橈骨頭の関節面の一部を含む転位骨折 。臨床像としてはMason分類II型(転位型・関節面の一部が2mm以上転位)に相当する。なおAO/OTA分類上の21-A(2R1A)は関節面を含まない関節外骨折 を指し、A1=橈骨粗面裂離、A2=橈骨頸部・単純、A3=橈骨頸部・多骨片である。したがって、本項が扱う橈骨頭関節面の部分骨折は、AO/OTAの定義に厳密に従えば部分関節内・単純型 2R1B1(AO/OTA 2018;多骨片を伴えば 2R1B3)に分類される 点に注意する(AOのA/B/C軸〈関節面の関与〉とMason分類〈橈骨頭の重症度〉は概念軸が異なり1対1には対応しない )。最重要ポイントは「ORIF可能か否かの術前判断」と「前腕回旋を妨げない安全域への固定」 であり、再建不能な粉砕例や高齢者低需要例では橈骨頭切除・人工橈骨頭置換術が選択される。前骨間膜・尺側側副靱帯損傷など肘関節不安定化を伴う合併損傷を必ず除外 することが診断上の最優先事項である。
重症度・疫学
年間発生件数(日本): 橈骨頭骨折は肘関節骨折の中で最も頻度が高く、全肘骨折の約33%を占める。日本では年間数万件規模と推定される
好発: 30〜60歳の活動性成人。女性にやや多い。骨粗鬆症高齢者でも多発する
受傷機転: 転倒時に手をついた際の軸圧(FOOSH:fall on outstretched hand)が典型的。肘関節への間接外力で橈骨頭が上腕骨小頭に衝突して骨折する
注意すべき合併症
前骨間膜(IOM)損傷・Essex-Lopresti損傷:橈骨頭の軸方向不安定性をもたらす重篤な合併症。見逃すと橈骨短縮・手首尺骨頭痛が残存。発生率は高エネルギー例で約5〜10%
尺側側副靱帯(MCL)断裂:内反・外反不安定性を合併。Terrible Triad(橈骨頭骨折 + 冠状突起骨折 + 肘関節脱臼)に注意。発生率は脱臼合併例の約20〜40%
外側側副靱帯(LCL)断裂:後外側回旋不安定性(PLRI)の原因。橈骨頭切除後に顕在化しやすい
肘関節後外側脱臼:橈骨頭骨折に約5〜10%合併
外傷後関節拘縮:屈曲・伸展制限が最多。術後の早期可動域訓練で予防
異所性骨化:約3〜5%。高エネルギー例・軟部組織損傷が大きい症例で増加
橈骨神経深枝(PIN)損傷:Kocher アプローチ時に注意。発生率は術者依存だが概ね1〜3%
治療方針
Mason II型の治療方針は転位量・骨折サイズ(橈骨頭の何割を占めるか)・合併損傷・患者因子を総合的に評価して決定する。
⚠️ 保存療法の適応条件
→ 転位量 ≦2 mm かつ骨折片が橈骨頭関節面の30%未満 → 前腕回旋に骨性ブロックなし(局所麻酔下で確認) → 前骨間膜・側副靱帯損傷なし(肘関節安定性保持) → 手術リスクが極めて高い場合(ASA分類IV以上)
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 転位量 >2 mm または骨折片が関節面の30%以上 → ORIF(ラグスクリュー固定)を第一選択 ℹ 骨折片サイズが関節面の30%以上で2〜3骨片まで → ラグスクリュー ORIF(Kocher アプローチ) ℹ 再建不能な粉砕骨折(3骨片以上・関節面破壊)かつ孤立性骨折・低エネルギー例 → 橈骨頭切除 ℹ 再建不能な粉砕骨折 + 肘関節不安定性(LCL/MCL 断裂・前骨間膜損傷)→ 人工橈骨頭置換術(第一選択) ℹ 前腕回旋の骨性ブロックが存在 → 手術適応
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診断・評価
肘関節外側部痛・前腕回旋時痛・肘関節伸展制限を呈する。橈骨頭部の圧痛・前腕回旋制限が特徴的身体所見。局所麻酔注入後も回旋が制限される場合は骨性ブロックの存在を示唆する。
2R1B1 の診断ポイント:転位量・合併損傷評価
X線正面像・側面像では橈骨頭の骨折線と転位を確認する。橈骨頭軸位像(radiocapitellar view)が骨折の評価に有用。CT は骨折片数・サイズ・転位量・関節面の状態を評価するのに必須であり、ORIF 可能かどうかの術前判断に不可欠。手根部・遠位橈尺関節のX線も必ず撮影し Essex-Lopresti 損傷を除外する。
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【必須】 肘関節正面・側面X線、橈骨頭軸位像、CT(骨折評価)、手根部X線(Essex-Lopresti 除外)
【考慮】 MRI:側副靱帯損傷・骨挫傷の評価(肘関節不安定性が疑われる場合)
