脛骨近位部の内外側両顆(脛骨プラトー)が完全に骨折し、脛骨骨幹端から分離される完全関節内骨折 。AO分類41-C1に相当し、関節内骨折線・骨幹端骨折線ともに単純(2骨片)である両顆型である。しばしば高エネルギー外傷で起こり、骨幹部にまで骨折線が及ぶと重篤な軟部組織損傷とコンパートメント症候群を合併する可能性がかなり高い [1] 。治療の第一選択はスクリューとプレートによるORIF であり[4] 、早期からの関節運動を許可できる安定した骨折固定が手術の最大の目的である[1] 。
重症度・疫学
発生頻度: 脛骨近位部骨折の発生率はすべての脛骨骨折の約18.6%を占める(10,234の骨折症例の調査)[1]
好発: 高エネルギー外傷で生じることが多い。骨粗鬆症の高齢者では治療が困難な場合があり、高率に関節面の二次的な嵌入と外反変形を伴う重度の関節面陥没を呈する[1]
受傷機転: 両顆型では軸圧に内外反の力が加わり、関節面の陥没・骨幹端の圧壊・片側または両側の顆の剪断が組み合わさって生じる[4] 。転落、自動車・バイク事故、歩行者事故、スポーツ外傷が多い[2] 。膝周囲の軟部組織構造は高頻度に損傷する[1]
注意すべき合併症
コンパートメント症候群(骨幹部にまで骨折線が及ぶ場合は合併する可能性がかなり高い[1] )
膝窩動脈損傷(足背動脈が触知できない場合は変形を即座に矯正して脈拍を再度触診し、拍動が戻ってこない場合は四肢の生存を脅かす血管損傷が存在すると考え、即時に血管外科医へコンサルトする[1] )
腓骨神経損傷(コンパートメント症候群に伴う筋壊死から永続的な腓骨神経麻痺を残した報告がある[4] )
外傷後変形性膝関節症(半月板切除・関節不適合性・内反位整復では、フォロー7年以上の患者で変形性関節症の増率が報告されている[1] )
軟部組織損傷(急性期の脛骨プラトー骨折のMRIで80%が半月板断裂、40%が靱帯断裂を呈する[1] )
骨癒合不全・変形癒合(遅発性の関節圧潰や骨幹端-骨幹接合部での変形癒合が起こりうる[1] )
深部静脈血栓症(粉砕両顆骨折の内側・外側プレート固定例では20%に超音波ドプラで深部静脈血栓症が診断された[2] )
感染(高エネルギー外傷では創部合併症が重大な早期の問題で、開放したままの筋膜切開の存在下では深部感染の発生率が高い[1] )
治療方針
⚠️ 保存療法(原則非適応)
→ 骨粗鬆症のない脛骨近位骨幹端骨折のうちAO/OTA type C1では、スクリューとプレートによるORIFが推奨される治療である[4] → 仮固定として一時的な関節架橋創外固定を行った後、根治的な固定手術をする段階的な治療が適応となる[1] → 長下肢スプリント・牽引は暫定固定の位置づけ(術前・搬送中のみ)
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 第一選択:ORIF — 内側骨片に対し個別の後内側皮切から支持として3.5 mmプレートを設置し、外側プラトーを再建する二重プレート法[1] ℹ 代替選択:外側ロッキングプレート単独(LISS)— 41-C骨折で内側プレートを併用せず良好な臨床成績が報告されている[3] ℹ 骨幹端の粉砕が少ない単純型(41-C1)では、髄内釘(近位脛骨髄内釘)も選択肢になる ℹ 骨幹端粉砕の場合、関節面の整復が最優先事項であり、次いで正しい長さ・軸・回旋で関節塊を骨幹部に固定する[1] ℹ 閉鎖性でも重篤な軟部組織損傷がある場合は、一時的な関節架橋創外固定の後に根治的固定を行う段階的な治療が適応となる[1] ℹ 開放骨折・急性血管損傷・多発外傷症例のダメージコントロール手術では、緊急で非観血的整復と一時的な関節架橋創外固定をした後に根治的な固定手術を行う[1]
治療選択アルゴリズム — 41-C1両顆型単純型・二重プレート法 vs 近位脛骨髄内釘の選択基準
診断・評価
