足関節骨折のAO分類44Aは脛腓靱帯結合より遠位での腓骨損傷 で、Danis-Weber分類のA型(Weber A)に相当し、44-A1はその孤立性腓骨骨折を指す。足関節の高さより低い腓骨横骨折は脛腓靱帯が保たれた状態で生じる内転損傷と考えられ、内側の損傷を伴わない単独骨折は安定しており、保存的に治療できる [1] 。転位した足関節損傷は不安定なことが多く、観血的整復・内固定が選択される[1] 。
重症度・疫学
年間発生件数(日本): 足関節骨折全体は約110〜140/100,000/年と日本における最頻骨折の一つ。44-A1(Weber A型)は全足関節骨折の約20〜25%を占め、スポーツ関連受傷が多い
好発: 足関節骨折全体では、単純な転倒やねじれ損傷によるものは高齢女性に、主にサッカーによるスポーツ外傷は若年男性に多い[2]
受傷機転: 足部が回外した状態で距骨に内転方向の外力が加わり、緊張下にある外側がまず破綻する。外側側副靱帯の断裂、靱帯付着部の裂離骨折、または脛骨天蓋のレベルかそれよりわずか遠位での外果の横骨折となる[1]
注意すべき合併症
内果の剪断圧迫骨折の合併(外側損傷に加え垂直方向の軸圧で距骨が傾斜した場合)[1]
外側側副靱帯(前距腓靱帯など)の断裂・靱帯付着部の裂離骨折(同じ内転外力で外果の骨折の代わりに生じうる)[1]
距骨の骨軟骨損傷(外側損傷に垂直方向の軸圧が加わり距骨が傾斜した場合に起こりうる)[1]
浅腓骨神経の損傷(外側進入時、腓骨前方を走行するため注意する)[1]
足関節骨折の保存療法後の二次転位(一般に手術を要する)[2]
不適切な保存療法による慢性足関節不安定症への移行
深部静脈血栓症(Weber B 骨折の研究で、ギプス固定中の全例に低分子量ヘパリン1日1回の血栓予防を行った報告がある)[4]
治療方針
⚠️ 保存療法(転位なし・安定型の第一選択)
→ 適応:内側の損傷を伴わない単独骨折(安定型)[1] → 膝下ギプスで数週間固定する(歩行ギプスを用いる方法もある)[2] → ストレスX線撮影は完全な麻酔下で行い、健側と比較する場合にのみ有用である[1] → スポーツ選手では競技復帰を考慮し、安定型であっても機能的装具固定(早期可動域訓練)が有利 → 内側の損傷を伴わない単独骨折で安定していれば保存的に治療できる[1]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 転位のある骨折(転位した足関節損傷は不安定なことが多い)[1] ℹ 距腿関節窩の転位を示す所見(距腿角が83±4°から外れる、内果と距骨内側の間隔が距骨と脛骨天蓋間の関節裂隙と等しくない)[1] ℹ 足関節骨折の保存療法後の二次転位(一般に手術を要する)[2] ℹ 開放骨折(デブリドマンの後、距腿関節窩の解剖学的整復と安定した固定を行う)[1] ℹ 術式:ORIF(1/3円プレートによるテンションバンド固定、テンションバンド法、腓骨髄腔内への逆行性スクリュー)[1] ℹ 骨質がよく外果骨片が大きめの場合 → 骨の形状に合わせた1/3円プレートに軽く圧迫をかけテンションバンドとして固定[1] ℹ 外果先端部のみの裂離骨折 → K-ワイヤ2本を挿入しテンションバンド法で圧迫固定(必要に応じて靱帯縫合を追加)[1] ℹ 腓骨整復後も術中X線で内側関節裂隙の開大が残る、または腓骨の正確な整復が困難な場合 → 内側を展開する(三角靱帯損傷は常に展開を要するわけではない)[1]
治療選択アルゴリズム — 安定性評価(ストレスX線)→保存療法 vs ORIF(プレート or 髄内スクリュー)の選択基準
診断・評価
理学所見では開放創・腫脹・変形・打撲・圧痛をみる。皮膚の変色や脱色は、皮膚の損傷と迅速な整復操作の必要性を示す場合がある。足部の神経血管損傷を注意深く評価する[1] 。
X線正面像・mortise view(下腿20°内旋)・側面像: 腓骨の骨折線と転位を評価する。腓骨の短縮は脛骨天蓋と外果の軟骨下骨層の段差で評価する。距腿角は83±4°で、外れる場合は不安定性・腓骨長の変化・距腿関節窩の転位を示唆する。距骨と脛骨天蓋間の関節裂隙は内果と距骨内側の間隔と等しい[1]
CT: 果部骨折でCTが必要となることは稀だが、正確な骨折型や損傷のメカニズムが明確でない場合に有用。脛腓靱帯結合より遠位の回外-内転骨折では、脛骨関節面内側の嵌入を描出し術前計画に役立つことがある[1]
MRI: 骨軟骨損傷(距骨ドーム)・三角靭帯・ATFLなど靭帯損傷の評価に使用(骨折所見のみでは判断困難な場合)
術前X線正面像(mortise view)・側面像 — 腓骨遠位端横骨折(脛腓靭帯より遠位)・足関節モルティス正常・内側クリアスペース評価
外反ストレスX線像(重力ストレス像)— 距骨傾斜角の評価(≦2°が安定型)と内側クリアスペースの変化
