脛骨遠位関節面(プラフォン)の一部のみに骨折線が及ぶ部分関節内骨折で、矢状面方向の骨折線が関節面を内側・外側に分割する 。AO分類43-B1に相当し、いわゆる「ピロン骨折」の中で関節破壊が限定的な型である。骨幹端後方皮質と対側皮質は温存されており、完全関節内型(43-C)よりも骨折パターンは単純だが、関節面の正確な解剖学的整復と安定した内固定が長期予後を左右する 。治療の第一選択はORIF(解剖学的プレート+ラグスクリュー) であり、軟部組織の状態が手術タイミングを決定する重要因子となる。
重症度・疫学
頻度: ピロン骨折は下肢損傷の1%未満であり、脛骨骨折の3〜10%を占める[1]
好発: 矢状面family骨折は若年患者の高エネルギー外傷で内反位を呈し、冠状面family骨折は高齢患者の低エネルギー外傷で外反位を呈する[4]
受傷機転: 低エネルギー外傷(たとえばスキー)または高所転落・自動車の衝突などの高エネルギー外傷から起こりうる。骨折型は足の位置によって大きく異なり、底屈位は後方損傷、背屈位は前方損傷、中間位は前方および後方の嵌入をもたらす[1]
注意すべき合併症
コンパートメント症候群(臨床評価で徴候に特に注意する。認めた場合は手術適応[1] )
開放骨折の合併(デブリドマン・早期の創外固定・陰圧閉鎖療法など段階的プロトコルで管理する[1] )
軟部組織損傷(水疱・挫滅):重度の軟部組織損傷を伴うことが多く、治療方針と手術のタイミングが影響を受ける[1]
外傷後関節症(ピロン骨折後の最も多い長期合併症で、損傷の重症度と整復の質に相関する[1] )
腓骨骨折の合併(126骨折のうち全長像が得られた124例中104例に腓骨骨折を認めた[4] )
DVT/PE(長管骨骨折・臥床期間延長により高リスク)
創部感染・骨髄炎(腫脹し損傷した軟部組織を通した受傷直後の内固定は危険であり、歴史的に高い感染率・創部合併症の原因となりうる[2] )
遷延癒合・偽関節(関節内骨折の偽関節は稀だが、骨幹端部の偽関節は比較的多い[1] )
治療方針
⚠️ 保存療法(転位のない安定した閉鎖骨折・手術リスクが過度に高い例に限る)
→ 転位のない安定した閉鎖骨折、または重篤な併発疾患で手術のリスクが過度に高い場合に考慮する[1] → 短下肢ギプス固定+定期X線フォロー → 軟部組織の状態が不良な場合は、関節架橋型の創外固定器(span)による初期整復と二期的なORIFという段階的(span, scan, plan)プロトコルを適用する[1] → 腫脹・水疱が著明な場合は軟部組織の腫脹が十分に消退するのを待ち、受傷後7〜14日にORIFへ移行する[2]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 内固定はプレートに支持機能をもたせ、多くのピロン骨折で内側および前外側の支持プレートとラグスクリューによる関節骨片の固定を要する[1] ℹ 低エネルギー外傷・最小限の軟部組織損傷の単独閉鎖骨折 → 受傷24時間未満の早期ORIF[1] ℹ 軟部組織損傷高度(腫脹・水疱・開放創)→ 暫定的創外固定 → 腫脹消退後の受傷7〜14日にORIF(Staged Protocol)[2] ℹ 腓骨骨折の合併 → 腓骨固定を先行させてから脛骨関節面整復(長さ・回旋の基準を取る) ℹ 骨粗鬆症・脛骨骨幹端の著しい粉砕 → 関節周囲用ロッキングプレートとスクリューで固定力が上がる[1] ℹ 単純な骨折型 → 骨片間ラグスクリューのみでの固定が可能[4]
治療選択アルゴリズム — 軟部組織評価→早期ORIF vs Staged Protocol(創外固定→ORIF)の選択基準
診断・評価
足関節の高度腫脹・疼痛を呈する。臨床評価には軟部組織の状態・開放創・血流・足部の知覚や運動機能を含め、コンパートメント症候群の徴候に特に注意する 。水疱を伴う腫脹は重度の軟部組織損傷による皮膚の血流障害を示し、閉鎖性のデグロービングも珍しくない。大きく転位した骨折・脱臼骨折は直ちに整復して外固定する[1] 。
X線正面像・側面像: 足関節の標準的な正面像・側面像・mortise像を撮影し、脛骨全長像でアライメントと近位の膝を評価する。腓骨の骨折型から損傷メカニズムを、側面像の距骨の転位パターンから転位の方向を予測できる[1] 。
CT: 関節内骨折の評価に必須。矢状面・冠状面・横断面で骨折線の方向・関節面転位量・骨片形態を確認。骨折線の方向(矢状面の内側-外側分割パターン)・関節面転位量を確認する。矢状面骨折(43-B1)では縦方向の骨折線が主体であり、Chaput骨片・Volkmann骨片は43-B2/B3/C型で主に問題となる骨片名であることに留意する。
術前X線正面像・側面像 — 矢状面方向の関節内骨折線(プラフォンの縦割れ)と腓骨骨折の合併
CT横断面・矢状断面 — 骨折線の方向・関節面転位量・骨片形態の評価
