脛骨骨幹部の分節骨折 で、AO/OTA分類42-C2(complex fracture, segmental)に相当する[2] 。Type C骨折は高エネルギー外傷によるもので、多骨片や分節骨折をいう[1] 。転位した脛骨骨幹部閉鎖骨折には髄内釘 が標準で、ほとんどの脛骨骨折でリーミングが最良の選択とされる[1] 。
重症度・疫学
年間発生件数: 脛骨骨折の全体的な発生率は20/10万人/年と推定される[1]
好発: 脛骨骨折のリスクが最も高いのは10代の少年で、発生率は39/10万人/年[1]
受傷機転: Type C骨折は高エネルギー外傷によるものとされ、脛骨骨幹部骨折の24%もが開放性とされる[1]
注意すべき合併症
コンパートメント症候群 (脛骨骨折の最大9%):主症状は麻薬性鎮痛薬でも緩和されない顕著な痛みで、脈拍は通常触知できる。疑いがあればただちにコンパートメント内圧を測定するか深筋膜切開を行う[1]
偽関節 (脛骨骨折の最大14%):遠位1/3・開放骨折・高エネルギー外傷で多い。完成した非感染性偽関節ではリームドネイルへの交換が標準的治療[1]
感染 (閉鎖骨折・Gustilo I/II開放骨折で約1%、IIIaも適切な治療で同程度、IIIbで10〜40%):感染率は軟部組織損傷の程度と密接に相関する[1]
神経損傷 :動脈損傷ほど多くないが、総腓骨神経と後脛骨神経の運動・知覚機能を正確に評価する[1]
血管損傷 :動脈損傷は比較的多い。外傷後に足背動脈と後脛骨動脈の拍動を確認する。足趾の毛細血管再充満も評価するが、若年患者の重篤な動脈損傷では側副血行路により足の血色がよく、誤解を招くことがある[1]
DVT/PE :脛骨骨幹部骨折の髄内釘の試験で深部静脈血栓症9例、肺塞栓7例[2]
脂肪塞栓症候群(FES) :約1〜3%。受傷後12〜72時間の呼吸状態・意識を経時的に評価
治療方針
転位した脛骨骨幹部閉鎖骨折には髄内釘が標準で、保存的治療を検討するのは不全骨折・疲労骨折・低エネルギー外傷による転位のない/少ない骨折である[1] 。
⚠️ 保存療法(原則非適応)
→ 転位した閉鎖骨折には髄内釘が標準で、保存的治療は横止めネイルに比べ疼痛が多く、変形癒合率・遷延癒合率が高く、機能的転帰も劣るとの研究がある。保存的治療を検討するのは不全骨折・疲労骨折・低エネルギー外傷による転位のない/少ない骨折[1] → 例外:手術不能な重篤全身状態の場合の一時的骨牽引(Steinmannピン牽引) → 開放骨折や多発外傷ではダメージコントロールと創のデブリドマンが最良の戦略となりうる。軟部組織の対処では、整復後の創外固定器装着が合理的な初期治療[1]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 第一選択:リーミング髄内釘(Reamed IM Nailing)— ほとんどの脛骨骨折でリーミングが最良の選択とされる[1] ℹ 近位エントリー:経膝蓋腱または傍膝蓋骨進入(膝痛や合併症に差はなく、術者の経験と好みで選ぶ)[1] ℹ 静的ロッキング:近位2本・遠位2本の横止めスクリューが推奨される[1] ℹ 創外固定の後に髄内釘を計画する場合:感染リスクの増加を防ぐため、受傷後2週間以内に髄内釘へ交換する[1] ℹ 代替:プレート固定(MIPO — Minimally Invasive Plate Osteosynthesis)— ネイルが適用できない症例(髄腔が狭い・変形の既往・インプラント周囲骨折)や、近位1/3・遠位1/3の転位した不安定骨折[1] ℹ 骨欠損:多骨片骨折では骨欠損は珍しくなく、治療にはMasquelet法やIlizarov法などの特別な技術が必要となる[1]
