橈骨遠位部の前縁(掌側縁)の関節面骨片が分離する部分関節内骨折(掌側Barton骨折) 。AO分類23-B3に相当し、橈骨S状切痕より遠位の掌側関節縁骨片(volar rim fragment)が主骨幹端から剥離するのが特徴。手関節部に手掌屈曲位で強制された軸圧・せん断力によって生じ、背側骨片の大きさと転位量が月状骨・舟状骨の掌側脱臼(舟状月状骨解離)を合併するかどうかを左右する最重要因子 である。背側骨片が小さく安定していれば保存療法が選択肢となるが、関節面転位 ≥2mm または背側骨片が関節面の1/3以上を占める場合はORIF(掌側ロッキングプレート固定)が標準治療となる。
重症度・疫学
年間発生件数(日本): 橈骨遠位部骨折全体で人口10万人あたり約130〜200例(最も頻度の高い四肢骨折のひとつ)。23-B3(後縁骨折)はその約5〜10%
好発: 高齢女性(骨粗鬆症+転倒)・若年成人(高エネルギー外傷)の二峰性分布。橈骨遠位部骨折全体で女性が約70%を占める
受傷機転: 手関節背屈(伸展)位での転倒・手掌接地時の軸圧により掌側縁にせん断力が集中する(Colles型と同機転だが掌側骨片が剪断される)。スポーツ(スキー・自転車・バスケットボール)および交通外傷でも発生
治療方針: 関節面転位 ≥2mm・背側骨片が関節面積の1/3以上を占める場合は手術が推奨される。背側縁骨片が月状骨と一体化して背側転位する一部の症例は「掌側Barton骨折(volar Barton fracture)」と呼ばれる(ただし掌側Barton骨折(volar Barton fracture)は23-B3全例に当てはまる名称ではなく、手根骨と骨片が一体転位する特定パターンに限定される)
注意すべき合併症
月状骨・舟状骨の背側脱臼(掌側Barton骨折(volar Barton fracture)では月状骨が背側へ転位しやすい):受傷時約5〜15%に合併
遠位橈尺関節(DRUJ)不安定性:背側縁骨折と同時にDRUJ靱帯(掌側橈尺靱帯の表層・深層)が損傷する場合がある(約15〜25%)
手根骨間靱帯損傷(舟状月状骨間靱帯断裂):高エネルギー外傷例で合併(約5〜10%)。見落とすと慢性手関節不安定症に至る
正中神経障害(急性手根管症候群):橈骨遠位部骨折全体の約1〜9%。腫脹による圧迫が原因
伸筋腱断裂(長母指伸筋腱:EPL):背側プレート固定後の腱摩耗によって生じうる(術後1〜3ヶ月)
外傷後手関節変形性関節症:関節面不整合 ≥2mm の残存で長期的に発生リスク上昇
骨粗鬆症症例での整復位消失・固定失敗:背側皮質が薄い高齢者では再転位リスクが高い
治療方針
⚠️ 保存療法の適応条件
→ 関節面転位 <2mm かつ背側骨片が関節面積の1/3未満の場合 → 手関節の掌屈・尺屈位ギプス固定(Colles型と逆の肢位:掌屈位で背側骨片を安定させる)で整復位が維持できること → 月状骨・DRUJ・手根骨の整合性が保たれていること → ギプス固定後の定期X線(1週・2週・4週)で整復位維持を確認し、転位が生じれば速やかに手術に切り替える
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 第一選択:背側プレート固定(ORIF — dorsal buttress plate)— 骨片が大きく(関節面1/3以上)または転位 ≥2mm の場合 ℹ 背側骨片が小さく複数破砕骨片を伴う場合:創外固定(スパンニング型)+経皮ピン固定の組み合わせを考慮 ℹ DRUJ不安定性合併:橈骨固定後に前腕回内外でDRUJ安定性を確認。不安定であれば経皮ピン固定(前腕中間〜回外位で6週間固定) ℹ 手根骨間靱帯損傷合併:関節鏡補助下修復または経皮ピン固定を追加 ℹ 掌側ロッキングプレート(VLP)は23-B3の背側骨片固定には通常不向き。背側からのアプローチが基本(ただし小背側骨片には限界がある)
治療選択アルゴリズム — 23-B3背側縁骨折・骨片サイズと転位量に基づく保存療法vs手術
診断・評価
手関節背側の腫脹・圧痛・可動域制限(特に背屈制限)を呈する。受傷直後の腫脹が強い場合は急性手根管症候群(正中神経障害)を除外すること。DRUJ部の圧痛・前腕回内外時の疼痛・DRUJの不安定性(ピストン運動試験・尺骨頭圧迫試験)を必ず評価する。
X線正面像・側面像: 橈骨遠位部背側縁の骨片分離を確認。側面像が最も診断的で、背側縁骨片の大きさ・転位量・月状骨との位置関係(背側脱臼の有無)を評価。正面像では橈骨高の損失・橈骨傾斜角(ulnar inclination)・尺骨変位(ulnar variance)を計測。背側骨片が関節面のどの割合を占めるかを評価する。