膝関節の著明な腫脹・疼痛・荷重不能。水疱、表在性擦過傷、深部の挫傷、デグロービング損傷は高エネルギー損傷を示す。骨折固定前の膝の靱帯安定性検査は役に立たず、手術固定が完了してから関節の安定性を評価する [1] 。下肢の神経学的および血管の状態を繰り返し評価し、足背動脈はいつも触診してチェックする。他動的なストレッチングで激化する痛みはコンパートメント症候群の臨床徴候であり、綿密な観察を続ける。
X線正面像・側面像: 2方向(前後像および側面像)での従来のX線は不可欠であり、両方向の45°斜位像で補足することができる。ただし単純X線では骨折型を適切に評価するのに十分とはいえず、CTの追加により分類の観察者間および同一観察者内での信頼性が向上する[1] 。
CT(三次元再構成): 冠状、矢状、三次元再構築による術前CTは脛骨プラトー骨折の分析の標準ツールであり、骨折および関係するコラム(柱)の位置を評価する。MRIは半月板や靱帯損傷など合併する軟部組織損傷の評価に感度が高いが、日常的に急性期の診断手順としては推奨されていない[1] 。
術前X線正面像(内外側両プラトーへの骨折線・関節面転位)と側面像(後方関節面・骨幹端骨折の評価)
CT横断面・冠状断面・矢状断面 — 内外側両顆の関節面転位量・骨折パターンの三次元評価
✅ 許容される整復
✓ 粉砕両顆骨折(AO/OTA 41-C3)の内側・外側プレート固定では、関節面転位 ≦2mm(stepまたはgap)を満足な整復とした[2] ✓ 粉砕両顆骨折(AO/OTA 41-C3)では冠状面アライメントの復元(内側近位脛骨角 87°±5°)を満足とした[2] ✓ 粉砕両顆骨折(AO/OTA 41-C3)では矢状面アライメントの復元(後方近位脛骨角 9°±5°)を満足とした[2] ✓ 粉砕両顆骨折(AO/OTA 41-C3)では脛骨プラトー幅の復元(0〜5 mm)を満足とした[2]
❌ 許容されない変形
✕ 関節面転位 >2mm(粉砕両顆骨折 41-C3 では、満足な関節面整復が有意に良好なMFAスコアと関連した[2] ) ✕ 内反変形(軸アライメント不良は外傷後関節症の主な原因であり[1] 、Rasmussenは内反・外反10°を超える残存変形が成績を悪化させると報告した[4] ) ✕ 後内側の関節面骨片の整復・固定の不足(外側ロッキングプレートで固定したAO/OTA type C骨折の症例集積では、Goslingらが後内側関節面骨片の整復・固定の失敗による整復位喪失を3例に認めた[2] ) ✕ 内側または外側プラトーの整復不足(両顆骨折では内側プラトー骨片の整復が骨折整復の最初の重要な鍵となり、解剖学的に整復した内顆を基準に外側プラトーを整復する[1] )
手術手技
体位
仰臥位: 大腿部に止血帯を巻き、必要な場合にのみ膨らませる。準備中は患肢を軽く徒手牽引する。透視装置は患肢の対側におき、モニターは手術チームと放射線技師に全景が見えるように配置する[1] 。前外側進入法の皮切は膝を30°屈曲させて行う。
体位設定 — 仰臥位・膝30°屈曲・止血帯・術中透視(AP/側面)。内外側双方のアクセスを確保
二重プレート法(ORIF) — 第一選択
二重プレート固定の術中透視 — 外側ロッキングプレート+内側支持プレート(AP/側面)
前外側進入法(第一切開): 膝を30°屈曲させ、顆上部から腓骨とGerdy結節の中間点までやや弯曲した皮切をおく。腸脛靱帯を線維方向に縦切し、半月板の下で関節を切開して半月板にstay sutureをかけて持ち上げ、外側の関節面を観察する[1]
後内側進入法(第二切開): 対側の殿部下に枕をおき、脛骨近位部の後内側縁に向かう。鵞足は前方に牽引するか、切開して閉創時に修復する。膝の重要な安定要素である後内側構成体を損傷しないように注意する[1]
関節面の整復(Step 1): 骨折部をとおして、あるいは皮質骨に小さく開窓してプッシャーを挿入し、嵌入した関節面を愛護的に挙上する。大腿骨顆部がテンプレートの役目をする。生じた骨欠損には自家移植骨、同種移植骨または人工骨を充填する[1]
