脛骨骨幹部の単一の横断方向の骨折線をもつ単純骨折 。AO/OTA分類42A3(単純な横骨折)に相当する。転位している閉鎖骨折には髄内釘が標準である[1] 。脛骨骨幹部骨折の24%もが開放性とされ、コンパートメント症候群は他のどの骨折よりも脛骨骨折で多く発生する[1] 。
重症度・疫学
年間発生件数: 全体的な発生率は約20/100,000/年と推定され、10代の少年で最も高い(39/100,000/年)[1]
好発: 10代の少年で発生率が最も高い(39/10万人/年)[1]
受傷機転: 開放骨折を合併しうる(脛骨骨幹部骨折の24%もが開放性とされる)[1]
特徴: 脛骨の前方1/3は筋肉の被覆がなく皮膚の直下にあるため、ほとんどの脛骨骨折は閉鎖骨折であっても皮膚・皮下組織の損傷を合併する[1]
注意すべき合併症
コンパートメント症候群:脛骨骨折の最大9%に発生し、開放骨折でも起こりうる。疑いがあれば直ちに区画内圧を測定するか深筋膜切開を行う[1]
開放骨折(Gustilo分類):脛骨骨幹部骨折の24%もが開放性とされる。軟部組織の対処は早期デブリドマンに続く繰り返しのデブリドマンと5〜7日以内の軟部組織被覆が最良とされ、一部の外傷治療システムは軟部組織の根治的な治療を72時間以内に行うことを推奨している[1]
感染:閉鎖骨折・Grade I/IIの開放骨折では約1%、軟部組織の再建を要するGrade IIIbでは10〜40%[1]
偽関節・遷延癒合:偽関節は脛骨骨折患者の最大14%に生じうり、遠位1/3・開放骨折・高エネルギー外傷で多い[1]
神経損傷:動脈損傷ほど多くないが、総腓骨神経と後脛骨神経の運動・知覚機能を正確に評価する[1]
脂肪塞栓症候群(FES):重大な高エネルギー外傷で発生リスク上昇
回旋異常:外旋変形は内旋変形の2倍の頻度でみられ、単純な骨折型より複雑な骨折型で生じやすい[1]
再骨折:創外固定器の抜去後は、新しい骨折を防ぐために装具装着が有用である[1]
治療方針
転位している脛骨骨幹部閉鎖骨折には髄内釘が標準である。保存的治療と横止めネイルによる手術治療を比較したいくつかの研究では、保存群のほうが痛みが多く、変形癒合率・遷延癒合率が高く、機能的転帰がさほどよくなかった[1] 。
⚠️ 保存療法の適応条件
→ 原則として手術治療(転位している閉鎖骨折には髄内釘が標準)[1] → 例外:不全骨折・疲労骨折・低エネルギー外傷による転位のない/少ない骨折では保存的治療を検討する(初期はギプス、疼痛軽減後は機能的装具で荷重を漸増)[1] → 開放骨折や多発外傷ではダメージコントロールが最良の治療戦略となることがあり、整復後の創外固定器装着が合理的な初期治療となる[1]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 第一選択:脛骨髄内釘(Tibial IM Nailing)— リーミングあり。近位2本・遠位2本の横止めを推奨(42A3で2mmまでのギャップがある場合のみ近位を動的横止め)[1] ℹ 進入法:経膝蓋腱または傍膝蓋骨進入が古典的で、膝痛などの合併症の点で両者の相違は示されておらず、執刀医の経験と好みで選ぶ。上膝蓋アプローチは脛骨近位部骨折の代替として紹介されている[1] ℹ 横骨折への注意:骨片間のギャップは遷延癒合につながり、回旋異常に起因することもある。挿入後もギャップが残れば、遠位横止め後に back-tapping で閉じてから近位を横止めする[1] ℹ 代替:創外固定(External Fixation)— 多発外傷のダメージコントロールや、重篤な汚染・大きな骨欠損を伴う開放骨折での一時固定。髄内釘への交換は受傷後2週間以内に行う[1] ℹ 代替:プレート固定(MIPO法)— 脛骨骨幹部近位1/3や遠位1/3の転位した不安定な骨折、正確な解剖学的整復が必要な症例、ネイルが適用できない症例(髄腔が狭い、変形の既往、インプラント周囲骨折など)で適応となる[1]
治療選択アルゴリズム — 脛骨IM釘(第一選択)→創外固定→プレート(MIPO)
診断・評価
創傷・汚染・挫傷・腫脹・水疱など軟部組織損傷の徴候と、足背動脈・後脛骨動脈の拍動を必ず評価する。コンパートメント症候群では脈拍は通常触知でき、鎮痛薬で緩和されない顕著な痛み、緊張した光沢のある皮膚、足部・足趾の他動伸展時痛、第一趾間の感覚異常が主な所見で、疑えば直ちに区画内圧を測定するか深筋膜切開を行う[1] 。
42-A3の診断ポイント
X線は標準的な正面像・側面像で、膝と足関節を含めるか別々に撮影する。重傷患者では四肢のCT血管造影が末梢循環と骨の評価に役立つ[1] 。
X線正面像 — 脛骨骨幹部横骨折(中央1/3・42-A3)
X線側面像 — 横骨折の矢状面アライメントと転位
