大腿骨遠位部(骨幹端・メタフィシス)の単純骨折で関節面を侵さない型 。AO分類33-A1に相当する。骨折線は1本で遠位骨幹端に位置し、関節面(大腿骨顆)は温存される。関節外骨折は逆行性髄内釘 またはプレートで良好に治療でき、骨質が良好な若年成人ではノンロッキングインプラント、骨粗鬆症または大腿骨遠位部の人工関節周囲骨折を有する高齢患者ではロッキングプレートシステム が遠位骨片内の骨量が限られている状況で強固な固定に有益である[1] 。外側ロッキングプレート固定での偽関節率は報告により0〜21%と幅がある[3] 。
重症度・疫学
発生率: 8.7/10万人年。AO type A が遠位部骨折全体の38.6%を占める(デンマーク・302骨折)
好発: 二峰性(20歳前後の男性=交通・スポーツ、70歳前後の女性=転倒・骨粗鬆症)。ただし近年の欧州コホートでは97%が低エネルギー損傷で、高齢側に大きく偏る
受傷機転: 若年=高エネルギー(交通事故)、高齢=低エネルギー(転倒)
注意すべき合併症
膝機能の回復には根治的な固定と早期の可動域訓練が役立つ[1]
血管損傷(約3%)・神経損傷(約1%)— 神経血管構造が近接するため[1]
FES
回旋不整
治療方針
⚠️ 保存療法の適応条件
→ 適応は限られる(標準的治療は観血的整復と固定で、その後早期リハビリテーションが続く) → 嵌入し転位のない関節外骨折(type A)、手術が行えない患者、寝たきり患者のみ。通常は膝関節を固定した外固定で十分
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 逆行性髄内釘(Retrograde IM Nailing)— 関節外骨折(33A)は逆行性髄内釘またはプレートで良好に治療できる ℹ エントリー:膝を30°くらいに屈曲し、顆間窩のすぐ前方で髄腔を開窓(後十字靱帯起始部に注意。Blumensaat線=顆間窩の天井がランドマーク) ℹ 横止め:遠位はエイミングデバイスを用いて外側から内側へ挿入。近位も長さ・アライメント・回旋を維持するために横止めする ℹ 代替1:髄内釘は少し弯曲した中実のdistal femoral nail(DFN)、または新しく開発されたexpert R/AFNを用いる ℹ 代替2:遠位大腿骨ロッキングプレート(LCP-DF / LISS)— 骨粗鬆症または人工関節周囲骨折を有する高齢患者で、遠位骨片内の骨量が限られている場合
治療選択アルゴリズム — 遠位部関節外単純骨折(逆行性IM釘 vs LCP-DF)
診断・評価
膝周囲の疼痛・腫脹・荷重不能。下肢の多発外傷が疑われる場合は、隣接する関節を含む大腿骨と脛骨のX線正面像・側面像に、膝関節を中心とした撮影も加える。関節内骨折には、関節面骨折と嵌入、特に単純X線では見逃される可能性がある後顆の冠状骨折(Hoffa骨折)を評価するため、二次元および三次元リコンストラクションを含むCTが推奨される[1] 。
X線正面像 — 大腿骨遠位骨幹端に単純横〜斜骨折線。関節面は正常
✅ 許容される整復
✓ 内外反:前後像で基準ピンまたはスクリューが大腿骨遠位の関節面と平行になることを確認し、内外反変形を回避する ✓ 矢状面:ロッキングプレートでは関節塊にSchanzスクリューを前後方向に挿入して矢状面をコントロールする。反張膝は術中に膝を屈曲60°に保つことで防止する ✓ 回旋:長さ・回旋・アライメントの回復は必須 ✓ 短縮:長さの回復は必須だが、骨粗鬆症や複雑な骨折では骨折骨片の嵌入による多少の短縮は許容される
❌ 許容されない変形
✕ 内反変形(ブレードの挿入点が後方すぎると顆部塊が内側に偏位し、内反変形が必発する) ✕ 関節面骨折の見落とし(単純X線では後顆の冠状骨折(Hoffa骨折)を見逃すことがあり、関節内骨折にはCTが推奨される) ✕ 回旋異常(大腿骨遠位部では軸と回旋のアライメント不良が典型的な問題で、MIPO手技後に高率にみられる)
手術手技
体位
仰臥位: 膝まくらを使用して膝関節を30〜45°屈曲させると腓腹筋が弛緩する。骨折部の下に枕をおき膝を30°屈曲させることで、多くの場合骨折は整復できる[1] 。
逆行性髄内釘(Retrograde IM Nailing)— プレートと並ぶ選択肢
逆行性IM釘の体位・エントリー — 膝屈曲30〜40°・髄間窩前面・Blumensaat線前方