K-wire仮固定: 陥没した骨片を持ち上げてから関節面を仮固定するのにK-ワイヤが有用である。固定にはプレートが最適である[1]
外側プレート設置: 外側ロッキングプレートを設置し、挙上した関節面を保持するために軟骨下骨に2.7 mmまたは3.5 mmの皮質骨スクリューをラフトとして挿入する(raft technique)[1]
後内側プレート設置(Step 2): 内側プラトー骨片を近位方向に押し上げて関節面を整復し、骨片のスパイク頂部で抗滑走(antiglide)プレートを支持として設置すると、type C骨折がtype Bに変わる[1]
骨幹端・骨幹の固定: 正しい長さ・軸・回旋で関節塊を骨幹部に固定する。骨幹端または骨幹部の粉砕に対しては3.5 mmまたは4.5 mmの長いロッキングプレートで架橋する[1]
最終透視確認: 前後像・側面像と45°斜位像で関節面の整復・アライメント・スクリュー位置を確認する。手術固定が完了したら、靱帯損傷を診断するために関節の安定性を評価し、所見を手術記録に記載する[1]
⚠️ 二重プレート法 ピットフォール
✕ 二重皮切では適切な手術進入法と全層性の皮膚弁挙上を心がけ、創部合併症を最小限にとどめる ✕ プレートを適用する前に、解剖学的に整復した関節部分に対するラグスクリュー固定(関節面骨片を一塊とする)が不可欠である[1] ✕ 内側プレートが近位すぎると膝関節内に突出するリスクあり(透視必須) ✕ ラフトスクリューは挙上した関節面を保持するため、軟骨下骨に2.7 mmまたは3.5 mmの皮質骨スクリューとして挿入する[1] ✕ 合併症の主な原因として見落とされたコンパートメント症候群があげられ、常にこの状態を念頭におき積極的に治療する[1]
近位脛骨髄内釘(ORIF) — 代替選択
骨幹端骨折線が単純(41-C1の骨幹端単純型)で、関節面骨折が固定後に安定している場合、近位脛骨髄内釘を骨幹端固定に使用できる。
近位脛骨髄内釘の刺入点・近位鎖錠スクリュー配置・関節面ラフティングスクリューとの組み合わせ(術中透視)
関節面の整復・仮固定(Step 1): 二重プレート法と同様に外側/内側アプローチで関節面を整復。K-wireで仮固定
ラフティングスクリュー: 陥没した関節面を保持するため、軟骨下骨に2.7 mmのラフトスクリュー2本を挿入する[1]
髄内釘刺入点: 膝蓋腱経由(経膝蓋腱法)または膝蓋腱傍切開で刺入点を設定。透視でAP・側面ともに脛骨長軸の延長上であることを確認
釘の挿入: 近位骨片は髄内釘の挿入前に整復しておく。挿入中の整復位保持には鉗子・Pollerスクリュー・2.4 mmや2.7 mmのLCPの追加が必要になることもある[1]
近位鎖錠スクリュー: 近位に横止めの選択肢が複数ある髄内釘が推奨される[1]
遠位鎖錠スクリュー: 通常2本以上の遠位スクリューで固定
術後管理
術後X線正面像・側面像 — 二重プレート(外側+内側)固定。内外側両顆の関節面整復・骨幹端アライメント回復を確認
手術タイミング: 軟部組織の状態を優先する。軟部組織腫脹が軽快すれば(通常10〜14日かかる)手術を安全に施行でき、皮膚のシワは浮腫減退を意味するよい臨床徴候である。開放骨折・急性血管損傷・閉鎖性でも重篤な軟部組織損傷・多発外傷のダメージコントロールでは、緊急で非観血的整復と一時的な関節架橋創外固定を行う[1]
術後荷重: 骨癒合と軟部組織の回復に応じて術後6〜8週間はつま先接地荷重とする。著しい高エネルギー外傷による骨折では、つま先接地荷重を10〜12週間程度続ける[1]
VTE予防: 周術期に機械的および薬物的手段による深部静脈血栓症の予防を行う[2]
疼痛管理: 鎮痛薬の過量投与はコンパートメント症候群の症状を隠すことがあるため、疼痛の推移を注意深く観察する[4]