骨折パターン比較 — 42-A1(螺旋)vs 42-A2(斜骨折)vs 42-A3(横骨折)
【必須】 患側脛骨正面・側面X線(膝関節・足関節を含めるか別々に撮影)、足背動脈・後脛骨動脈の拍動を含む下肢の神経血管検査、コンパートメント圧測定(臨床的に疑う場合)[1]
✅ 許容される整復
✓ 機能的整復:長さ・アライメント・回旋を回復し、下肢の力学的な軸を復元する[1] ✓ 矢状面アライメント:前後弯 ≦10° ✓ 回旋:対側肢と比較して整復位を評価する。横骨折(42A3)では近位と遠位の皮質骨の厚さが回旋の評価に有用[1] ✓ 短縮:≦1 cm ✓ 骨折端の接触:横方向のギャップを残さないよう、適切な整復位を得るためにあらゆる努力をする[1]
❌ 許容されない変形・状態
✕ 内反 >5°(歩行障害・変形性関節症リスク) ✕ 前方弓状変形 >10° ✕ 回旋変形(不十分な整復や成形不十分なプレートでの固定で生じ、外旋変形は内旋変形の2倍の頻度)[1] ✕ 骨折端の開大(distraction)— 横方向のギャップは再手術を要する遷延癒合につながる[1] ✕ コンパートメント症候群の見落とし — 術後に激しい痛みを訴える患者は直ちに評価して除外する[1]
手術手技
体位
手術体位 — 仰臥位・膝屈曲90°(脛骨髄内釘、透視対応)
仰臥位・膝屈曲位(標準): 放射線透過性の手術台で三角枕を用いて膝を屈曲するか、パッド付き膝台で可能な限り屈曲させる(脛骨後方皮質の穿孔を避けるため)。上膝蓋アプローチでは膝を半伸展位にする。術野に対側下肢を含めると回旋の比較に有用[1] 。
脛骨髄内釘(Tibial IM Nailing)— 第一選択
エントリーポイント — 膝蓋腱下アプローチ(標準)vs 膝蓋骨上アプローチ(比較)
整復: 徒手牽引または大腿骨ディストラクタで長さ・アライメント・回旋を回復する(機能的整復)。長さの回復後は経皮的鉗子で微調整し、ネイル挿入まで整復位を保持する[1]
エントリーポイント作成: 経膝蓋腱または傍膝蓋骨進入(または上膝蓋アプローチ)。エントリーポイントは正中線上で軟骨のすぐ前方、脛骨粗面の十分上方とし、髄腔を開削する前に透視の正面像・側面像で確認する[1]
骨髄腔開口: 透視でエントリーポイントを確認してから髄腔を開削する
骨髄腔開口・ガイドワイヤー通過 — 脛骨髄内釘エントリー部位詳細
リーミング(拡髄): cortical chatter(ガリガリする感触)が確認できるまでリーミングし、脛骨峡部まで拡髄する[1]
釘選択・挿入: ほとんどの脛骨では、目的のネイル径より1〜1.5mm大きくリーミングするとネイルを挿入できる[1]
遠位ロッキング: 遠位に2本の横止めスクリューを挿入する(近位2本・遠位2本での横止めが推奨)[1]
骨折端ギャップの閉鎖(back-tapping): 髄内釘挿入後もギャップがある場合、先に遠位スクリューを挿入し、挿入デバイスをタッピングして遠位骨片を近位骨片の方向に引き寄せる[1]
近位ロッキング: 2本の近位ロッキングスクリューを挿入
最終確認: 骨片間のギャップが残っていないかを確認する。ギャップは回旋異常に起因することがある[1]
遠位ロッキングスクリュー(perfect circle法)+横骨折への骨折端圧迫(Back-slap)
⚠️ 脛骨IM釘 ピットフォール
✕ 骨折端の横方向ギャップ → 再手術を要する遷延癒合につながる。髄内釘挿入後もギャップがあれば back-tapping で閉じる[1] ✕ エントリーポイントの誤り → 正中線上・軟骨のすぐ前方・脛骨粗面の十分上方を、髄腔開削前に透視正面像・側面像で確認する[1] ✕ 進入法の選択 → 経膝蓋腱進入と傍膝蓋骨進入の間で膝痛やほかの合併症に差は示されておらず、執刀医の経験と好みで選ぶ[1] ✕ 近位骨幹部骨折での近位骨片の伸展・外反変形 → Pollerスクリューを後方および外側に挿入して中和する[1] ✕ コンパートメント症候群の見落とし → 術後に激しい痛みを訴える患者は、コンパートメント症候群を除外するため直ちに評価する[1]
MIPO法(プレート固定)— 代替術式
脛骨骨幹部の近位1/3・遠位1/3の転位した不安定な骨折や、ネイルが適用できない症例(髄腔が狭い、変形の既往、インプラント周囲骨折など)で選択する[1] 。
単純骨折では、小皮切での観血的整復とMIPOを組み合わせ、軟部組織の展開を最小限に抑えて解剖学的に整復する[1]
単純なtype A骨折では直接的に解剖学的な整復位を獲得し、骨片間のラグスクリュー固定、次いで保護あるいは圧迫プレート固定をして絶対的安定性を得る[1]
前内側のプレートは骨に密接させて固定する。従来型スクリューの使用がベストで、ロッキングスクリューのみではプレートが骨から浮き、閉創できなくなることがある[1]
