橈骨頭の非転位・部分関節内骨折 (転位2 mm未満)。AO/OTA 2018分類 2R1B1(近位橈骨・部分関節内・単純、非転位) に相当する(相原CEO確認)。臨床像はMason分類I型(非転位・転位2mm未満)。なお橈骨“頸部”の関節外骨折は別分類で、2R1A(A1=橈骨粗面裂離/A2=頸部単純/A3=頸部多骨片)に属する。AO/OTAのA/B/C軸は「関節面を含むか否か」で分類され、Mason分類は橈骨頭に特化した独立の重症度軸であるため、両者は概念軸が異なり1対1には対応しない (橈骨頭の関節面を含む骨折は本来AOではB=部分関節内/C=完全関節内に相当する)。いずれにせよ肘関節の安定性は保たれており、原則として保存療法(早期可動域訓練)が第一選択 となる。ただし、前腕回旋制限の原因となる骨片の引っかかり(mechanical block)がある場合は手術が必要となるため、注意深い身体評価が必須である。
重症度・疫学
年間発生率: 橈骨近位部骨折は最も多くみられる肘損傷の1つで、年間の推定発生率は10万人あたり28~39人である[4]
好発: ほとんどの骨折は骨粗鬆症を併発する50歳以上の女性に起こり、若年患者(主に男性)では高エネルギー外傷に伴って発生する[4]
受傷機転: 橈骨に対する介達外力で起こり、典型的には腕を伸ばした状態で肘がわずかに屈曲しているときに転倒して手をつくと発生する(FOOSH: fall on outstretched hand)[4]
分類の準拠: AO/OTA 2018分類 2R1B1(近位橈骨・部分関節内・単純、非転位)に準拠
注意すべき合併症
前腕回旋制限(mechanical block):前腕回旋の機械的ブロックは橈骨近位部骨折全般で確立した手術適応。回旋は疼痛でも妨げられるため、機械的ブロックの確かな診断は難しい[2]
靱帯損傷:単独の橈骨頭骨折(全type)の多くは靱帯損傷を合併している[4]
Essex-Lopresti損傷:肘の脱臼骨折に橈骨遠位部の脱臼骨折や遠位橈尺関節の破綻を合併したもの。近位・遠位橈尺関節両方と骨間膜の破綻を合併すると重篤な機能障害が生じる[4]
外側尺側側副靱帯(LUCL)損傷:LUCLは橈骨頭の後外側転位に抵抗する主な制限因子と考えられている[4]
外傷後肘関節拘縮:肘の外傷はほとんどの患者で拘縮をもたらし、単純な橈骨頭骨折でさえも回内外運動の著しい制限を招く可能性がある[4]
鉤状突起骨折・肘関節脱臼の合併:terrible triad では肘関節脱臼に橈骨頭と鉤状突起の骨折が合併している[4]
治療方針
Mason I型(非転位型・転位2mm未満)は、まず保存療法の適否を評価する。mechanical blockがないことの確認が保存療法選択の前提条件となる。
⚠️ 保存療法の適応条件
→ 転位2 mm未満(臨床的にMason I型に相当) → 前腕回旋(pronation/supination)に機械的ブロックなし → 骨片が関節面の30%未満で、転位が2 mm未満[4] → 転位のない安定した橈骨頭骨折である[4] → 上記を満たす場合は苦痛軽減のため三角巾で固定し、全域の可動域運動を早速開始する[4]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 前腕回旋の機械的ブロックがある場合 → 手術適応(橈骨近位部骨折全般で確立した適応)[2] ℹ 部分関節内骨折の固定 → 2 mmのラグスクリューまたはヘッドレスコンプレッションスクリュー[4] ℹ 解剖学的再建が不可能 → 単純な橈骨頭切除も選択肢だが、靱帯または縦方向の不安定性があると治療困難な合併症を起こしうるため、多骨片骨折での急性期の適応は少ない[4] ℹ 再建不可能な橈骨頭骨折 → 人工橈骨頭置換で縦方向および/または外反方向の安定性の回復を補助できる[4] ℹ 21-A1で保存療法が適切ならORIF・切除は原則不要
21-a1-treatment-algorithm.png
診断・評価
回旋の機械的ブロックの有無を慎重に評価すること 。前腕回旋は疼痛でも妨げられるため、機械的ブロックの確かな診断は難しい[2] 。
必須評価:
肘正面・側面X線(伸展は痛みで困難なため正面像は前腕に対して垂直に撮影し、斜位像も追加する)[4]
手関節を診察し、損傷の兆候があれば遠位橈尺関節に影響が及んでいないことを確認するX線を追加[4]
