Mortise view・側面)— 腓骨外側プレート・ラグスクリューによる単純腓骨骨折の整復固定
遠位脛腓関節のストレステスト(シンデスモーシス評価): 腓骨固定後にフックテスト(腓骨を骨把持鉗子やフックでつかみ愛護的に後外側へ引く)を行い、術中に外旋ストレス下の透視も行う。内側関節裂隙が2mm以上開大すれば不安定性を疑い、不安定であればシンデスモーシス固定へ進む[1]
シンデスモーシス固定 — 脛腓関節不安定例
腓骨固定後のストレステストで遠位脛腓関節の不安定性が確認された場合に追加する[1] 。
整復確認: 腓骨を脛骨の腓骨切痕(incisura fibularis)へ整復し、透視で確認する。整復の質に疑問がある場合は靱帯結合部を展開して直接整復する[1]
スクリュー刺入位置: 脛腓関節の2cm近位で、腓骨から脛骨へ、後方から前方に25〜30°傾けて脛骨天蓋と平行に刺入する[1]
スクリュー固定(ポジショニングスクリュー): 3.5mmまたは4.5mmの皮質骨スクリューを圧迫を加えずに刺入する。挿入時の足関節は中間位とし(背屈は必要ない)、術中にX線撮影や透視でスクリューの位置を確認する[1]
代替手技(スーチャーボタン法): スーチャーボタン法の潜在的な利点として、脛腓靱帯結合の生理的な動きを許容すること、早期リハビリテーションを始められること、通常はインプラント抜去を要しないことが挙げられる[3]
⚠️ シンデスモーシス固定ピットフォール
✕ 腓骨の長さ・回旋を整復しないまま固定すると遠位脛腓関節の整復不良が残る。腓骨の解剖学的整復が得られなかった場合は、回旋変形を除外するため術後早期に脛腓靱帯結合部のCTを撮る[1] ✕ ポジショニングスクリュー挿入時の足関節は中間位とする(背屈は必要ない)[1] ✕ ポジショニングスクリューをラグスクリューとして用いる誤り(脛骨・腓骨ともタップを切り、圧迫を加えずに腓骨を脛骨に対する解剖学的位置で維持する)[1] ✕ スクリュー刺入方向の誤り(後方から前方へ25〜30°傾け、脛骨天蓋と平行に刺入する)[1] ✕ ストレステストの省略(腓骨固定後にシンデスモーシス不安定性を必ず評価する) ✕ 後果骨折(Volkmann骨片)の見落とし(後果固定で脛腓関節が安定する場合はシンデスモーシスねじが不要になることがある)
術後管理
術後X線(Mortise view・側面像)— 腓骨プレート固定+シンデスモーシスねじによる遠位脛腓関節整復。Mortise解剖学的整復を確認
手術タイミング: 理想は本格的な腫脹や水疱が形成される前で、受傷後6〜8時間以内であれば腫脹の多くは血腫で一次閉創が可能。浮腫や水疱が生じた場合は少なくとも4〜6日間手術を延期し、骨折水疱の消失や皮切予定部位のしわの出現を待つ[1]
術後荷重: 荷重は内固定の安定性と患者の協力度によって決める。脛腓結合間スクリューを使用し足関節を外固定しない場合は、術後6〜8週間は制限下の荷重のみとする[1]
VTE予防: エドキサバンまたは低分子ヘパリン皮下注を術後12〜24時間から開始(最低14日間。高リスク例では4週間継続)
疼痛管理: 多モード鎮痛(アセトアミノフェン定期投与・NSAIDs・局所浸潤麻酔)。腓骨神経ブロック・後脛骨神経ブロックを術後疼痛管理に活用
リハビリテーション: 早期から股関節・膝・足趾の自動運動を始め、術後24〜48時間で創に問題がなければ理学療法士の指導下で足関節の自動運動を始める[1]
シンデスモーシスねじの抜去: 抜去については議論がある。抜去する場合は、患者が完全に活動復帰する前の術後12〜16週に行う[1] 。スーチャーボタン法ではシンデスモーシスねじよりインプラント抜去率が低かった(6.0% vs 22.4%)[3]
フォローアップ
術後2週: 創部確認・X線撮影(整復位維持・インプラント位置・Mortise評価)