治療選択アルゴリズム — 分節型脛骨骨幹部骨折(42-C2)の治療フロー
診断・評価
下肢全体の創傷・汚染・挫傷・腫脹・水疱を観察して記載する。神経血管検査は必須で、足背動脈と後脛骨動脈の拍動、足趾の毛細血管再充満、総腓骨神経と後脛骨神経の運動・知覚を評価する。ただし若年患者の重篤な動脈損傷では、側副血行路により足の血色がよく誤解を招くことがある。コンパートメント症候群では脈拍は通常触知でき、主要な症状は麻薬性鎮痛薬でも緩和されない顕著な痛み、徴候は緊張・光沢のある皮膚、足部・足趾の他動伸展時痛、第一趾間の感覚異常である[1] 。
X線: 下腿の標準的な正面像・側面像。膝関節と足関節を含めるか、別々に撮影する[1]
CT: 重傷患者の外傷精査では四肢のCT血管造影が必要になることが多く、末梢循環と骨の状態の評価に役立つ[1]
X線AP像・側面像 — 脛骨骨幹部分節骨折(2本の骨折線・中間骨片)
骨折パターン分類 — 42-C1(複雑螺旋型)vs 42-C2(複雑分節型)vs 42-C3(複雑不規則粉砕型)比較
✅ 許容される整復
✓ 機能的整復:長さ・アライメント・回旋を回復し、下肢の力学的な軸を復元する[1] ✓ 回旋:術野に含めた対側下肢と比較して評価する[1] ✓ 短縮:適切な長さを修復すると角状変形も矯正される[1] ✓ プレート固定では骨折骨片の血行をできるだけ温存し、骨膜を残すよう整復操作を愛護的に行う[1]
❌ 許容されない変形
✕ アライメント不良(下肢の力学的な軸が復元されていない整復)[1] ✕ 回旋変形(外旋変形は内旋変形の2倍の頻度で、単純な骨折型より複雑な骨折型で生じやすい)[1] ✕ 短縮(長さが回復していない整復) ✕ 分節骨片の完全血流遮断(骨壊死 → 偽関節の原因)
手術手技
体位
仰臥位(膝屈曲位): 放射線透過性の手術台で膝を放射線透過性の三角枕で屈曲させる(牽引手術台・パッド付き膝台・半伸展位も選択肢)。外科医は患側に立ち、透視装置は手術台の対側・骨折の内側に脛骨長軸と垂直に置く[1] 。
手術体位 — 仰臥位・膝屈曲30°〜60°・ターニケット装着・C-arm設置位置
順行性髄内釘(Antegrade IM Nailing)— 第一選択
エントリーポイント — 膝蓋腱内側(半伸展位)または膝蓋腱外側アプローチ。脛骨近位エントリーの透視ガイド下確認
整復: 徒手牽引や大腿骨ディストラクタ(Schanzスクリュー)で長さ・アライメント・回旋を回復する。ディストラクタは多骨片骨折など一定した牽引が要るときに有用で、Schanzスクリューは髄内釘の挿入路を妨げない位置に入れる。長さの回復後は経皮的鉗子で微調整しネイル挿入まで保持する[1]
エントリーポイント作成: 経膝蓋腱または傍膝蓋骨進入。正しいエントリーポイントは正中線上で軟骨のすぐ前方、脛骨粗面の十分上方にあり、髄腔開削前に透視の正面像・側面像で確認する。後方皮質の穿孔を避けるため膝を屈曲しておく[1]
リーミング(拡髄): cortical chatter を感じるまでリーミングし、目的のネイル径より1〜1.5mm大きく拡髄する[1] 。閉鎖骨折ではリーミングの利点の可能性が示されたが、開放骨折ではリームドとアンリームドに差はなかった[2]
リーミング(段階的拡髄)— 分節型では骨折部を越えてのリーマー通過を慎重に行う
ネイル選択・挿入: 骨幹部ではネイル挿入により骨折部が整復される。近位や遠位の髄腔拡大部の骨折では、ネイル自体を整復の道具として使えない[1]
遠位ロッキング: 遠位に2本の横止めスクリューを挿入する。先に遠位を横止めしておくと、骨片間ギャップが残る場合に back-tapping で閉じられる[1]
