脛骨近位部の内外側両顆および骨幹端がともに粉砕を伴う完全関節内骨折 。AO分類41-C3(Complete articular — multifragmentary articular, multifragmentary metaphysis)に相当する。完全関節内骨折(41C)はしばしば高エネルギー外傷で起こり、骨幹部にまで骨折線が及ぶことがあり、重篤な軟部組織損傷とコンパートメント症候群を合併する可能性がかなり高い [1] 。多くの場合、軟部組織が落ち着くまでの数日は膝関節を架橋する創外固定器が必要である [1] 。
重症度・疫学
発生頻度: 脛骨近位部骨折は全脛骨骨折の約18.6%を占める[1] 。完全関節内骨折(41-C型)はしばしば高エネルギー外傷で起こる[1]
好発: 高エネルギー脛骨近位部骨折53例の前向き研究では平均年齢47歳、79%が男性[3]
受傷機転: 交通事故・オートバイ事故・相当な高さからの墜落などの高エネルギー外傷[3] 。両顆骨折に加え、骨幹部にまで骨折線が及ぶことがある[1]
段階的治療の適応: 開放骨折・急性血管損傷・閉鎖性でも重篤な軟部組織損傷・多発外傷例のダメージコントロールでは、緊急で非観血的整復と一時的な関節架橋創外固定を行ったのちに根治的な固定手術をする段階的治療が適応となる[1]
注意すべき合併症
コンパートメント症候群 :完全関節内骨折では骨幹部にまで骨折線が及ぶことがあり、重篤な軟部組織損傷とコンパートメント症候群を合併する可能性がかなり高い[1] 。下肢の腫脹・緊張と他動ストレッチで増強する疼痛が鋭敏な臨床徴候で、知覚障害・麻痺は晩期の症状である[1] 。見落とされたコンパートメント症候群は合併症の主な原因であり、常に念頭におき積極的に治療する[1]
血管損傷 :足背動脈が触知できない・異常な場合は動脈の損傷または閉塞を示す。変形を即座に矯正して再触診し、拍動が戻らなければ血管損傷があるものとして即時に血管外科医へコンサルトする[1] 。ドプラー超音波・CT血管造影・デジタルサブトラクション血管造影を考慮するが、血行再建を大幅に遅らせない[1]
腓骨神経損傷 :総腓骨神経は術中に保護しなければならない重要な構造で、後外側進入法では特に危険にさらされる[1] 。初診時から下肢の神経学的状態を繰り返し評価する[1]
外傷後変形性膝関節症 :主な原因は軸アライメント不良・靱帯不安定性・受傷時の関節軟骨損傷・半月板切除術・関節不適合性・感染。半月板切除・関節不適合性・内反位整復では7年以上の経過で変形性関節症の増加が報告されている[1]
創部合併症・深部感染 :関節架橋創外固定→待機的確定固定の段階的治療を行った高エネルギー脛骨近位部骨折では深部創感染5%であった[3] 。高エネルギー脛骨近位・遠位部骨折の急性期観血的整復内固定では創部合併症13〜88%と報告されてきた[3]
骨癒合不全 :高エネルギー脛骨近位部骨折の段階的治療では偽関節2例(4%)で、いずれも骨移植で癒合した[3] 。関節面の挙上で生じた骨欠損には自家骨・同種骨・人工骨を充填する[1]
DVT/PE :高エネルギー脛骨近位部骨折の段階的治療では、術後12時間から退院まで低分子量ヘパリンで血栓予防を行った[3]
治療方針
⚠️ 保存療法
→ 関節面の転位がなく、内外反アライメントが正常な例に限られる → 重篤な全身合併症で手術リスクが極めて高い患者に限り保存療法を考慮 → 手術の最大の目的は早期からの関節運動を許可できるような安定した骨折固定で、この目的が果たせない場合は保存的治療より悪い結果につながることが多い[1]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 手術適応:転位している関節内骨折、膝の不安定性を引き起こす関節面陥没、アライメント不良(特に内反)、開放骨折、血管損傷・コンパートメント症候群の合併、脱臼骨折、多発外傷[1] ℹ Stage 1:膝関節をまたぐ外固定(Spanning External Fixation)— 完全関節内骨折では、多くの場合、軟部組織が落ち着くまでの数日は関節を架橋する創外固定器が必要[1] ℹ 