橈骨遠位端の関節面を侵さない関節外骨折 のうち、単純な骨折線を有するものがAO/OTA分類の 2R3A2(橈骨、遠位端セグメント、関節外、単純骨折)に相当する[1] 。背側転位・背側角度変形のある関節外骨折(Collesが1814年に記載した骨折の典型)はこのカテゴリに含まれ、橈骨遠位部骨折は上肢で最も多い骨折 である[1] 。転位量・骨粗鬆症の程度・患者の機能要求に応じて保存療法から掌側ロッキングプレートORIFまで治療法を選択する。若年者では解剖と機能の相関が強い一方、65歳以上では解剖学的再建を達成しても可動域や日常生活動作の改善にはつながらなかった[3] 。
重症度・疫学
頻度: 橈骨遠位部骨折は上肢のなかで最も多い骨折であり、救急部で治療される全骨折の1/6以上を占める。小児では全骨折の25%、高齢者では全骨折の18%を占める[1]
好発: 小児(全骨折の25%)と高齢者(全骨折の18%)に多い[1] 。Arora らの65歳以上を対象とした試験では、受傷機転は全例が立位の高さからの転倒であった[3]
受傷機転: DRFの大部分は過伸展力が原因。低エネルギーの転倒では背屈力によって背側へ転位した関節外または関節内骨折が生じ、高エネルギーの軸圧外傷では圧迫力が強く関節面骨片の嵌入を生じる[1]
関連ガイドライン: AAOS臨床実践ガイドラインでは、整復後の橈骨短縮 >3mm・背側傾斜 >10°・関節内転位またはstep-off >2mm の骨折に対し、ギプス固定より手術固定を提案している(推奨度 moderate)[2]
注意すべき合併症
正中神経障害・急性手根管症候群(受傷直後に発症しうる。不適切なギプス固定や骨片の転位によって亜急性に発症する)[1]
亜急性の手根管症候群(不適切なギプス固定や骨片の転位による)[1]
尺骨茎状突起先端骨折の合併(DRFの50%でみられる。転位すると、この骨折の有無にかかわらずDRUJを支持する軟部組織の多くも断裂する)[1]
遠位橈尺関節(DRUJ)不安定性(DRUJ不安定性のある患者は転帰が不良)[2]
関節内・外の変形癒合(不安定な多骨片DRFや晩期の骨片嵌入に対する治療が不十分な場合。骨粗鬆症の骨折患者で多いが許容されやすい)[1]
背側スクリュー貫通による腱滑膜炎・伸筋腱断裂、および掌側プレートを遠位に配置しすぎ方形回内筋で被覆しなかったことによる屈筋腱滑膜炎・腱断裂[1]
複合性局所疼痛症候群(CRPS type I:Arora らの無作為化試験では手術群36例中2例・保存群37例中5例に発症し、いずれも理学療法と経口鎮痛で軽快した)[3]
遷延癒合(保存療法では6週時点の骨癒合が84%と手術群97%より遅い傾向があったが有意差はなく、全骨折が6か月以内に癒合した。偽関節の報告はない)[3]
腱滑膜炎(Arora らの試験では、背側皮質を貫通したスクリューによる伸筋腱滑膜炎5例、watershed lineより遠位のプレート位置により増悪した屈筋腱滑膜炎4例)[3]
治療方針
⚠️ 保存療法の適応条件
→ 転位なし・最小限の転位(背側傾斜 ≦10°・橈骨短縮 ≦3mm・関節内step-off ≦2mm)[2] [3] → 徒手整復後に安定した整復位が得られ、保持可能な場合(安定型)。高齢者の背側転位・背側角度変形のある関節外骨折のほとんどは保存加療で十分に治療できる[1] → 日常生活で機能要求が低く、変形癒合が許容されやすい高齢患者(ただしArora らの無作為化試験ではこの層は除外されており、直接の比較データは無い)[3] → ギプス固定5週(中間位の短腕ギプス。転位例では取り外し可能なスプリントより硬性固定が推奨される)[2] [3] → 背側屈曲骨折の粉砕が重度で徒手整復のみでは不安定性が残存する場合、整復維持にK-ワイヤは不十分であり創外固定器で補強する[1]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 掌側ロッキングプレートORIF(volar locking plate):不安定型・転位型に広く用いられる。ただし特定の術式を他より推奨する十分なエビデンスは無く[2] 、高齢者では保存療法との優劣について結論が分かれる[1] [4] ℹ 手術適応:ニーズの高い患者における整復後の転位を伴う背屈骨折(橈骨短縮 >3mm、背側傾斜 >10°、関節転位 >2mm)[1] [2] ℹ 経皮的K-wire固定:若年患者の不安定な背側転位骨折で掌側ロッキングプレートと比較した無作為化試験では両方法とも有効であった。術後3・6か月ではプレート固定の方が自動可動域・握力・機能成績の改善が良好だが、12か月では有意差が消失する[1] ℹ 創外固定:汚染した重篤な開放骨折・高エネルギー外傷の一時的固定・多発外傷・術中のディストラクタ・プレートやワイヤでは安定した固定が得られない場合の中和のための追加装置[1] ℹ 尺骨茎状突起骨折:基部骨折やTFCC完全裂傷は不安定損傷と考えられてきたが、橈骨遠位部の安定した解剖学的固定が得られれば合併するDRUJ損傷のほとんどは追加の外科的治療を要しない[1]