43-B骨折分類比較 — B1(矢状面型)vs B2(冠状面前方型)vs B3(後方型)の3パネル模式図
✅ 許容される整復
✓ 関節面転位 ≦2mm(2mm以上のギャップは手術適応[1] ) ✓ 外反変形 ≦5°(内反変形は許容されない[1] ) ✓ 矢状面のアライメントを回復する ✓ 回旋を解剖学的に修復する ✓ 腓骨の正確な長さを回復し、脛骨長を維持する
❌ 許容されない変形
✕ 関節面転位 >2mm(整復の質は外傷後関節症と相関する[1] ) ✕ 内反変形(関節面の2mm以上のギャップ・外反変形>5°・内反変形は手術適応とされる[1] ) ✕ 矢状面family(矢状split型・逆V型・T型)の骨折線と骨片の評価不足[4] ✕ 腓骨骨折の未固定(腓骨の固定は下肢の長さ・回旋の回復のために行う。骨折型によっては固定しない症例もある[1] ) ✕ 軟部組織の状態不良時の強引な早期ORIF(腫脹し損傷した軟部組織を通した内固定は危険であり、受傷数日後の内固定は避ける[2] )
手術手技
体位
仰臥位: 準備中は骨折部位での過度の変形を避けるため患肢に徒手的に軽い牽引力を加える。大腿中央から足趾にかけて下肢を消毒し、止血帯の下に液体が浸み込まないよう注意する。足関節は滅菌クッションの上で15°内旋させ、透視装置もドレーピングする[1] 。
手術体位 — 仰臥位・ボルスター設置・透視配置(AP/側面)。足関節中立位での透視確認が可能な配置
腓骨固定(先行手技)— 合併例
腓骨骨折を合併する場合は脛骨固定前に腓骨固定を行い、長さ・回旋の解剖学的基準を確立する。
外側アプローチ: 外側または後外側アプローチで腓骨に到達する。これらのアプローチでは創離開や皮膚壊死が起こりにくい[1]
直視下整復: 単純な腓骨骨折は解剖学的な整復を行い、多骨片骨折では解剖学的な長さ・アライメント・回旋を修復する[1]
プレート固定: 単純骨折はラグスクリューと1/3円プレート、複雑な骨折は3.5mm LCP・腓骨用アナトミカルロッキングコンプレッションプレートまたは髄内釘での架橋で固定する[1]
長さ・回旋の確認: 単純な腓骨骨折は解剖学的整復を、多骨片骨折は解剖学的な長さ・アライメント・回旋の修復を確認してから次ステップへ[1]
ORIF(解剖学的プレート+ラグスクリュー) — 第一選択
骨折パターンに応じて前内側アプローチ (内側骨片主体)または前外側アプローチ (前外側Tillaux-Chaput骨片主体)を選択する。
前外側アプローチ+解剖学的プレートによるORIF術中透視像(正面・側面)および内側ラグスクリュー配置
アプローチ選択(前外側 or 前内側): CT画像を慎重に分析して整復手技と固定方法の両方を計画する。前内側皮切は関節の内側や前方へのアクセスが容易だが前外側のTillaux-Chaput骨片へはアクセスしにくく、前外側進入法はTillaux-Chaput骨片へ直接アクセスできる(第4中足骨の延長線上に切開し足趾伸筋群と腓骨の間を深部展開する)[1]
腓骨骨折固定(先行): 合併例は先に腓骨を固定し長さ・回旋の基準を確立
関節面の直視: 前方からの進入では正面から「本を開く」ようにして骨折線を通して関節面を直視する。ディストラクタを併用すると整復操作のために関節面を直視できる
主骨片の整復(Step 1): 創外固定器またはディストラクタで牽引して関節面を直視し、嵌入を解除して骨片塊に対して整復、K-ワイヤで仮固定する
ラグスクリュー固定: 単純な骨折線は骨片間ラグスクリューで固定する。矢状面型は前方から直接展開できるが、固定スクリューは冠状方向に経皮的に刺入する必要がある[4]
支持プレート設置: 支持プレートを設置し、関節面はrafting techniqueとして2.7mmまたは3.5mmスクリュー複数本で支持する。これらは軟骨下骨に単独で挿入するか、メインの支持プレートより遠位に設置した成形プレートを通して挿入する[1]
骨欠損への対応: 骨幹端に空洞がある場合は骨移植(自家骨または人工骨)を充填
最終確認: 正面像・側面像・mortise像で関節面とアライメントを確認する
⚠️ ORIF ピットフォール
✕ 軟部組織の状態不良時の早期ORIF — 感染・創部壊死のリスクが著しく上昇(Staged Protocolを遵守する) ✕ 腓骨固定は下肢の長さ・回旋を回復させる手段であり、骨折型に応じて先行させる(腓骨が粉砕している場合は最終段階で固定する) ✕ ラグスクリューが関節面を貫通する(術中透視を複数方向で行い確認) ✕ 矢状面骨折線(内側-外側分割)の整復不良(透視AP・斜位での確認が必須。Chaput骨片・Volkmann骨片が関与する場合は43-B2/B3/C型への再分類を検討) ✕ プレートの遠位スクリューが距骨に向いていないか確認(足関節底背屈位での透視を追加) ✕ 骨幹端の嵌入・骨欠損への骨移植を忘れない(関節面の整復をする際の支持となる)[1]