CT: 骨片の三次元的評価に必須。背側骨片の大きさ(関節面積に占める割合)・粉砕度・月状骨の転位方向・DRUJ関節面の整合性を評価。背側骨片が単純か粉砕しているかで術式選択が変わるため、CTによる骨折形態の把握は手術計画の基盤となる。
術前X線正面像・側面像 — 橈骨遠位背側縁の骨片分離・月状骨との位置関係・橈骨高・尺骨変位を評価
CT矢状断・横断面 — 背側縁骨片の大きさ(関節面積の割合)・粉砕度・月状骨・DRUJの整合性を三次元評価
✅ 許容される整復
✓ 関節面転位 ≦2mm(目標:解剖学的整復) ✓ 背側傾斜(dorsal tilt):中立〜掌側傾斜(目標11〜12°掌側傾斜)。背側傾斜残存 ≦5° ✓ 橈骨高の回復(正常約11mm;短縮 ≦2mm) ✓ 橈骨傾斜角(ulnar inclination)正常範囲内(22〜23°) ✓ DRUJ整合性の確認(尺骨変位 ≦1mm)
❌ 許容されない変形
✕ 関節面転位 >2mm(外傷後変形性手関節症の主因) ✕ 背側傾斜の残存 >10°(掌側不安定性・月状骨背側脱臼のリスク) ✕ 橈骨短縮 >3mm(DRUJ不調和・前腕回内外制限につながる) ✕ 月状骨の背側転位の残存(手根列の不整合) ✕ DRUJ不安定性の未治療(前腕回内外痛・長期DRUJアーソロスィスに至る)
手術手技
体位
仰臥位・アームボード: 患肢をアームボード(橈透過性)上に置き、前腕を回内位(掌側下向き)にして背側面を術野とする。止血帯を上腕近位部に装着。C-armを患肢の上方から配置し、手関節の正面・側面・斜位を術中透視できるようにする。
手術体位 — 仰臥位・アームボード・前腕回内位(背側術野)・止血帯・C-armセットアップ
背側プレート固定(ORIF — Dorsal Buttress Plate) — 第一選択
背側アプローチによる橈骨背側縁骨片の整復・背側プレート設置(術中透視)
背側アプローチ(Step 1): 手関節背側の横皮切または縦弧状切開。第3コンパートメント(長母指伸筋腱:EPL)を解放し、EPLを橈側へ移動させることで橈骨背側関節縁を露出。第4コンパートメント(総指伸筋腱)は橈側または尺側へ牽引して骨折部を展開する
骨折部の確認と清掃(Step 2): 関節内を直視または透視下で評価し、血腫・骨膜を清掃。背側縁骨片の大きさ・関節軟骨面の損傷を確認する
骨片の整復(Step 3): 骨膜剥離子・クランプで背側縁骨片を解剖学的位置に整復。手関節を軽度背屈位にして骨片を遠位橈骨関節面に押し当て、K-wire(1.6mm)で仮固定する。正面・側面透視で関節面転位 ≦1mm を確認
背側バットレスプレート設置(Step 4): 低プロファイルの背側ロッキングプレート(T型または L型、厚さ1.5〜2.0mm)を橈骨背側面に設置。プレートの遠位端が橈骨関節面縁(Lister結節遠位)に接するよう位置を調整
スクリュー固定(Step 5): 遠位端のサブコンドラルスクリュー(2.0〜2.4mm)を関節軟骨直下に配置して背側骨片を保持。近位端に3〜4本の皮質スクリューまたはロッキングスクリューで橈骨骨幹端に固定。仮固定のK-wireを除去する
DRUJ確認(Step 6): 固定後に前腕を回内外して DRUJ の安定性を確認。不安定であれば経皮K-wire(1.6mm×2本)で前腕中間〜回外位にてDRUJを6週間固定
最終透視確認: 正面・側面・斜位(手関節30°回外位)で関節面整復・プレート位置・スクリュー長(関節内穿通の有無)・DRUJを確認。EPLは背側に再配置してシースを縫合再建するか、皮下にルートを変えて腱摩耗を予防する
⚠️ 背側プレート固定 ピットフォール
✕ EPL(長母指伸筋腱)の保護を怠ると術後腱断裂の主因となる(必ず術中にEPLをシース外へ移動させ、プレートの直下に走行させない) ✕ 遠位スクリューが関節内を穿通すると関節軟骨損傷・慢性手関節痛の原因となる(透視の斜位(30°回外)でスクリュー先端の関節内穿通を必ず確認) ✕ 背側縁骨片が粉砕・小骨片化している場合、背側プレート単独では固定力が不十分なことがある(追加のK-wire固定または創外固定の補助を考慮) ✕ DRUJ不安定性を術後に見落とすと慢性DRUJ不安定症・前腕回内外痛が残存する(術中に必ず回内外テストを実施) ✕ プレートが骨折部近位に広くかかりすぎると第4・5コンパートメントの伸筋腱を圧迫する(プレートの近位端は伸筋支帯の深層に留まるよう調整)