治療選択アルゴリズム — 23-A1橈骨遠位端関節外単純型・安定性評価に基づく治療フロー
診断・評価
手関節の疼痛・腫脹・変形。手関節骨折すべてにおいて、開放創(通常掌側・尺側)と正中・尺骨神経損傷の検索を行わなければならない [1] 。正中神経領域の感覚異常は急性手根管症候群を示唆し、徒手整復や観血的整復の前後に慎重に評価する。高エネルギー外傷ではコンパートメント症候群を生じる可能性もある[1] 。
X線正面像(PA像): radial height(橈骨茎状突起先端と月状骨窩尺側縁の距離、平均12mm)・radial inclination(平均23°)・ulnar variance(人口の60%でゼロ変異)を評価する[1] 。関節面の不整がないことを確認(関節外を確認)。
X線側面像: palmar inclination(掌側傾斜角、平均12°。図では11〜12°)の評価。背側へ転位した骨折では背側傾斜となる。あわせて teardrop angle(平均70°、X線を10°傾けて計測)も評価しうる[1] 。
CT: 単純X線で橈骨尺骨切痕・月状骨窩・舟状骨窩の関節面の適合性や転位が説明できないときに行う。三次元再構成CTは骨折骨片の位置・サイズ・骨幹端部への及び方について正確な情報を提供する[1] 。単純23-A1では必須ではない。
術前X線PA像 — 橈骨遠位端背側転位・橈骨短縮・橈側傾斜消失の評価
術前X線側面像 — 掌側傾斜角の背側傾斜への転換・背側皮質粉砕・フォーク変形の評価
✅ 許容される整復
✓ 背側傾斜 ≦10°[2] ✓ radial inclination(正常は平均23°)[1] ✓ 橈骨短縮 ≦3mm[1] [2] [3] ✓ radial height(正常は平均12mm)[1]
❌ 許容されない変形
✕ 背側傾斜 >10°(整復後の転位を伴う背屈骨折での手術適応の1つ)[1] ✕ 橈骨短縮 >3mm(整復後に残存する場合は手術的固定が提案される。X線上の不安定性所見としては短縮>5mm)[1] [2] ✕ 著しい骨幹端部の粉砕・手根骨アライメント不良(X線像上の不安定性を示唆する所見)[1] ✕ 関節面転位 >2mm(23-A1では本来なし、確認必須)[1] [2]
手術手技
体位
仰臥位: 患側上肢を手台の上に展開する。止血帯を巻き、大きなドレープを全身にかけ、ドレープの端を患肢に巻き付けて上肢を隔離する。透視装置は手台下に配置し、X線管を除いてドレーピングする。執刀医は患者の体側に座り、手台を挟んで反対側に助手が座る[1] 。
体位・アームボード設定 — 仰臥位・上肢展開・空気駆血帯・Cアーム設定(PA/側面)
掌側ロッキングプレートORIF
掌側アプローチ解剖図 — 修正Henry法による橈骨掌側面展開・方形回内筋剥離・橈骨遠位端露出
掌側アプローチ(Step 1): 橈側手根屈筋腱(FCR)に沿って縦皮切をおく。FCR腱鞘を開き腱を尺側へ引き、正中神経を圧迫しないよう細心の注意を払う。深層の長母指屈筋を遊離し尺側へよけると方形回内筋がある。方形回内筋を近位の橈骨付着部より挙上し、遠位に向かい逆L字型に展開する(Lの横棒は方形回内筋とwatershed lineの線維性移行部に置く)[1]
骨折の整復(Step 2): 背側転位した屈曲骨折では、ロッキングプレートを橈骨遠位端の掌側にあて、プレート自体を整復のツールとして利用できる。プレートの縦軸を橈骨骨幹部にあてると、LHSのオフセット角度により自動的にpalmar inclinationが正常化するようデザインされている[1]
プレートの設置(Step 3): 解剖学的掌側ロッキングプレートを橈骨遠位端の掌側面に設置する。プレートをwatershed lineより遠位に配置しすぎると屈筋腱滑膜炎・腱断裂の原因となる [1] [3]
遠位固定(Step 4): プレート固定は橈骨の尺側から始める。透視下で橈骨の尺骨縁のスクリュー位置を確認し、橈骨手根部・遠位橈尺関節(DRUJ)・背側皮質を貫通しないように心がける。ロッキングヘッドスクリューはX線で確認しながら軟骨下骨に挿入する[1]