前腕回旋域(能動・他動)の計測(mechanical block評価)
考慮: CT・MRIは、複雑な症例や靱帯の不安定性が疑われる症例で役立つ[4]
21-a1-xray-ap.png
21-a1-xray-lateral.png
21-a1-ct-axial.png
✅ 許容される整復(保存療法の継続基準)
✓ 関節内の転位が2 mm未満(骨片は関節面の30%未満)[4] ✓ 前腕回旋に力学的な回旋制限がない[4] ✓ 初診後に整復位を失った骨折は1例のみでまれ。初診後のX線再撮影は臨床的適応に応じて行い、ルーチンには不要[2]
❌ 手術を要する状態
✕ 前腕回旋の機械的ブロック → 手術適応[2] ✕ 2 mm以上の関節内転位(手術適応の従来の基準。ただし保存療法の成績から、この基準は妥当でないとする報告がある)[2] ✕ Essex-Lopresti損傷(遠位橈尺関節の破綻を合併)→ 縦方向の不安定性があると橈骨頭切除は永続的で治療が困難な合併症を起こしうる[4] ✕ 肘の不安定性を伴う橈骨近位部骨折(terrible triad など)[2]
手術手技
体位
仰臥位: 単独の橈骨頭骨折の手術では患者を仰臥位とし、腕を手台にのせる。固定術中に前腕の回内外・肘の屈曲伸展ができるよう、腋窩から手までの上肢を消毒して準備する[4] 。
21-a1-positioning.png
ORIF — ラグスクリュー固定(手術を要する部分関節内骨折)
適応: Mason II型(転位2mm超・大骨片で修復可能)。21-A1(非転位型)では通常不要だが、境界例や機械的ブロックを伴う場合に施行する。
アプローチ:Kocher法(外側アプローチ)
安全域(safe zone):セーフゾーンとは橈骨切痕とは関節をなさない橈骨頭の部分で、標準的な2 mmスクリューは優先的にここから挿入し、カウンターシンクさせる[4] 。
21-a1-approach.png
展開: 尺側手根伸筋(ECU)と肘筋(anconeus)の間を遠位方向に展開し、関節包を上腕骨外側上顆の遠位部から縦方向に、上腕骨小頭と橈骨頭の後外側面上で切開する[4]
安全域の同定: 前腕中間位でのセーフゾーン(デバイスが近位橈尺関節にインピンジしない回旋の弧)を確認する[4]
関節包切開・骨折確認: 関節包を上腕骨外側上顆の遠位部から縦方向に、上腕骨小頭と橈骨頭の後外側面上で切開し、骨折を確認する[4]
整復: 歯科用フックと先端鋭の整復鉗子で直視下に整復し、前腕を愛護的に回内外して橈骨頭と頚部全周を観察したうえで、1.0 mmのKワイヤーで仮固定する[4]
スクリュー本数: 楔状骨折は1〜2本の小骨片用ラグスクリューで固定する[4]
スクリュー固定: 部分関節内骨折は2 mmのラグスクリューまたはヘッドレスコンプレッションスクリューで固定する。標準的な2 mmのスクリューは優先的にセーフゾーンから挿入し、カウンターシンクさせる(countersunk)[4]
最終確認: 橈骨頭の固定に続いて輪状靱帯を再建し、全可動域における肘の安定性を確認する[4]
21-a1-fluoroscopy.png
⚠️ ORIF ピットフォール
✕ セーフゾーン外へのデバイス設置 → 近位橈尺関節へのインピンジ[4] ✕ スクリューヘッドの埋没不足(countersunk不足)→ 前腕の回内外運動の制限[4] ✕ 1本のみの固定 → 回転転位・骨折再転位 ✕ 橈骨頭の固定・置換後は輪状靱帯を再建し、全可動域における肘の安定性を確認する[4] ✕ 靱帯の不安定性または縦方向の不安定性を見落とした状態での橈骨頭切除 → 永続的で治療が困難な合併症[4]
保存療法の実施手順(21-A1の標準治療)
適応: mechanical blockなし、転位2mm未満のMason I型(21-A1)。
初期固定: 苦痛軽減のために腕を三角巾で固定するが、全域の可動域運動を早速開始する[4]
早期可動域訓練: 転位のない、あるいはわずかな転位の骨折(Mason I型)では、早期可動域訓練を伴う保存療法で大多数が良好または優秀な成績を得るという合意がある[2]
理学療法: 前向き研究では、保存療法例に三角巾固定1週間のあと、必要に応じて監視下の理学療法を行った[2]
術後管理
21-a1-postop-xray.png
手術タイミング: 閉鎖骨折では、軟部組織の腫脹があってもしばしば早期手術が可能である[4]