創外固定+経皮ピン — 代替術式(背側骨片が小骨片または粉砕の場合)
背側縁骨片が小さく(関節面の1/3未満)、プレート固定が困難な場合:
スパンニング創外固定(Spanning External Fixator): 橈骨骨幹部と第2中手骨にハーフピンを刺入し、手関節をまたぐ牽引型創外固定で間接整復。手関節の掌側傾斜・橈側傾斜・骨長を回復させる
経皮K-wire補助固定: 創外固定で全体の整復位を維持しつつ、背側縁骨片にK-wire(1.6mm)を経皮的に刺入して骨片を仮固定する。透視で関節面の整復位を確認
固定期間: 創外固定は6〜8週間維持し、X線で骨癒合を確認後に抜去。K-wireは4〜6週で抜去
術後管理
術後X線正面像・側面像 — 背側プレート固定後の関節面整復・プレート位置・スクリュー長確認(手関節正面・側面)
手術タイミング: 腫脹が強い場合は受傷後5〜7日で腫脹軽減を待って手術。緊急性は高くないが、2週間以上経過すると骨片の線維性癒合が生じ整復困難になるため早期に計画する。急性手根管症候群を合併した場合は緊急手根管開放+早期手術の適応
術後荷重: 上肢骨折のため下肢荷重は制限しない。患肢は術後2〜4週はスプリント(背側スプリント・前腕中立位)で保護 し、X線確認後に可動域訓練を開始。手関節の荷重(体重支持)は骨癒合確認まで(6〜8週)制限する
VTE予防: 上肢骨折単独例では薬物的VTE予防の適応は低い。術後早期から指・肘の自動運動、患肢挙上を励行して浮腫・DVTリスクを軽減する
疼痛管理: アセトアミノフェン定期投与を基本とし、NSAIDs(短期使用)を補助的に使用。術後急性期には腕神経叢ブロック(末梢神経ブロック)が有効
リハビリテーション: 術後翌日から指の自動運動(母指・示〜小指の屈伸)・肘・肩の自動運動を開始。スプリント除去後(術後2〜4週)に手関節の自動ROM訓練(背屈・掌屈・回内外)を開始。関節面の骨癒合を確認(術後6〜8週)した後、段階的に把持力・前腕筋力訓練へ移行
フォローアップ
術後2週: 創部確認・X線撮影(整復位維持・プレート位置・スクリュー長・関節内穿通の有無)
術後6週: X線撮影(骨癒合初期像)。DRUJ経皮ピンを使用した場合はこの時点で抜去。手関節ROM訓練を本格化
術後10〜12週: X線撮影(骨癒合完成・DRUJ整合性の評価)。把持力・ピンチ力の評価
術後6ヶ月: X線 ± CT(骨癒合・手根列整合性・変形性関節症の初期評価)。手関節可動域・握力の最終評価
術後12ヶ月(必要に応じ): インプラント関連症状(腱摩耗・EPL断裂の遅発)の確認
予後
骨癒合率:約90〜95%(背側プレートORIF)
関節面整復 ≦2mm 達成例では長期機能予後良好(Mayo Wrist Score 良好〜優秀:約75〜85%)
外傷後変形性手関節症:関節面不整合 >2mm 残存例で放射線学的変化が有意に増加(中長期的に約20〜40%)
EPL断裂(遅発性):背側プレート固定後に約2〜5%(腱保護対策で低減可能)
DRUJ不安定性の残存:適切に管理されない場合、前腕回内外制限・慢性疼痛が残存(約10〜20%)
手関節可動域回復:適切なリハビリで背屈50〜60°・掌屈50〜60°・回内外各80〜85°を目標
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(23-B3 = 橈骨遠位部 部分関節内・後縁〔背側縁〕骨折) 2 背側縁骨片の大きさを評価(X線・CTで関節面積に占める割合を確認:1/3以上なら手術適応) 3 関節面転位量を計測(CT矢状断・横断面で転位 ≥2mm なら手術適応) 4 月状骨の背側転位(掌側Barton骨折(volar Barton fracture)パターン)の有無を確認(側面X線で月状骨と橈骨遠位関節面の整合性を評価) 5 DRUJ不安定性を評価(尺骨頭の背側突出・前腕回内外時の疼痛・ピストン運動試験) 6 手根骨間靱帯損傷(舟状月状骨間靱帯断裂)をMRIまたは関節鏡で除外(高エネルギー損傷例・手根列不安定性疑い例) 7 急性手根管症候群を除外(正中神経領域のしびれ・痛覚低下・夜間増悪の有無) 8 術後のEPL保護計画を確認(背側プレート設置時にEPLを皮下へ移動させる手技の計画)
文献
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