上腕骨遠位部の前頭面(冠状面) に沿って関節軟骨付き骨片が剥離する骨折。AO分類13-B3に相当し[2] 、Dubberley分類ではType I(小頭単独、外側滑車稜を含む場合あり) ・Type II(小頭+滑車が一体骨片) ・Type III(小頭と滑車が別骨片) に分類され、それぞれ後方顆部粉砕なし(A)・あり(B)のサブタイプを有する[2] 。深部の進入路は、骨折の複雑さや整復の得やすさに応じて、画像(単純X線・断層撮影・CT)による術前判断または術中判断で選択する[2] 。治療は転位のある関節内骨折で手術(ORIF)が適応となり[1] 、固定は関節面側から後方柱へ刺入し頭部を関節面下に埋没させる方法[1] [2] と、後外側柱から骨片へ刺入する方法[2] [3] のいずれも報告されている。孤立性小頭骨折の系統的レビューでは、徒手整復+固定と手術で可動域・疼痛・不安定性に有意差はなく、手術を決める前に徒手整復を試みることが支持されている[4] 。無血管壊死は後方の広範な剥離で発生率が高まり、治療遅延例では可動域の喪失や残存疼痛が大きいと報告されている[4] 。
重症度・疫学
頻度: 孤立性の上腕骨小頭骨折は全肘関節骨折の約1%を占める稀な外傷[4]
好発: 成人(文献2では平均43±13歳・20〜71歳、文献4の手術例では平均31歳)、女性に多い (文献2では28例中24例が女性)[2] [4]
受傷機転: 手をついた転倒、または肘を直接ついた転倒。橈骨頭を介して小頭に軸圧が伝わることで生じる[2] [4]
特徴: 骨片は関節軟骨と少量ないし無しの軟骨下骨のみからなることがあり(Bryan-Morrey type II)[4] 、深部の進入路は骨折の複雑さや整復の得やすさに応じて、画像(単純X線・断層撮影・CT)による術前判断または術中判断で選択される[2]
注意すべき合併症
骨片の無血管壊死(avascular necrosis):小頭は軟部組織の付着が乏しく血行に限りがあり、後方の広範な剥離で発生率が高まる[4] 。文献2では骨壊死はType 3A 1例・Type 3B 2例に認められた[2]
外傷後変形性肘関節症:関節面の解剖学的整復が得られない場合に生じやすい(観血的・徒手的いずれの方法でも)[4]
肘関節拘縮:屈曲拘縮(伸展制限)が残りやすく(文献2では患側の伸展が平均19°、健側3°)[2] 、固定期間の長期化が拘縮・可動域喪失に与する。拘縮は関節包拘縮、関節線維症、インプラント突出、関節内外の変形と関係する[1] [4]
橈骨頭骨折の合併:28例中3例(約11%)との報告がある[2]
靱帯損傷の合併:外側側副靱帯複合の損傷・外側上顆骨折が28例中11例、内側側副靱帯断裂が2例と報告されている[2]
スクリューの関節面突出:インプラント突出は肘拘縮の要因であり[1] 、文献2では術後X線でスクリューの逸脱1例・関節へのインピンジメントを疑う1例が認められ、肘頭骨切り部のスクリューが橈尺関節に当たった1例は入れ替えを要した[2]
治療方針
⚠️ 保存療法(閉鎖的整復・固定)
→ 閉鎖的整復で解剖学的整復が得られ維持できる症例(文献4の20例では全例で整復が維持され、屈伸平均95.6°・回内外平均99°)[4] → 3週以上の固定は肘のこわばりと可動域喪失に寄与しうる(可動域・疼痛・不安定性は手術例と統計的有意差なし)[4] → 転位のある関節内骨折は手術適応[1] 。骨片の粉砕や小ささで解剖学的整復が困難なら、固定例と成績差のない切除も選択肢となる[4]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ ORIF の固定材:ヘッドレススクリュー、countersunk head のスクリュー、細いねじ切りK-ワイヤ、吸収ピンなど。後外側柱からの刺入、関節面側からの埋没刺入のいずれも報告される[1] [2] [3] 。どの固定法が優れた成績をもたらすかを決める根拠は現時点で不十分である[4] ℹ スクリュー刺入方向:後外側柱から骨片へ向けて刺入する方法[2] [3] と、関節面側から後方柱へ向けて刺入し頭部を関節面下に埋没(countersunk)させる方法がある[1] [2] 。スクリュー頭が関節面に出てはならない[1] ℹ スクリュー種類:Herbert スクリュー、キャニュレイテッドスクリュー、可変ピッチのヘッドレススクリュー、細いねじ切りK-ワイヤ、吸収ピンなど[1] [2] ℹ アプローチ:Type I は外側の筋間進入(Kaplan 間隙で整復し、Kocher 進入で後方柱を展開)— 小頭型(Type I)の標準[2] ℹ アプローチ:滑車を含む骨片で外側から内側の整復が確認できない場合は、まず屈筋回内筋分割を行い、それでも整復が確認できなければ肘頭骨切り術または外側側副靱帯の切離を追加する[2] ℹ 骨片の粉砕や小ささで解剖学的整復が困難な場合:骨片切除(fragment excision)も選択肢となる(固定例と臨床成績に差なし)[4] ℹ 後方粉砕を認める型(Dubberley type B、型を問わず):骨移植、プレート固定、またはその併用で対応する[2]