分節骨片の位置確認: ネイル挿入後に骨片間ギャップと回旋を確認する(ギャップは回旋異常に起因することがあり、遷延癒合につながる)。非常に不安定な骨折では経皮的整復鉗子で補助する[1]
近位ロッキング: 回旋評価後に近位2本のロッキングスクリュー挿入
最終確認: 長さ・アライメント・回旋が回復し、下肢の力学的な軸が復元されていること(機能的整復)を確認[1]
遠位ロッキング(perfect circle法)+ 分節骨折全体を架橋する最終固定構成
⚠️ IM ネイリングピットフォール
✕ 非常に不安定な骨折での整復困難 → 経皮的な整復鉗子で整復を補助し、ネイル挿入まで整復位を保持[1] ✕ 髄腔の狭小 → 髄内釘に決定したら、髄腔の最も狭いポイントの幅を術前に評価(時に最小のリーマより細い)[1] ✕ 回旋不整 → 術野に対側下肢を含め、健側と比較して回旋を評価[1] ✕ 骨膜の過剰な剥離 → リーミングで骨内膜循環が破壊された後の8〜12週は、骨膜が皮質骨の主な血液供給源[1] ✕ リーミング時の熱発生 → 鋭利なリーマを用い、目的のネイル径より1〜1.5mmオーバー目に注意深くリーミング[1]
MIPO法(最小侵襲骨接合)— 代替術式
ネイルが適用できない症例(髄腔が狭い、変形の既往歴、インプラント周囲骨折など)では、プレート固定が適応となる[1] 。
プレート挿入路: 近位切開からプレートを筋膜と骨膜の間に通して遠位へ押し進め、遠位に小皮切をおく。プレート位置は透視下で確認[1]
プレートの経皮挿入: 骨折領域の3倍程度の長さの架橋プレートを経皮的に挿入[1]
近位・遠位スクリューの固定: 多骨片骨折は架橋プレートで固定し、スクリュー同士の距離が離れ良質の骨に入っていれば、骨折部の上下それぞれ2〜3本のバイコーティカルスクリューで足りる[1]
アライメント確認: 不十分な整復や成形不十分なプレートは回旋変形を伴う固定につながるため、固定前に回旋を確認する[1]
術後管理
術後X線(AP・側面)— 順行性髄内釘+静的ロッキング(遠位2本・近位2本)。分節骨片を架橋固定した最終像
手術タイミング: 合併症の発生を注意深く観察しながら早期に手術治療を行う。軟部組織の対処では、整復後の創外固定器装着が合理的な初期治療で、早期デブリドマンに続く繰り返しのデブリドマンと5〜7日以内の軟部組織被覆を行う。一部の外傷治療システムは、軟部組織の根治的治療を72時間以内に行うことを推奨している[1]
術後荷重: 静的横止め髄内釘で固定した場合は、松葉杖による荷重の漸増をすぐに許可する。プレートの場合は部分荷重(10〜15kg)で立ち上がりを許可し、4〜6週間で荷重を増やし、骨折型と臨床経過に応じて術後12週間で全荷重を許可する[1]
VTE予防: エドキサバンまたは低分子ヘパリン皮下注を術後12〜24時間より開始(最低14日間)
コンパートメント監視: 術後に激しい痛みを訴える患者は、コンパートメント症候群を除外するため直ちに評価する。下肢のコンパートメント症候群症例の1/3以上は脛骨骨幹部骨折に合併する[1]
疼痛管理: 手術直後の数日間は浮腫軽減のため患肢を挙上し、鎮痛薬を定期的に投与する[1]
リハビリテーション: 手術直後から、足関節の尖足変形や膝の屈曲変形を防ぐため積極的な関節運動を行う[1]
フォローアップ
退院2週後: 外来で経過を確認する。脛骨骨幹部骨折の髄内釘の試験では、この時点を含む各受診で再手術の有無を確認した[2]
術後6週: 外来で経過を確認する。同試験ではこの時点の受診でも再手術の有無を確認した[2]