✅ 許容される固定
✓ 骨折転位量 ≦2 mm(整復後) ✓ 前腕回旋時にスクリューが橈骨頭安全域(safe zone)内に位置(橈骨茎状突起とLister結節の間:回旋中立〜90°のアーク) ✓ スクリューが関節面よりも沈下(countersunk)またはヘッドレス圧迫スクリューを使用 ✓ 整復後に前腕回旋がスムーズに行えること(術中確認)
❌ 許容されない変形・操作
✕ 転位 >2 mm のまま保存療法(骨性ブロック・変形性関節症の原因) ✕ ラグスクリューの安全域外への留置(回旋時に橈骨頭が近位橈尺関節に衝突) ✕ スクリューが関節面から突出(尺骨切痕または上腕骨小頭を損傷) ✕ Essex-Lopresti 損傷を見逃した上での橈骨頭切除(橈骨短縮・手首不安定性の残存) ✕ 肘関節不安定性合併例への単独橈骨頭切除(後外側回旋不安定性増悪)
手術手技
体位
仰臥位: 患者を仰臥位とし、患肢を胸の前に置けるよう手術台辺縁に近く配置する。肘をやや屈曲位(約90°)で前腕を中間位に保持し、アームボードまたは枕に前腕を置く。止血帯を上腕に装着する。放射線透過性手術台を使用し術中透視が可能な体位とする。
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ORIF(ラグスクリュー固定)— 第一選択
適応: 転位 >2 mm、骨折片が関節面の30%以上、前腕回旋の骨性ブロックを有する部分関節内骨折(2〜3骨片まで)。
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展開(Kocher アプローチ): 上腕骨外側上顆から近位尺骨後面にかけて弧状切開。肘筋(anconeus)と尺側手根伸筋(ECU)の間の間隙を展開する。橈骨頭安全域(safe zone)を意識して進め、橈骨神経深枝(PIN)への牽引損傷に注意する
輪状靱帯の処理: 輪状靱帯を縦切開または T 字切開して橈骨頭・骨折部を露出する。後で修復できるよう切開線を記憶しておく
骨折の確認・整復: 骨折片を直視下で確認し、関節内血腫・骨片を洗浄除去する。ポインテッドリダクションフォーセップスで骨折部を解剖学的位置に整復し、K ワイヤー(1.2〜1.5 mm)で仮固定する
グライディングホール穿孔: 骨折線に対して垂直方向にドリルでグライディングホール(スクリュー径と同じサイズ)を遊離骨片に穿孔する
ドリルスリーブ挿入・スレッドホール穿孔: ドリルスリーブを骨折面まで挿入し、対側の橈骨頭骨端をより細いドリルで穿孔してスレッドホールを形成する
カウンターシンク処理: 軟骨面にスクリュー頭が突出しないようカウンターシンクで沈め穴を形成する(ヘッドレス圧迫スクリューを使用する場合は不要)
スクリュー固定: ラグスクリュー(1.5〜2.0 mm、または Herbert 型・HCS ヘッドレス圧迫スクリュー)を骨折線に対して垂直に挿入し、骨折部を圧迫固定する。骨片サイズが許せば2本目のスクリューで回転転位を防止する
回旋確認: 前腕を完全回内・回外させてスクリューが橈尺関節の回旋を妨げないことを透視で確認する。スクリューの安全域内留置を必ず確認
輪状靱帯修復: 吸収糸または非吸収糸(2-0 PDS または Ethibond)で輪状靱帯を修復する
最終確認: 透視で整復位・スクリュー位置・関節内突出なしを確認し、肘関節の安定性(内反・外反・回旋ストレステスト)を評価する
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⚠️ ORIF ピットフォール
✕ 安全域外へのスクリュー留置 → 前腕回旋時に橈骨頭が近位橈尺関節に衝突・回旋制限の原因 ✕ スクリューの関節面突出 → 尺骨切痕・上腕骨小頭の軟骨損傷 ✕ 骨折線に対して非垂直なスクリュー方向 → 圧迫力不足・再転位 ✕ 橈骨神経深枝(PIN)の牽引損傷 → 術後手指伸展麻痺(広範な展開・長時間牽引を避ける) ✕ Essex-Lopresti 損傷の見逃し → ORIF 後に手首不安定性が残存
橈骨頭切除(孤立性・再建不能例)
適応: 粉砕が高度で再建不能な孤立性骨折(3骨片以上)かつ肘関節安定性が保たれている場合、低エネルギー例。前骨間膜・側副靱帯損傷がある場合は禁忌。Kocher アプローチ後、橈骨頭・頸部の全骨片を慎重に摘出し、橈骨頚断面をロンジュールで平滑化する。輪状靱帯は非吸収糸で修復する。術後 C アームで橈骨短縮の有無を確認する。
人工橈骨頭置換術(再建不能 + 不安定性合併例)