術後の運動開始: 術後早期から、理想的には創傷が乾燥する48時間後、そして確実に1週間以内に理学療法による自動運動が可能となる、安定した肘関節の再建を目指す[4]
VTE予防: 上肢骨折のためDVT/PE予防の必要性は低い。長期臥床を要する場合は個別に判断
疼痛管理: 痛みがあるとリハビリテーションに苦労するため、明確なリハビリテーションと疼痛管理プログラムが不可欠である[4]
リハビリテーション: 肘の外傷はほとんどの患者で拘縮をもたらし、単純な橈骨頭骨折でも回内外運動の著しい制限を招きうる。屈曲・伸展と回外・回内の機能的な可動域の回復を目標とする[4]
フォローアップ
受傷後2週・6週: 前向き研究では受傷後2週・6週・3か月・6か月・1年に経過観察を行った[2]
各診察時: 復職までの期間とMayo Elbow Scoreを含む機能評価を行う[2]
X線の再検: 初診後に骨折の位置が失われた例は1例のみで、X線の再検はルーチンには要せず臨床上の必要に応じて行う[2]
拘縮残存時: NSAIDs・理学療法・伸展・屈曲用の動的肘関節装具が補助となる。時に早期の麻酔下マニピュレーションが必要となる[4]
予後
Mason I型(21-A1)の予後は全骨折中最も良好
偽関節:橈骨頭・頚部骨折201例中1例(0.5%)[2]
機能成績:Mason I型はすべて保存療法で、95%がMayo Elbow Scoreで優または良[2]
長期の遺残:転位のない骨折は、治療法によらず遺残障害が少ないことが多い[3]
外傷後変形性肘関節症:Mason II・III型骨折の長期追跡では、受傷肘の76%にX線上の変性変化を認めたが、疼痛や可動域制限との相関はみられなかった[3]
Essex-Lopresti損傷:近位・遠位橈尺関節の両方と骨間膜の破綻を合併すると重篤な機能障害が生じる[4]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(2R1B1 =橈骨頭・部分関節内・単純〈非転位=Mason I〉。旧21-A1。※旧21-A1は橈骨粗面裂離/関節外の意味で本骨折〈橈骨頭〉と不一致。橈骨頸部の関節外は2R1A。AO/OTA 2018で橈骨近位は2R1、A/B/C軸とMasonは概念軸が異なる) 2 転位量と骨片の大きさを評価(関節面の30%未満の骨片で転位が2 mm未満なら保存的に治療する[4] ) 3 前腕回旋の機械的ブロックの有無を確認(橈骨近位部骨折すべてで確立した手術適応。疼痛でも回旋は妨げられるため判定に注意)[2] 4 手関節を診察し、損傷の兆候があればX線を追加して遠位橈尺関節に及んでいないことを確認(Essex-Lopresti損傷の除外)[4] 5 腕橈関節と腕尺関節の適合性を慎重に評価する(わずかな亜脱臼でも重大な不安定性を呈しうる)[4] 6 保存療法選択時は三角巾固定とし、全域の可動域運動を早速開始するよう指示[4] 7 ORIF施行時はスクリューのsafe zone配置(countersunk)と輪状靱帯修復を確認 8 合併症を把握(拘縮・Essex-Lopresti見落とし・外傷後関節症)
文献
Mason ML(1954)Some observations on fractures of the head of the radius with a review of one hundred cases. Br J Surg, 42(172):123–32. PMID: 13209035
Duckworth AD, et al.(2011)Radial head and neck fractures: functional results and predictors of outcome. J Trauma Acute Care Surg, 71:643-8. PMID: 21248649
Herbertsson P, et al.(2004)Uncomplicated Mason type II and III fractures of the radial head and neck in adults. J Bone Joint Surg Am, 86(3):569–74. PMID: 14996884
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767