膝を30°くらいに屈曲。膝蓋腱のすぐ内側に3cmの切開をおく
内側傍膝蓋の軟部組織を分けて膝蓋腱を外側によせるか、膝蓋腱を縦割して膝蓋骨下に関節切開を加える(進入法の決定は骨折型による)
顆間窩前方にガイドワイヤを挿入する(後十字靱帯起始部に注意)
ガイドワイヤに沿ってリーミング
逆行性IM釘挿入(遠位から近位方向)
遠位横止め:エイミングデバイスを装着し、外側から内側へ挿入する
近位横止め:長さ・アライメント・回旋を維持するために行い、放射線透過性のドリルを用いる
透視で骨折整復・釘位置・ロッキングを最終確認
⚠️ 逆行性IM釘 ピットフォール
✕ 間違ったエントリーポイント・広い髄腔・遠位骨片の不適切な固定により、内外反変形または前後方向の角度変形が起こる ✕ 後十字靱帯起始部の損傷(顆間窩のすぐ前方で開窓する際に注意)。リーミング中は軟部組織をリーマや器械から保護する ✕ 遠位骨片の不適切な固定(間違ったエントリーポイントや広い髄腔とともに、内外反変形・前後方向の角度変形の原因となる) ✕ 関節面骨折の見落とし(逆行性髄内釘は単純関節内骨折(33C1、33C2)にも適応があるが、その場合はまず関節骨片を固定する)
術後管理
術後X線像(正面/側面)— 逆行性IM釘+遠位ロッキング2本(顆部)+近位ロッキング2本
術後荷重: 単純骨折で骨片同士が接触している場合は内固定が安定しており、術直後から部分荷重(10〜15kg)が可能。術後6〜12週のフォローアップの間に仮骨形成がみられれば、段階的な荷重が許可できる[1]
膝関節可動域訓練: 軟部組織損傷の状態と疼痛管理が十分であれば、早くて術後48時間から股関節・膝・足関節の自動介助運動を始められる。CPMも効果的である[1]
DVT/PE予防: 各施設の基準に従って実施する
フォローアップ
術後6〜12週のフォローアップでX線により仮骨形成を確認する
予後:外側ロッキングプレート(LLP)固定後の偽関節率は報告により0〜21%と幅がある[3]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(33-A1 = 大腿骨遠位部骨折・関節外・単純型) 2 関節内骨折には、関節面骨折と嵌入、および単純X線で見逃されやすい後顆の冠状骨折(Hoffa骨折)を評価するため、二次元および三次元リコンストラクションを含むCTで評価する 3 術式を確認(逆行性IM釘 or LCP-DF) 4 逆行性IM釘エントリー点の計画(Blumensaat線=顆間窩の天井の直前で開窓、2方向透視で確認) 5 軟部組織の状態と疼痛管理が許せば、術後48時間から膝の自動介助運動を開始 6 DVT/PE予防の要否を検討
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Gynning JB et al.(1999)Distal femoral fractures: intramedullary nailing vs plating. Injury, 30:185–90.
Rodriguez EK, Boulton C, Weaver MJ, et al.(2014)Predictive factors of distal femoral fracture nonunion after lateral locked plating: a retrospective multicenter case-control study of 283 fractures. Injury, 45(3):554-9. PMID: 24275357
Elsoe R, Ceccotti AA, Larsen P(2018)Population-based epidemiology and incidence of distal femur fractures. Int Orthop, 42(1):191-196. PMID: 29116356
Martinet O, Cordey J, Harder Y, et al.(2000)The epidemiology of fractures of the distal femur. Injury, 31 Suppl 3:C62-3. PMID: 11052383