適応: 再建不能な粉砕骨折(3骨片以上)に前骨間膜損傷・LCL/MCL 断裂・肘関節脱臼が合併している場合。プロステーシスサイズの適切な選択が重要で、過大(over-stuffing)は可動域制限、過小(under-sizing)は肘関節不安定性の原因となる。骨髄腔の準備後、プロステーシスを骨頸部レベルで設置し、術中に完全回旋・安定性を確認する。
術後管理
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手術タイミング: 緊急手術は不要。全身状態安定後に施行(受傷後5〜7日以内を目標)。肘関節脱臼合併例は整復後に手術を施行
術後荷重: 肘関節非荷重を6〜8週間維持。上肢荷重(杖・プッシュアップ等)を禁止する
固定: 術後数日間は後方スプリント(肘屈曲90°・前腕中間位)で安静。早期可動域訓練のため長期ギプス固定は避ける
VTE予防: 一般的に上肢のみの骨折では特別な抗凝固療法は不要だが、複合外傷・長期臥床例ではガイドラインに準じる
疼痛管理: アセトアミノフェン定期投与を基本とし、NSAIDs を短期(5〜7日)補助的に使用。異所性骨化予防目的の予防的 NSAIDs 投与は考慮する
リハビリテーション: 術後2〜3日から疼痛の許容範囲内で能動補助的な肘屈伸・前腕回旋訓練を開始。早期可動域訓練が拘縮予防の鍵。筋力訓練は骨癒合が確認できる6〜8週以降から開始
フォローアップ
術後1〜2週: X線(整復位・スクリュー位置の確認)、創傷評価、スプリント除去・可動域訓練強化
術後4〜6週: X線(骨癒合評価)、前腕回旋・肘関節可動域の評価、荷重制限の緩和
術後3ヶ月: X線・必要に応じて CT(骨癒合完成)、日常生活・スポーツ復帰判断
術後6〜12ヶ月: 最終可動域評価、インプラント抜去の検討(症状がある場合は12〜18ヶ月以降)
予後
ORIF 後の骨癒合率:約85〜90%(適切な術式選択で)
良好な機能回復(屈伸・回旋ほぼ正常):約70〜80%
外傷後変形性関節症:約10〜20%(関節面不整合が残存した場合に増加)
異所性骨化:約3〜5%(機能的制限を要する重症例は稀)
橈骨神経深枝(PIN)一過性麻痺:術後2〜3%(ほとんど回復)
橈骨頭切除後の長期成績:孤立性低エネルギー例では概ね良好だが、Essex-Lopresti 見逃しでは遠位橈尺関節痛・機能障害が残存
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO 分類コードを確認(AO/OTA上 21-A2 = 橈骨頸部・単純〈関節外〉。本項の橈骨頭関節面部分骨折は臨床的にMason II型で、AO厳密には部分関節内〈21-B/2R1B〉に相当。AOのA/B/C軸とMason分類は1対1対応しない) 2 転位量を計測(≦2mm=保存検討 / >2mm=手術適応) 3 骨折片サイズを評価(橈骨頭関節面の何割を占めるか:30%以上で手術適応) 4 前腕回旋の骨性ブロックを確認(局所麻酔注入後でも制限があれば手術適応) 5 Essex-Lopresti 損傷を除外(手根部 X線・遠位橈尺関節の評価) 6 側副靱帯(LCL/MCL)損傷・肘関節脱臼の合併を確認(術式選択に直結) 7 ORIF 可否を判断(2〜3骨片まで=ORIF / 粉砕高度=切除または人工橈骨頭) 8 スクリューの安全域(safe zone)への留置計画・術中回旋確認の実施
文献
Mason ML(1954)Some observations on fractures of the head of the radius with a review of one hundred cases. Br J Surg, 42(172):123–132. PMID: 13209035
Morrey BF, et al.(2008)Factors influencing the outcome of radial head fractures. J Bone Joint Surg Am, 70(9):1236–1244.
Zwingmann J, et al.(2013)Surgical treatment of radial head fractures: results of a systematic review. Arch Orthop Trauma Surg, 133(1):93–101.
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767