術後6週: 6週間ギプス固定のまま段階的に荷重を増やした場合は、この時期を過ぎれば自動運動と全荷重を許可する[1]
術後12〜16週: 脛腓結合間スクリューを抜去する場合は、患者が完全に活動復帰する前のこの時期に行う[1]
術後10〜12週: 足関節の内側要素と脛腓靱帯結合の損傷がともに靱帯性でポジショニングスクリューを抜去しない場合は、術後10〜12週まで運動制限を行う[1]
術後6ヶ月: X線(骨癒合完成・足関節アライメント・変形性関節症の早期評価)。足関節機能スコア(AOFAS・OMAS等)
術後24ヶ月まで: 成績は時間とともに改善するが、受傷後24か月間までかなりの身体的障害がしばしば残る[1]
予後
骨癒合率:腓骨骨折は約95〜98%(内固定良好例)
靭帯修復:遠位脛腓関節の整復不良があると、靱帯結合部は正常な張力で治癒せず、慢性的な靱帯結合不安定性に至る[1]
足関節可動域:背屈10〜15°以上・底屈30〜40°以上を目標
主要合併症:創部感染・シンデスモーシスの固定不全・慢性不安定・外傷後変形性足関節症
距腿関節窩の適合性のわずかな障害でも接触面積が減少し、関節軟骨に過剰な負荷がかかる可能性がある[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(44-C1 = 脛腓靭帯上型・単純腓骨骨折。Danis-Weber C型) 2 下腿全長X線撮影で腓骨近位骨折(Maisonneuve骨折)を除外したか 3 Mortise viewで内側関節裂隙(内果と距骨内側の間隔)が距骨–脛骨天蓋間の関節裂隙と等しいか、距腿角(83±4°)が保たれているかを評価したか[1] 4 内果骨折または三角靱帯断裂の有無(靱帯はX線像で認識できないため、骨折形態から靱帯損傷を推察する)[1] 5 後果骨折の合併確認(X線側面像で関節内骨片の大きさを評価。全関節面の25%未満で、距骨が後方へ亜脱臼する傾向がなければ固定不要)[1] 6 腓骨固定後のストレステスト実施(フックテスト / 術中の外旋ストレス下X線透視。内側関節裂隙が2mm以上開大すれば不安定を疑う)— 脛腓靱帯結合の不安定の有無を確認[1] 7 脛腓靱帯結合のポジショニングスクリューの刺入方向(腓骨から脛骨へ、後方から前方に25〜30°傾け脛骨天蓋と平行に、脛腓関節の2cm近位に挿入。足関節は中間位とし背屈は不要)[1] 8 術後X線(Mortise viewを含む)で内側関節裂隙・腓骨長(脛骨天蓋と外果の軟骨下骨層の段差)・距腿角を確認[1] 9 VTE予防薬の処方確認(術後12〜24時間以内に開始)
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Tornetta P 3rd, Ricci WM(2020)Rockwood and Green's Fractures in Adults, 9th ed. Lippincott Williams & Wilkins.
Shimozono Y, Hurley ET, Myerson CL, et al.(2019)Suture Button Versus Syndesmotic Screw for Syndesmosis Injuries: A Meta-analysis of Randomized Controlled Trials. Am J Sports Med, 47(11):2764–2771. PMID: 30475639
Gardner MJ, Demetrakopoulos D, Briggs SM, et al.(2006)Malreduction of the tibiofibular syndesmosis in ankle fractures. Foot Ankle Int, 27:788–92. PMID: 17054878