術後管理
術後X線正面像・側面像 — 腓骨プレート+脛骨解剖学的プレート・ラグスクリューによる固定。関節面平坦化・アライメント回復を確認
手術タイミング: 軟部組織損傷が少ない単純な閉鎖骨折は受傷後24〜36時間以内に根治的固定が可能[1] 。軟部組織の状態が不良な場合は関節架橋型創外固定器を装着し、浮腫が軽減して皮膚にしわがより始め(wrinkle sign)水疱が上皮化する通常7〜17日以内を待ってORIFへ移行[1]
術後荷重: 離床後はつま先接地歩行(荷重10〜15kg)から始め、骨癒合に応じて6〜8週後に荷重を増やす。全荷重は通常3か月以上経過してから[1]
VTE予防: エドキサバンまたは低分子ヘパリン皮下注を術後12〜24時間から開始(最低14日間。高リスク例では4週間継続)
疼痛管理: 多モード鎮痛(アセトアミノフェン定期投与・NSAIDs・局所浸潤麻酔)。区域麻酔(腓骨神経ブロック・脛骨神経ブロック)を術後疼痛管理に活用
リハビリテーション: 術後2〜5日間は下肢を挙上し、尖足変形を予防するため足部を中間位で支持する。数日以内に自動介助運動を開始し、荷重は骨癒合に応じて段階的に増やす[1]
フォローアップ
術後3週: ギプスを除去して創部を確認し、抜糸する[2]
術後6〜8週: 骨癒合の進行に応じて荷重を増やす(遷延癒合があれば早期の自家骨移植を検討)[1]
術後3か月以降: 骨癒合の状態を確認して全荷重へ移行[1]
長期経過: 外傷後関節症はピロン骨折後の最も多い長期合併症であり、まず薬物療法・靴の微調整・足関節装具・コルチコステロイド注射で治療する[1]
術後12ヶ月以降: インプラントによる軟部組織の刺激症状があれば抜去を検討する。抜去に最適な時期は完全なリモデリング後、少なくとも手術後12か月以降である[1]
予後
偽関節:関節内骨折では稀だが、骨幹端部の偽関節は比較的多くみられる[1]
関節面に2mm以上のギャップがあれば手術適応となる。外傷後関節症は損傷の重症度と整復の質に相関する[1]
可動域:半数以上が正常可動域の75%以上を獲得し、92%が結果に満足していたとの報告がある[1]
主要合併症:段階的プロトコルで治療した閉鎖骨折では部分層の皮膚壊死が17%(29例中5例)、晩期合併症は骨髄炎による慢性排膿洞の1例(3.4%)[2]
段階的プロトコル(腓骨長の回復と脛骨創外固定の先行)により軟部組織が安定し、浮腫が軽減してから解剖学的整復・内固定を行えば創部の問題は最小限にとどまる[2]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(43-B1 = 脛骨遠位部・部分関節内・矢状面型) 2 軟部組織の状態評価(水疱・腫脹・皮膚の光沢・Wrinkle sign)— 手術タイミング決定の最優先事項 3 CT評価完了(粉砕の程度・骨片の位置と数・転位の方向を確認し、整復・固定のための最適なアプローチを計画する[1] 。矢状面familyでは矢状split型・逆V型・T型の判別も行う[4] ) 4 腓骨骨折の合併確認と固定計画(脛骨固定前に腓骨固定が原則) 5 神経血管評価(足背動脈・後脛骨動脈・腓骨神経・脛骨神経) 6 コンパートメント症候群の徴候に特に注意する[1] 7 進入法の計画(前外側 vs 前内側 — 軟部組織の状態・関節内粉砕・骨幹端-骨幹部要素・転位パターン・予定するインプラントの位置から決定) 8 術後荷重スケジュール確認(つま先接地歩行 荷重10〜15kgから開始 → 6〜8週後に荷重増加 → 3か月以上経過してから全荷重)[1] 9 VTE予防薬の処方確認
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Sirkin M, Sanders R, DiPasquale T, et al.(2004)A staged protocol for soft tissue management in the treatment of complex pilon fractures. J Orthop Trauma, 18:S32–8. PMID: 15472563
Pollak AN, McCarthy ML, Bess RS, et al.(2003)Outcomes after treatment of high-energy tibial plafond fractures. J Bone Joint Surg Am, 85:1893–900. PMID: 14563795
Topliss CJ, Jackson M, Atkins RM(2005)Anatomy of pilon fractures of the distal tibia. J Bone Joint Surg Br, 87:692–7. PMID: 15855374