大腿骨骨幹部の多骨片骨折(AO/OTA 32C)のうち不規則型で、AO分類32-C3に相当する。大腿骨骨幹部骨折は高エネルギー外傷の目印で、多発外傷の一部であることが多く、単独骨折でもSIRSを起こしうる。早期総合治療かダメージコントロールかは患者の生理機能で決め、標準治療は順行性のロッキング機能つきリームド髄内釘で、急性期の横止めは静的に行う[1]。
重症度・疫学
好発: 大腿骨骨幹部骨折は通常、強い衝撃による受傷で、多発外傷が多い[1]
受傷機転: 健常な骨をもつ成人では、高エネルギー外力が加わって生じる[1]
大量出血リスク: 単独の大腿骨閉鎖骨折でも受傷後48時間以内に最大1.5Lの出血がある。開放性や両側性の骨折では、特に凝固障害のある患者でショックと大量出血を起こしうる。早期の牽引と局所の圧迫が出血軽減に不可欠[1]
注意すべき合併症
- 骨癒合遷延・偽関節(対処は偽関節のタイプ・インプラントの種類・骨欠損の有無で変わる)[1]
- 感染(表層はデブリドマンと抗菌薬、深部は急性感染の原則で治療)[1]
- 大量出血・ショック(開放性・両側性の骨折、特に凝固障害がある場合)[1]
- コンパートメント症候群
- 深部静脈血栓症(骨盤の静脈血栓が高率)[1]
治療方針
⚠️ 保存療法(原則非適応)
- →手術が選択肢ではない場合にのみ適用(牽引・ギプスでは受け入れがたい結果になる)[1]
- →ダメージコントロール期は創外固定で仮固定(全身状態安定後に本固定)
🔷 手術適応基準・術式選択
- ℹダメージコントロール期:創外固定で仮固定(出血・全身管理を優先)
- ℹ本固定(安定後):順行性リームド髄内釘(急性期の横止めは必ず静的)[1]
- ℹ骨欠損が大きい(≥2cm):Masquelet法(二期的骨移植)または骨延長術を計画
- ℹ創外固定で仮固定した場合:創外固定後14日以降に最終固定を行うと感染性合併症が増える[1]
治療選択アルゴリズム — ダメージコントロール→安定後→IM釘またはMasquelet法
診断・評価
X線は直交2方向で骨折部上下の関節を含めて撮影し、併発しやすい大腿骨頚部骨折(31B)と大腿骨遠位部部分関節内骨折(Hoffa、33B3.2)を見逃さない。軟部組織損傷(閉鎖性デグロービング・開放創・裂傷)と神経血管の状態を丁寧に評価する[1]。
X線正面像 — 骨幹部の高度粉砕(複数の不規則な骨折線と多数の骨片)
✅ 許容される整復目標(間接整復)
- ✓正しい長さを得る(牽引台での過延長・徒手牽引での短縮を避ける)[1]
- ✓軸(内外反)の転位は健側下肢と比較して修正する[1]
- ✓回旋:髄内釘挿入後の回旋異常は比較的頻発し、機能的結果を損なう。牽引の過不足による過延長・短縮にも注意する[1]
❌ 禁忌
- ✕急性期の動的ロッキング
- ✕骨膜血管・貫通動脈を損なう展開(骨内膜循環の回復までは骨膜血管が骨折部の主な血液供給源)[1]
- ✕蘇生が済む前の本固定(臨床的に有意な代謝性アシドーシスが無ければ蘇生済みとみなす:base excess 4 mmol/L未満〔下降傾向〕・乳酸2 mmol/L未満)[1]
手術手技
体位
牽引台での仰臥位: 健側と比較して長さ・回旋を評価しやすいが、多発外傷患者には理想的でなく、陰部神経圧迫を起こしうる。骨盤・寛骨臼骨折や同側下肢損傷の合併時は問題となる[1]。
ダメージコントロール(創外固定)
ダメージコントロール(単管創外固定)— 骨幹部近位・遠位正常部にSchanzピンを刺入し仮固定
順行性髄内釘(ブリッジ固定)— 本固定
- 創外固定除去
- 非観血的な間接整復(牽引・大腿骨用ディストラクタ・枕・髄内整復ツール等を用い、適度な筋弛緩を併用)[1]
- 順行性エントリー(梨状窩または大転子頂部、ネイルのデザインによる)→リーミング(0.5 mm間隔、cortical chatterが出るまで)→ネイル挿入[1]
- 急性期の横止めは必ず静的に行う[1]
- 長さと回旋を健側下肢と比較して確認する[1]
- 横止めスクリューは通常、近位・遠位に2本ずつ[1]
⚠️ IM ネイリング ピットフォール
- ✕蘇生前の本固定(髄内釘・プレートでの即時固定は創外固定より出血量が多く手術時間が長い)。一方、全身状態のよい患者へのダメージコントロールの過剰使用もICU滞在・合併症を増やす[1]
- ✕創外固定から髄内釘への変換の遅れ(創外固定後14日以降の最終固定は感染性合併症が増える)[1]
- ✕急性期の動的ロッキング(動的横止めは長さ・回旋の安定性が確保された遷延癒合・慢性偽関節のみ)[1]
- ✕骨欠損の過小評価(骨移植計画の必要性見落とし)
術後管理
術後X線像(本固定後)— 髄内釘+静的ロッキング。高度粉砕部を橋渡し
術後荷重: 近位・遠位に横止めスクリューを入れた髄内釘固定なら、粉砕の程度にかかわらず術直後から許容範囲内の荷重を許可してよい[1]
骨欠損大(>2cm): Masquelet法を計画(第1期:セメントスペーサー挿入 → 第2期:骨移植)
DVT予防: 骨盤の静脈血栓が高率に発生するため、深部静脈血栓症の予防を考慮する[1]
感染: 偽関節では常に感染の可能性を考える。深部感染でもインプラントの固定性が保たれていれば骨癒合まで残置してよく、抗菌薬は6週以上投与する[1]
フォローアップ
- 術後2週・6週・12週:X線
- CT:回旋変形の評価(最大28%で15°以上の回旋変形がみられ、回旋不良は軸アライメントにも影響する)[1]
予後
- 骨癒合率:順行性リームド髄内釘で治療した大腿骨骨幹部骨折で95%。アンリームドや細径の髄内釘は偽関節率が高い(7.5% vs 1.6%)[1]
📋 上級医報告前チェックリスト
- 1AO分類コードを確認(32-C3 = 大腿骨骨幹部複雑骨折・不規則粉砕型)
- 2全身状態を評価(ダメージコントロールの適応)
- 3軟部組織損傷(閉鎖性デグロービング・開放創・裂傷)と神経血管の状態を確認[1]
- 4骨欠損量をCTで評価(Masquelet法の必要性)
- 5急性期の髄内釘固定では横止めは静的に行う(動的横止めは長さ・回旋の安定性が確保された遷延癒合・慢性偽関節に限る)[1]
- 6創外固定から髄内釘への変換のタイミング(創外固定後14日以降の最終固定では感染性合併症が増える)[1]
文献
- Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
- Masquelet AC et al.(2000)Induced membranes — a technique for repair of bone defects. Clin Orthop Relat Res, 380:84–94.