リハビリテーション: 術後は可及的早期から等尺性の大腿四頭筋運動を開始する。創傷治癒の促進と膝の屈曲拘縮の予防のため2週間の伸展位外固定を行うか、CPMを装着する[1]
フォローアップ
術後2週: 初回外来で膝の正面・側面・プラトー像と脛骨の正面・側面X線を撮影[3]
術後6週: X線(骨癒合初期兆候・荷重増量の可否判断)
術後12週: X線(骨癒合の進行を確認し、癒合が得られるまで月ごとに評価)[3]
術後6ヶ月: X線(骨癒合完成・アライメント評価)
術後12ヶ月: X線(骨癒合とアライメントの評価。粉砕両顆骨折 41-C3 の内側・外側プレート固定例では、24%が局所症状の軽減のためインプラント抜去を要した[2] )
予後
骨癒合:高エネルギー外傷による両顆骨折を2つの皮切・プレート2枚で固定した症例では、偽関節と深部感染が多い[1]
関節面整復:粉砕両顆骨折(AO/OTA 41-C3)では、ステップまたはギャップが2mm以下の満足な関節面整復がより良好なMFAスコアと有意に関連した[2]
膝関節可動域:術後12週以内に屈曲90°を獲得できない場合は、関節鏡視下の癒着剥離術と麻酔下での愛護的な徒手授動術の適応となる[1]
主要術後合併症:ORIF後の感染率は報告により幅があるが、両側皮切と小型インプラントの使用により3〜8.4%に低下している[4]
コンパートメント症候群:見落としが合併症の主な原因であり、常にこの状態を念頭におき積極的に治療する[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(41-C1 = 脛骨近位部・完全関節内骨折で関節面は単純) 2 CT三次元評価完了(内外側両プラトーの転位量・骨折パターン・骨片数) 3 コンパートメント症候群の評価(下腿4区画の緊張・疼痛・感覚運動障害) 4 膝窩動脈・腓骨神経のスクリーニング(ABI・末梢神経学的所見) 5 軟部組織の状態評価(腫脹・水疱・皮膚コンディション)と手術タイミングの確認 6 関節面整復先行計画(Step 1: 関節面 → Step 2: 骨幹端) 7 二重皮切による進入法の計画(適切な手術進入法と全層性の皮膚弁挙上で創部合併症を最小限にする) 8 術後荷重スケジュール確認(術後6〜8週はつま先接地荷重 → 段階的に荷重増加)[1]
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Barei DP, Nork SE, Mills WJ, et al.(2006)Functional outcomes of severe bicondylar tibial plateau fractures treated with dual incisions and medial and lateral plates. J Bone Joint Surg Am, 88:1713–21. PMID: 16882892
Egol KA, Su E, Tejwani NC, et al.(2004)Treatment of complex tibial plateau fractures using the less invasive stabilization system plate. J Trauma, 57:340–6. PMID: 15345983
Ramos T, Ekholm C, Eriksson BI, et al.(2013)The Ilizarov external fixator — a reliable alternative for the treatment of proximal tibial fractures. A prospective observational study of 38 consecutive patients. BMC Musculoskelet Disord, 14:11. PMID: 23294843