44-A骨折分類比較 — A1(孤立性腓骨遠位端骨折)vs A2(腓骨骨折+内果骨折)vs A3(腓骨骨折+後内側骨折)の3パネル模式図
✅ 許容される整復(保存療法の継続基準)
✓ 転位のない安定した骨折であること[1] ✓ 距骨傾斜角(外反ストレス像)≦2° ✓ 内果と距骨内側の間隔が距骨と脛骨天蓋間の関節裂隙と等しい[1] ✓ 脛腓クリアスペース ≦5mm ✓ 足関節モルティスの正常な解剖学的関係が保たれている
❌ 許容されない変形・不安定性
✕ 転位のある不安定な骨折[1] ✕ 距骨傾斜角 >2°(外反ストレス像)→ 内側不安定性を示す ✕ 内果と距骨内側の間隔が距骨と脛骨天蓋間の関節裂隙と等しくない[1] ✕ 脛腓クリアスペース >5mm(脛腓靭帯損傷を示唆) ✕ 腓骨の短縮(わずかな短縮でも脛骨天蓋と外果の軟骨下骨層の段差として認識できる)[1]
手術手技
体位
仰臥位(患側殿部下に砂嚢): 患側殿部下に砂嚢を入れて麻酔下の下肢外旋を防ぎ、足部を中間位とする。下腿は柔らかい枕にのせて膝関節を30°屈曲位とし、内側・外側ともに展開しやすくする。止血帯は必須ではないが使用してもよい。透視装置は手術台の遠位から導入する[1] 。
手術体位 — 仰臥位・ボルスター設置・止血帯・Cアーム配置(AP mortise view/側面)
ORIF(外側プレート固定) — 第一選択
腓骨遠位端へは外側進入法 を用い、type A損傷では前外側皮切を用いることもある。外果の骨折型(横骨折・骨靱帯性の裂離・先端部のみの裂離)と骨質によって、1/3円プレート、テンションバンド法、逆行性髄内スクリューを使い分ける[1] 。
腓骨外側プレートまたはアンチグライドプレートによるORIF術中透視像(正面・側面)およびラグスクリュー配置
アプローチ(外側): 最小限の軟部組織剥離で整復・内固定が行える部位にまっすぐな皮切をおく。外側プレートを用いる場合は、プレートが縫合部の直下にならないよう皮切をやや前方におく。腓骨前方を走行する浅腓骨神経を損傷しないよう注意する[1]
骨折部の展開・血腫除去: 軟部組織の剥離は最小限にとどめ、血腫除去・骨膜剥離・整復・仮固定に必要な最小限の範囲で骨折部を展開する[1]
整復・仮固定: 先端鋭の小さな整復鉗子で解剖学的に整復し、K-ワイヤで仮固定する[1]
骨靱帯性・外果先端の裂離骨折: 外側の損傷が骨靱帯性の場合は、テンションバンド法か腓骨の髄腔内へ挿入する逆行性スクリューを使用できる。外果先端部のみの裂離骨折ではテンションバンドワイヤが有用[1]
プレート固定(横骨折): 横骨折を伴って完全に裂離した外果は整復し、テンションバンドとして機能するように1/3円プレートで固定する。骨粗鬆症の骨では、特に腓骨においてロッキングプレートも有用[1]
抗滑走(支持)プレート(骨粗鬆症例): 骨粗鬆症がある場合は、抗滑走プレートを支持プレートとして使用する方法や、腓骨長を再建するための間接的整復手技がすすめられる[1]
X線での確認: 腓骨長は、脛骨天蓋と外果の軟骨下骨層のアライメントに段差がないことで評価する[1]
内側の評価: 腓骨整復後の術中X線で内側関節裂隙の開大が残存する場合や腓骨の正確な整復が困難な場合は内側を展開し、嵌頓した内側側副靱帯や骨軟骨骨片を取り除いたうえで三角靱帯を修復する[1]
⚠️ ORIF ピットフォール
✕ 腓骨の回旋変形 — 腓骨骨折の解剖学的整復が得られなかった場合は、回旋変形を除外するために術後早期に脛腓靱帯結合部のCTを撮影する[1] ✕ 腓骨の短縮 — わずかな短縮でもX線で脛骨天蓋と外果の軟骨下骨層の段差として認識できる。距腿角(83±4°)の異常も腓骨長の変化を示唆する[1] ✕ スクリューが関節内に貫通する(遠位スクリューの方向・長さを透視で複数方向確認) ✕ 脛骨関節面内側の嵌入の見落とし — 内転(回外)骨折では(疑いがあればCTで)診断し、整復後に小さな骨移植片で支える[1] ✕ 浅腓骨神経の損傷 — 腓骨前方を走行しており、外側皮切で損傷しないよう注意する[1] ✕ アンチグライドプレートの遠位端が腱鞘を圧迫 — プレート遠位端が腱上に乗り上げないよう配置を確認
術後管理
術後X線正面像(mortise view)・側面像 — 腓骨外側プレート+ラグスクリューによる固定。腓骨長・回旋回復・足関節モルティスの整復を確認
手術タイミング: 本格的な腫脹や水疱が形成される前が理想。皮内浮腫・著明な皮下浮腫・骨折水疱がある場合は手術を延期し、骨折水疱の消失、擦過傷の上皮化、皮切予定部位のしわの出現を指標に軟部組織の改善を待つ[1]