近位固定(Step 5): 掌側ロッキングプレートを橈骨掌側皮質に置き、まず長孔(gliding hole)で固定して、透視下での軟骨下スクリュー設置に適した位置に調整する。その後に近位スクリューを追加固定する[3]
最終透視確認(Step 6): 正面像・側面像に加え、傾斜させたX線ビーム(背側プレート固定において20°傾斜像)で遠位スクリューが関節内を貫通しないことを確認する[1]
術中透視(PA / 側面 / 20°傾斜像) — 遠位スクリュー関節面貫通なし・掌側傾斜回復・橈骨高径確認
⚠️ 掌側プレートORIFのピットフォール
✕ 掌側プレートを遠位に配置しすぎ、方形回内筋で被覆しなかった場合に屈筋腱の滑膜炎・腱断裂が起こる[1] [3] ✕ スクリューが背側皮質を貫通すると伸筋腱滑膜炎・伸筋腱断裂を生じる(ロッキングスクリューが第3伸筋区画を貫通しEPLが断裂した報告がある)[1] [3] ✕ 遠位インプラントの位置決め・不適切な進入法・不適切な透視操作(傾斜した側面像)ではスクリューが関節内へ貫通することがある。20°に傾斜したX線ビームで貫通がないことを確認する[1] ✕ DRUJ不安定性の評価:尺骨頭を橈骨尺骨切痕に押し付けるように圧迫しながら前腕を他動的にフルに回内外させ、「カクッ」という感触があればDRUJ不安定性を考える[1] ✕ 安定性のある橈骨遠位部の解剖学的固定が得られれば、合併するDRUJ損傷のほとんどは追加の外科的治療を必要としない。橈骨尺骨切痕の骨片整復と橈骨骨幹部の尺方転位の修正に注意する[1] ✕ 方形回内筋(PQ)は、インプラント上の軟部組織の刺激症状を予防するため、できる限り縫着する努力をする(可能なら屈筋腱を保護するために再縫着する)[1] [3]
経皮的K-wire固定 — 若年患者の不安定な背側転位骨折での選択肢
経皮的K-wire固定 — 橈骨茎状突起ピン(2本)+ 背尺側ピン(1本)の3本ピン配置
適応: 若年患者の不安定な背側転位骨折。経皮的K-wire固定と掌側ロッキングプレート固定を比較した前向き無作為化試験では両方法が有効とされる[1]
整復: 縦方向の牽引を加えて骨折を整復する。過度の牽引は避ける(X線で橈骨遠位部関節面と手根部近位の間の空間が拡大することで分かる)[1]
ピン刺入時の軟部組織保護: 経皮的なピン刺入(創外固定器のSchanzピン)では、橈骨神経浅枝と伸筋腱を保護するため大きめの皮切をおくことが推奨される[1]
追加ピン: K-wireを2本にするか3本にするかについてはエビデンスが不足しており推奨は定まっていない[2]
固定: 外固定を併用する。創外固定器を根治治療に用いる場合は、骨癒合が十分に強固となり再転位が起こりにくい時期まで継続し、通常は装着後6週間である[1]
術後管理
術後X線PA像・側面像 — 掌側ロッキングプレート固定後の整復位・スクリュー配置・掌側傾斜回復を確認
手術タイミング: 掌側ロッキングプレート固定は受傷後14日以内に行われる[3] [4] 。手術適応のDRFでは、手術までは徒手整復+ギプス(副子)固定が推奨される。骨折整復後に正中神経の機能障害が持続する場合の除圧術に関するエビデンスは結論が出ていない[1] [2]
術後の運動: DRFの術後は手や上肢全体を運動させることが重要で、前腕の回内外運動も必須。軽い日常生活動作をとおして手指・手関節・肘・肩を運動させる。腫脹を軽減させるために術後数日は外固定する[1] 。なお安定した骨折固定後に早期の手関節運動をルーチンに開始する必要はない[2]
VTE予防: 上肢単独の骨折では、患者ごとの血栓症リスクに応じて判断する
疼痛管理: 不釣り合いな疼痛(CRPS)の予防にビタミンCの補助投与が提案される(推奨度:中等度。ただしCRPSを確定診断する客観的方法がないという限界がある)[2] 。超音波および/または冷却も補助療法の選択肢[2]
リハビリテーション: 術後すぐに手指の自動運動を開始する。術後10日で抜糸し取り外し可能なスプリントをさらに1週間装着、その時点でスプリントを外しての手関節の自動・他動運動による理学療法を開始する[3] 。指の自動運動は診断後から行うことが推奨される[2]
フォローアップ
術後10日: 抜糸し、さらに1週間取り外し可能なスプリントを装着する。その後スプリントを外した状態での自動・他動的手関節可動域訓練を開始する[3]
術後6週: X線(整復位維持・骨癒合の評価)。この時期に手術群の97%、保存群の84%でX線上の骨癒合が確認された[3]
術後12週: X線で骨癒合を評価(12週で手術群は全例、保存群は95%が癒合。全骨折が6か月以内に癒合)[3]