術後12週(3か月): 経過を確認。偽関節に対する再手術を少なくとも6か月まで遅らせると、再手術の必要が大きく減る可能性がある。この試験では、感染・骨折部ギャップ・ネイル折損・骨欠損・アライメント不良による再手術は6か月以内でも認めた[2]
術後24週(6ヶ月): 単独の脛骨骨幹部閉鎖骨折を髄内釘で固定した場合、6か月で十分に治癒する。完成された非感染性偽関節では、リームドネイルへの交換が標準的な治療法[1]
骨癒合後: 脛骨インプラントの抜去を求める患者は全例の約30%[1]
予後
偽関節による交換髄内釘・骨移植:髄内釘で治療した脛骨骨幹部骨折の4.6%(術後1年時)[2]
骨癒合期間:単独の脛骨骨幹部閉鎖骨折を髄内釘固定した場合、6か月で十分に治癒する[1]
偽関節:脛骨骨折患者の最大14%(遠位1/3・開放骨折・高エネルギー外傷で多い)[1]
感染:閉鎖骨折・Gustilo I/II の開放骨折で約1%、IIIA も適切な治療で同程度、軟部組織再建が必要な IIIB で10〜40%[1]
回旋不整:複雑な骨折型は単純な骨折型より回旋変形を伴う固定となりやすく、外旋変形は内旋変形の2倍の頻度[1]
機能予後:軟部組織や骨の大きな欠損症例を除けば、長期成績は一般に良好。修復を要する動脈損傷を伴う例では切断率が依然として高い[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(42-C2 = 脛骨骨幹部・複雑分節型) 2 X線正面像・側面像(膝と足関節を含める)で分節骨片を含む骨折全体を評価[1] 3 初診時の神経血管評価(足背動脈・後脛骨動脈の拍動、総腓骨神経・後脛骨神経の運動と知覚)を記録[1] 4 コンパートメント症候群の評価と監視計画(脛骨骨折の9%もの症例で発生)[1] 5 開放骨折ではGustilo分類を確認し、初期治療を決める(type 1・2は一次閉鎖、3Aは通常2回目のデブリドマン、3Bは軟部組織被覆、3Cは血管修復)[1] 6 術式を確認(第一選択:リーミング髄内釘。代替:プレート固定〈MIPO〉)[1] 7 髄腔の最も狭いポイントの幅を術前に評価(時に最小のリーマより細い)[1] 8 術後荷重プロトコル(静的横止め髄内釘では荷重の漸増をすぐに許可、プレートでは部分荷重10〜15kgから4〜6週で漸増)[1] 9 偽関節リスク因子(遠位1/3・開放骨折・高エネルギー外傷)を評価し追跡計画を立案[1] 10 DVT/PE予防開始タイミング(術後12〜24時間以内)
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Bhandari M, et al.(2008)Randomized trial of reamed and unreamed intramedullary nailing of tibial shaft fractures. J Bone Joint Surg Am, 90(12):2567–78. PMID: 19047701
Court-Brown CM, McBirnie J(1995)The epidemiology of tibial fractures. J Bone Joint Surg Br, 77-B(3):417–21. DOI: 10.1302/0301-620X.77B3.7744927
Keating JF, et al.(2003)Randomized prospective comparison of nail versus external fixator for unstabilised fractures of the tibial shaft. J Bone Joint Surg Br, 85-B:1167–72.