確定的手術(Stage 2):状態が安定していれば、軟部組織腫脹が軽快してから(通常10〜14日かかる)行う[1] ℹ 外側アプローチ:外側プラトーは、解剖学的に整復した内顆を基準に前外側または傍膝蓋切開で整復できる[1] ℹ 内側アプローチ:個別の後内側皮切をおき、内側骨片に支持として3.5 mmプレートを設置する[1] ℹ 外側プレート:解剖学的に整復した関節部分をラグスクリューで固定したうえで、骨幹端・骨幹部の粉砕は3.5 mmまたは4.5 mmの長いロッキングプレートで架橋できる[1] ℹ 内側プレート:大きな内側プラトー骨片を近位へ押し上げて整復し、骨片のスパイク頂部で抗滑走(antiglide)プレートにより支持する[1] ℹ 後方コラムに及ぶ骨折(後内側・後外側骨片)がある場合:逆L字型切開などの後方アプローチを追加する。3つのコラムの骨折では「floating position」で逆L字型後方進入法と前外側進入法を組み合わせる[1] ℹ 骨粗鬆症の高齢者で関節面の陥没が高度な場合:人工膝関節置換術の適用が検討されているが、適応と結果はまだ明確ではない[1] ℹ 環状創外固定器(Ring External Fixation):開放したままの筋膜切開があり内固定が非常に困難な場合に確定的治療として考慮する[1]
治療選択アルゴリズム — 41-C3両顆型・複雑型脛骨近位部骨折・段階的手術戦略(外固定→Dual-plate ORIF)
診断・評価
水疱・表在性擦過傷・深部の挫傷・デグロービング損傷は高エネルギー損傷を示し、緊急で広範な展開は避ける[1] 。コンパートメント症候群などの重篤な合併症を検出するため、下肢の神経学的および血管の状態(足背動脈の触診を含む)を繰り返し評価する[1] 。
X線: 正面・側面のほか斜位像(45°)も有用。両顆骨折線・転位・骨幹端粉砕の範囲・脱臼成分を確認。ただしX線のみでは骨折全体像の把握は不十分
CT(必須): 冠状断・矢状断・三次元再構築による術前CTが標準ツールで、可能であれば初期の整復とギプス固定後、または関節架橋型創外固定後に撮影する[1] 。関節面・骨折線の走行・後方骨片(後内側・後外側)の有無・骨幹端粉砕の程度を評価し、術前計画を立てる。冠状面の骨折は側面像またはCTでしか見えない [4]
MRI: 半月板や靱帯損傷など合併する軟部組織損傷の評価には他の検査より感度が高いが、急性期の日常的な診断手順としては推奨されない[1] 。急性期MRIの靱帯信号は麻酔下の安定性所見と必ずしも一致しないため、靱帯損傷の治療方針は骨折固定後の術中安定性評価に基づく[1]
X線AP像・側面像(両顆骨折線・骨幹端粉砕・関節面転位)+CT冠状断・矢状断(粉砕関節面と後方骨片の評価)
CT 3D再構成(骨折全体像・後方骨片・術前プランニング)— 前面・上面(プラトー上面)・後面の3方向
✅ 許容される整復
✓ 後方剪断型プラトー骨折13例の検討では段差2 mm以上を不良と評価し、関節面の整復の質が短期機能成績に影響する一因だった[4] ✓ 内外反アライメントを回復する(内反位整復では7年以上の経過で変形性関節症の増加が報告されている)[1] ✓ 後方傾斜(Posterior tibial slope):正常側と比較して5°以内の差 ✓ 脚長:関節塊を正しい長さで骨幹部に固定する[1] ✓ 回旋:関節塊を正しい回旋で骨幹部に固定する[1]
❌ 許容されない変形
✕ 関節不適合性(外傷後関節症の主な原因の一つ)[1] 。後方剪断型プラトー骨折13例の検討では段差2 mm以上を不良な整復と評価した[4] ✕ 内反位の整復(7年以上の経過で変形性関節症が増える)[1] ✕ 後方顆骨片(後内側・後外側)の見落とし(CT必須) ✕ 骨幹端粉砕部での短縮・回旋変形の残存 ✕ スクリューの関節面突出(対側軟骨損傷の原因)
手術手技
体位
仰臥位: 大腿部に止血帯を巻き、必要な場合にのみ膨らませる。大腿中央部から足部までを消毒し、U字ドレープまたは四肢ドレープで覆う。前外側進入では膝を30°屈曲させる[1] 。後方コラムへの対応が必要な場合は、「floating position」または腹臥位での後方逆L字型進入法を計画しておく[1] 。