術後6ヶ月: X線(全骨折が6か月以内に癒合。変形性関節症の評価。ただしX線上の関節症所見があっても症状を伴わない例が多い)[3]
インプラント抜去: 屈筋腱滑膜炎・伸筋腱障害・手根管症候群に対して行われる。Arora らの試験では手術群36例中11例(31%)が二次手術を受けた[3] 。Saving らの試験でも屈筋腱滑膜炎による抜去2例、手根管症候群による抜去2例が報告されている[4]
予後
骨癒合:掌側ロッキングプレート群では6週で97%、12週で全例が癒合した(保存群は6週84%・12週95%、全例6か月以内に癒合)[3]
手関節可動域(術後12か月・Arora らの掌側ロッキングプレート群の平均):背屈59°・掌屈55°・回外85°・回内84°(いずれも健側比91〜100%)[3]
握力(12か月・健側比):Arora らでは手術群102.4%・保存群92.6%[3] 、Saving らでは掌側ロッキングプレート群96.8%・保存群80.0%(p=0.001)[4]
合併症(Arora らの試験):手術群36例中13例(36%)・保存群37例中5例(14%)に合併症。手術群では伸筋腱滑膜炎5例、屈筋腱滑膜炎4例、EPL断裂1例、手根管症候群1例、CRPS type I 2例(保存群5例)[3]
高齢者では、解剖学的な再建を達成しても自動可動域や日常生活動作の改善にはつながらなかった。65歳以上の背側転位骨折では保存療法と掌側ロッキングプレートで12か月後の可動域・疼痛・PRWE/DASHに差がなく(握力は全期間で手術群が良好)、合併症率は手術群で有意に高かった[1] [3]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO/OTA分類コードを確認(橈骨遠位端セグメント・関節外・単純骨折。関節面転位がないことをX線・必要に応じCTで確認)[1] 2 許容整復位の評価(背側傾斜 ≦10°・橈骨短縮 ≦3mm・関節内step-off ≦2mm)[2] [3] 3 正中神経・尺骨神経損傷の検索(急性手根管症候群は受傷直後に発症しうる。徒手整復や観血的整復の前後には慎重に評価する)[1] 4 DRUJ安定性評価(尺骨頭を橈骨尺骨切痕に押し付けるように圧迫しながら前腕を他動的にフルに回内外させ、"カクッ"という感触の有無をみる)[1] 5 掌側プレート位置確認(watershed lineより遠位に置かない・20°に傾斜したX線ビームで遠位スクリューの関節内貫通がないことを確認)[1] [3] 6 術後X線の確認(掌側ロッキングプレート群の12か月時の実測値は palmar tilt 3°・radial inclination 21°・ulnar variance 0.7mm)[3] 7 ビタミンC投与(不釣り合いな疼痛の予防)の処方確認[2] 8 手指自動運動の早期開始・作業療法士への紹介の確認[2] [3] [4]
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Lichtman DM, Bindra RR, Boyer MI, et al.(2010)Treatment of distal radius fractures. J Am Acad Orthop Surg, 18(3):180–9. PMID: 20190108
Arora R, Lutz M, Deml C, et al.(2011)A prospective randomized trial comparing nonoperative treatment with volar locking plate fixation for displaced and unstable distal radial fractures in patients sixty-five years of age and older. J Bone Joint Surg Am, 93(23):2146–53. PMID: 22159849
Saving J, Severin Wahlgren S, Olsson K, et al.(2019)Nonoperative treatment compared with volar locking plate fixation for dorsally displaced distal radial fractures in the elderly. J Bone Joint Surg Am, 101(11):961–9. PMID: 31169572