術後荷重: ギプス固定下またはフリーでの荷重は内固定の安定性や患者の協力度に大きく左右される。早期に可動域運動を開始した群はより早期に完全復帰が可能であったが、6週間ギプス固定のままで段階的に荷重を増やした群でも特に問題は経験されていない。この時期が過ぎれば自動運動と全荷重を許可する[1]
VTE予防: Weber B 骨折の研究では、ギプス固定中の全例に低分子量ヘパリン1日1回を血栓予防として投与していた[4]
疼痛管理: 多モード鎮痛(アセトアミノフェン定期投与・NSAIDs・局所浸潤麻酔)。区域麻酔(腓骨神経ブロック)を術後疼痛管理に活用。必要に応じて弱オピオイドを短期間使用
リハビリテーション: 早期から股関節・膝・足趾の自動運動を奨励し、24〜48時間で創に問題がなければ理学療法士の指導下で足関節の自動運動を始める[1]
フォローアップ
術後2週: X線撮影(整復位の損失がないことの確認と骨癒合の観察。Weber B 骨折の研究で2週と6週に撮影した報告がある)[4]
術後6週: X線撮影(整復位の損失がないことの確認と骨癒合の観察。Weber B 骨折の研究で2週と6週に撮影した報告がある)[4]
術後12週: X線撮影(骨癒合判定・全荷重開始の最終評価)。機能評価(AOFAS スコア等)
術後6ヶ月: X線撮影(骨癒合完成・アライメント確認)。スポーツ復帰最終評価
術後12ヶ月: X線(長期アライメント・足関節変性評価)。患者満足度・機能スコア評価
予後
骨癒合率:約95〜98%(適切な固定・荷重管理の場合)
保存療法:靱帯結合より遠位での骨折(type A)のうち、内側の損傷を伴わない単独骨折は安定しており、保存的に治療できる[1]
足関節可動域:背屈10〜15°以上・底屈30〜40°以上を目標(正常:背屈15〜20°、底屈40〜50°)
スポーツ復帰率:適切な治療・リハビリで約90%以上が競技復帰可能(術後3〜6ヶ月)
主要合併症:創部感染(1〜3%)・腓骨神経浅枝損傷(1〜5%)・足関節慢性不安定症(靭帯損傷合併で管理不良の場合 5〜10%)・外傷後変形性足関節症(10〜15年で約5〜10%)
現在の診療では、Weber A 骨折の多くは保存的に治療されている[2]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(44A = 靱帯結合より遠位での腓骨損傷 = Weber A型。腓骨骨折の高さで A・B・C に分類)[1] 2 転位と安定性の評価(転位のない安定した骨折は非観血的治療、転位のある不安定な骨折はORIFを検討)[1] 3 3方向X線(正面像・mortise view・側面像)で距腿関節窩を評価(距腿角 83±4°、脛骨天蓋–距骨間の関節裂隙と内果–距骨内側の間隔が等しいか)[1] 4 ストレスX線は完全な麻酔下で健側と比較する場合にのみ有用。回外-内転骨折で脛骨関節面内側の嵌入が疑われればCTを検討[1] 5 外側・内側の損傷の確認(type A の外側損傷は外側側副靱帯の断裂・付着部の裂離骨折・外果横骨折。内転外力が続くと内果の剪断圧迫骨折)[1] 6 距骨の骨軟骨損傷の有無を確認(内側損傷に伴い起こりうる)[1] 7 足部の神経血管損傷の評価[1] 8 術後荷重の確認(内固定の安定性と患者の協力度に応じて判断。6週間ギプス固定下で段階的に荷重を増やしたのちは自動運動と全荷重を許可)[1] 9 VTE予防薬の処方確認
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Donken CC, Al-Khateeb H, Verhofstad MH, et al.(2012)Surgical versus conservative interventions for treating ankle fractures in adults. Cochrane Database Syst Rev, 8:CD008470. PMID: 22895975
Bauer M, Bergström B, Hemborg A, et al.(1985)Malleolar fractures: nonoperative versus operative treatment. A controlled study. Clin Orthop Relat Res, 199:17–27. PMID: 3930121
van Schie-Van der Weert EM, van Lieshout EM, de Vries MR, et al.(2012)Determinants of outcome in operatively and non-operatively treated Weber-B ankle fractures. Arch Orthop Trauma Surg, 132:257–63. PMID: 21959696