手術体位(仰臥位・膝30°屈曲・外側+内側双方アクセス可能・段階的手術計画)
Dual-plate ORIF — 第一選択(Stage 2確定的手術)
Dual-plate ORIF手技(3パネル)— 外側関節切開・関節面整復・LISS外側ロッキングプレート+内側支持プレート設置
外側アプローチ(前外側関節切開): 膝を30°屈曲し、関節線・Gerdy結節・腓骨近位端・大腿骨外側上顆を目印に皮切をおく。腸脛靱帯を線維方向に縦切し、半月板の下で関節を切開して半月板にstay sutureをかけて挙上し、外側関節面を観察する[1]
外側顆の関節面整復: 陥没した関節面と骨片を下方から突き上げ器(bone tamp)で丁寧に持ち上げ、大腿骨顆部をテンプレートとして直視下に整復。整復後の骨欠損には自家移植骨・同種移植骨または人工骨を充填。K-wireで関節面を仮固定[1]
関節部分の固定とロッキングプレートによる架橋: プレート設置前に、解剖学的に整復した関節部分をラグスクリューで一塊として固定。骨幹端〜骨幹部の粉砕部は3.5mmまたは4.5mmの長いロッキングプレートで架橋[1]
内側アプローチ: 個別の後内側皮切をおき、内側骨片(通常大きい)を展開。内側骨幹端の骨折型によっては、多くの場合関節切開なしで内顆を直接・解剖学的に整復できる[1]
内側支持プレートの設置: 後内側皮切から、内側骨片(通常大きい)に支持として3.5mmプレートを設置[1]
後方骨片への対応(必要な場合): 後方コラムに及ぶtype C骨折では、逆L字型切開などの後方アプローチが正確な整復に有用。後方コラムの内側部分には後内側進入法、後外側の関節面には側臥位での後外側進入法を用いる(後外側プレートの設置は難しく危険)[1]
透視(C-arm)での最終確認: 正面・側面・斜位(AP、Lateral、Oblique)で関節面整復・アライメント(内外反・前後傾斜)・スクリュー位置・関節内スクリュー迷入の有無を確認
⚠️ Dual-plate ORIFピットフォール
✕ 高エネルギー両顆骨折を2皮切・プレート2枚で固定(ORIF)した症例では偽関節と深部感染が多い[1] ✕ 冠状面の後方骨片(後内側・後外側)の見落とし→側面像・CTでしか見えず、転位を放置すると不適切な固定法の選択につながる[4] ✕ 外側ロッキングプレートに内側プレートを追加する場合は、外側のスクリューとの衝突を避けるよう内側プレートの位置を調整する(41A3.3の症例では通常よりわずかに前方に配置)[1] ✕ 骨幹端粉砕では関節面の整復を最優先し、次いで正しい長さ・軸・回旋で関節塊を骨幹部に固定する(短縮・アライメント不良を残さない)[1] ✕ 総腓骨神経損傷(後外側進入法で危険にさらされる。後方逆L字型進入法で腓骨頚部にレトラクタをかけたり外側へ過剰展開した場合も損傷の危険)[1] ✕ 陥没した関節面を整復した後の骨欠損は放置せず、自家骨・同種骨・人工骨を充填して整復した関節面を支持する[1]
環状創外固定(Ring External Fixation)— 開放骨折・内固定困難例の確定的固定
開放したままの筋膜切開がある場合は軟部組織の合併症と深部感染の発生率が高く固定が非常に困難であり、リング型フレームによる治療を考慮する[1] 。
計画: 術前CT・X線で骨折パターンを把握し、リングサイズ・ワイヤー配置を計画
近位リングの設置: 近位のピンを脛骨プラトーに刺入する場合は、関節包外に位置するよう注意する[1]
間接整復: 創外固定器で間接整復を行い、骨幹部に及ぶ骨折のアライメント・回旋・長さはリガメントタキシスで矯正[1]
遠位リングの設置: 骨幹部にリングを設置し、全構造を安定化
アライメント調整: 軸方向・回旋・骨折端の加圧または牽引をストラット(strut)で微調整
術後管理
術後X線(AP・側面)— Dual-plate固定。両顆の関節面整復(≦2mm)・骨幹端粉砕部架橋固定・アライメント正常
手術タイミング: 軟部組織管理が最優先。開放骨折・急性血管損傷・閉鎖性でも重篤な軟部組織損傷・多発外傷では、一時的な関節架橋創外固定の後に根治的固定を行う段階的治療が適応。軟部組織腫脹が軽快し(通常10〜14日)、皮膚のしわが出てからORIFを行う[1]