横骨折の皮質接触が得られていることを透視で確認(骨折端ギャップが残存していないことを確認)
創外固定(外傷初期・橋渡し固定)
開放骨折や多発外傷ではダメージコントロールとして整復後に創外固定器を装着する。髄内釘を計画している場合は、感染リスクの増加を防ぐため、受傷後2週間以内に創外固定器から髄内釘へ交換する[1] 。
術後管理
術後X線像(正面/側面)— 脛骨髄内釘+静的ロッキング(遠位2本・近位2本)
手術タイミング: 患者要因(多発外傷、併存疾患、創傷・腫脹・水疱など軟部組織の問題)で決める。開放骨折や多発外傷ではダメージコントロールと創傷のデブリドマンが最良の戦略となりうる[1]
術後荷重: 静的横止め髄内釘で固定した場合は、松葉杖による荷重の漸増をすぐに許可する。プレート固定では部分荷重(10〜15kg)で立ち上がり、4〜6週で荷重を増やす。元の骨折型と臨床経過に応じて術後12週で全荷重を許可できる[1]
VTE予防: エドキサバンまたは低分子ヘパリン皮下注を術後12〜24時間より開始(最低14日間)
疼痛管理: 鎮痛薬を定期的に投与する[1]
リハビリテーション: 術直後の数日間は浮腫軽減のため患肢を挙上する。足関節の尖足変形や膝の屈曲変形を防ぐため、積極的な関節運動を行う[1]
フォローアップ
術後2週: 創部確認・抜糸・X線撮影(アライメント・スクリュー位置・骨折端接触)
術後4〜6週: プレート固定例では、部分荷重(10〜15kg)から荷重を増やす[1]
術後12週: プレート固定例では、元の骨折型と臨床経過に応じて全荷重を許可できる[1]
術後6ヶ月: 単独の脛骨骨幹部閉鎖骨折を髄内釘固定した場合、6か月で十分に治癒し予後はよい[1]
予後
骨癒合率:約90〜95%(リーム脛骨IM釘)
骨癒合期間:単独の脛骨骨幹部閉鎖骨折を髄内釘固定した場合、6か月で十分に治癒する[1]
偽関節:脛骨骨折患者の最大14%に発生しうる(遠位1/3、開放骨折、高エネルギー外傷で多い)[1]
コンパートメント症候群:脛骨骨折の9%もの症例で発生する[1]
感染:閉鎖骨折・Grade Ⅰ/Ⅱの開放骨折で約1%、Grade Ⅲaも適切な治療で同程度、軟部組織再建を要するGrade Ⅲbで10〜40%[1]
膝前部疼痛(Anterior knee pain):最大30%の患者に発生し、特に活動的な若者に多い[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(42-A3 = 脛骨骨幹部横骨折・単純型) 2 部位を確認(近位1/3・中央1/3・遠位1/3) 3 開放骨折の有無を確認(Gustilo-Anderson分類を記録) 4 コンパートメント症候群の評価を確認(鎮痛薬で緩和しない強い痛み・緊張した光沢のある皮膚・足部と足趾の他動ストレッチ痛・第一趾間の感覚異常、疑えば区画内圧測定または筋膜切開)[1] 5 同側腓骨骨折の有無を確認(X線は正面像・側面像で、膝と足関節を含めるか別々に撮影する)[1] 6 術式を確認(第一選択:脛骨IM釘・リーミングあり) 7 横骨折の骨折ギャップを確認(髄内釘挿入後もギャップがあれば、遠位スクリュー挿入後に back-tapping で閉じたか)[1] 8 術中回旋評価を確認(術野に含めた対側下肢との比較)[1] 9 術後荷重計画を確認(静的横止め髄内釘では松葉杖による荷重の漸増をすぐに許可。プレートでは部分荷重10〜15kgから4〜6週で増やす)[1] 10 DVT/PE予防を開始(術後12〜24時間以内)
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Johal H, Bhandari M, Tornetta P 3rd(2017)Intramedullary nailing for tibial shaft fractures in adults. Clin Orthop Relat Res 475(3):585–591. PMID: 27995557
Sarmiento A, Sharpe F, Ebramzadeh E, et al.(1995)Factors influencing the outcome of closed tibial fractures treated with functional bracing. Clin Orthop Relat Res 315:8–24. PMID: 7634690
Gustilo RB, Mendoza RM, Williams DM(1984)Problems in the management of type III (severe) open fractures. J Trauma 24(8):742–746. PMID: 6471139