術後荷重: 骨癒合と軟部組織の回復に応じて、術後6〜8週間はつま先接地荷重。著しい高エネルギー外傷による骨折では、つま先接地荷重を10〜12週間程度続ける[1]
VTE予防: 高エネルギー脛骨近位部骨折の段階的治療の前向き研究では、低分子量ヘパリンを術後12時間から退院まで投与し、手術の12時間前に中止[3]
疼痛管理: 大腿神経ブロック+坐骨神経ブロック(または硬膜外麻酔)を術後も継続。NSAIDsは骨癒合への影響を考慮し短期間(72時間以内)使用
リハビリテーション: 術後は可及的早期から等尺性四頭筋運動を開始する。多くの外科医は創傷治癒の促進と屈曲拘縮の予防のため2週間の伸展位外固定を好み、あるいはCPMを装着する。つま先接地荷重の期間は骨癒合と軟部組織の回復に応じて決める[1]
フォローアップ
術後2週:創部確認・抜糸・X線(整復位の維持・創部合併症の早期発見)
高エネルギー脛骨近位部骨折の段階的治療では、術後6・12・24・52週に経過観察した[3]
術後12週:X線(骨幹端粉砕部の骨癒合評価)、PWB→FWBへの移行を検討
術後6ヶ月:X線(完全骨癒合の評価)・膝関節機能評価(ROM・筋力)
術後12ヶ月:X線(変形性膝関節症の初期所見)・プレート抜去の要否を検討
術後24ヶ月:長期フォローアップ(OA進行・膝関節機能・インプラント状態)
予後
偽関節: 高エネルギー脛骨近位部骨折を段階的に治療した前向き研究で4%[3]
機能予後に関わる因子: 良好な骨アライメントの回復・靱帯安定性・半月板の温存が重要で、長期成績では膝の安定性が最も重要な要因と考えられている[1]
外傷後変形性膝関節症: 半月板切除・関節不適合性・内反位整復では、7年以上の経過でOAの増加が報告されている[1]
感染率: 段階的治療(一時的な関節架橋創外固定→待機的な確定的固定)で感染・創部問題は5%、閉鎖骨折に限ると3%[3]
再手術率: 段階的治療で確定的固定後に追加手術を要したのは16%[3]
TKA: 骨粗鬆症の高齢者は関節面の二次的な嵌入と外反変形を伴う重度の陥没を呈しやすく、人工膝関節置換術の適用が検討されているが、適応と結果はまだ明確ではない[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(41-C3 = 脛骨近位部・完全関節内・関節面粉砕+骨幹端粉砕) 2 CT必須:冠状断・矢状断・三次元再構築で関節面転位・後方骨片(後内側・後外側)・骨幹端粉砕を評価(可能なら関節架橋創外固定後に撮影)[1] 3 初診時の神経血管評価(足背動脈の触診)を記録。触知できなければ変形を即座に矯正して再触診し、拍動が戻らなければ血管損傷があるものと考える[1] 4 コンパートメント症候群を常に念頭に置いて評価を繰り返す(見落としは合併症の主な原因で、積極的に治療する)[1] 5 開放骨折・急性血管損傷・閉鎖性でも重篤な軟部組織損傷・多発外傷の有無を評価し、段階的治療(一時的な関節架橋創外固定→根治的固定)の要否を決定[1] 6 内側・外側の2皮切で行う場合は、全層性の皮膚弁挙上・骨膜外での骨片展開・骨折部での最小限の軟部組織剥離で創部合併症を抑える[1] 7 後方骨片への対応を術前に計画(体位変換・追加アプローチの必要性) 8 関節面整復とアライメント(内外反)の目標を術前に明示し、術中透視で確認
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Barei DP et al.(2006)Frequency and significance of injuries to the posterolateral corner of the knee in complete bicondylar tibial plateau fractures. J Orthop Trauma, 20(8):570–7.
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