治療選択アルゴリズム(13-B3 前頭面骨折)— X線側面像・CT確認→転位量評価→ORIF(A→P方向スクリュー)vs 骨片切除
診断・評価
肘関節の疼痛・腫脹と可動域制限を呈する。受傷後の身体所見では、肘関節を横切る3本の主要神経すべてを評価に含める[1] 。単純X線は正面像・側面像・斜位像を撮り、必要に応じて牽引下X線やCTを術前計画に用いる[1] 。画像(単純X線・断層撮影・CT)は骨折の複雑さに応じて追加する —後方顆部粉砕の有無(Dubberley分類のA/B)の評価と深部進入路の選択に用いる[2] 。
X線側面像(小頭骨片が肘関節前方に転位・弦月形)+CT冠状断(前頭面骨折の評価)— 13-B3の診断
Dubberley分類図 — Type I(小頭単独)/ Type II(小頭+滑車、一体型)/ Type III(小頭+滑車が分離・複数骨片型)× A(後方皮質粉砕なし)/ B(後方皮質粉砕あり)
✅ 許容される整復
✓ 関節面の解剖学的整復と適合性が得られていること[1] [4] ✓ スクリューが完全にcountersunk(関節面より陥没)[1] ✓ 回内外を含めて全可動域運動を行い、スクリューやワイヤのインピンジメント、骨片間の不安定性がないことを術中に触診で確認する[1]
❌ 許容されない変形・操作
✕ 関節面の整復不良(関節症の発生は骨片の解剖学的整復が得られているかに依存する)[4] ✕ スクリューの関節面突出(関節へのインピンジメント。文献2では術後X線でスクリューの逸脱1例、関節へのインピンジメントを疑う1例)[2] ✕ 単純X線1方向のみでの評価(骨折の複雑さに応じて側面像・CTなどを追加する)[1] [2] ✕ 治療の遅延(可動域損失・残存疼痛の増大。骨片切除例では、受傷当日治療群の腕尺関節可動域141°に対し、平均5.7か月後治療群は91°、遅延群は全例に残存疼痛があった)[4] ✕ スクリュー頭を関節面に突出させたままの固定(countersunk 不足によるインピンジメント)[1]
手術手技
体位
仰臥位(患肢を手台にのせる): B3骨折では外側まで展開するため、仰臥位で腕を手台にのせる形が最も適している。手技に難渋する場合は上肢を体幹上におき、肘頭骨切り術を施行する[1] 。ほとんどの症例で滅菌した止血帯を上腕近位部に装着するが、使用するのは出血で視野が確保できない場合に限り、展開が十分であれば止血帯をゆるめて整復・固定を行う[1] 。
手術体位(仰臥位)— 患側肘関節90°屈曲、外側アプローチのセットアップ、ターニケット装着位置
ORIF(ヘッドレススクリュー等による内固定)
前頭面骨片を解剖位に整復し、後外側柱から骨片へ、または関節面側から後方柱へ向けてスクリューを刺入する。関節面側から刺入する場合はスクリュー頭を関節面下に埋没(countersunk)させる[1] [2] 。
Kocher アプローチ — 外側尺側側副靱帯(LUCL)を温存した関節展開と小頭骨片の直視
アプローチ: Kocher アプローチ(尺側手根伸筋と肘筋の間)で後方柱を展開する。整復は Kaplan 間隙(総指伸筋と長・短橈側手根伸筋の間)から行うこともできる[2]
骨折の展開・整復: 伸展・回外・内反力を加え、骨片を遠位に滑らせて橈骨頭で受けたところで屈曲し整復する[2]
骨片整復: 骨片を解剖位に整復し、先端鋭の整復鉗子またはK-ワイヤで整復位を保持する[1]
K-wire 仮固定: K-ワイヤで整復位を仮保持する。仮固定のワイヤはインプラントの邪魔にならないように慎重に挿入する[1] [2]
ガイドピン挿入: キャニュレイテッドスクリューのガイドワイヤを、ドリリングに先立って骨片の最も厚い部分へ仮挿入する[2]
スクリュー刺入: キャニュレイテッドスクリュー、variable pitch のヘッドレススクリュー、ねじ切りK-ワイヤなどを用い、骨片内を可能な限り長く通す。関節面側から刺入する場合は関節面下に埋没(countersunk)させる[1] [2]
スクリューの本数: 後外側柱から骨片へ3〜4本のスクリューを刺入すると安定した固定が得られる[2] 。文献3では少なくとも2本の標準Herbertスクリューが用いられた[3]
最終確認: 透視で位置を確認し、回内外を含む全可動域運動と触診でスクリューやワイヤのインピンジメント、骨片間の不安定性がないことを確認する[1]
ORIF 手技 — ヘッドレス圧迫スクリューを前方→後方(A→P)方向に2本刺入(countersunk)、透視側面像での確認
⚠️ ORIF ピットフォール
✕ スクリュー頭の関節面突出(関節へのインピンジメント)。文献2では術後X線でスクリューの逸脱1例、関節へのインピンジメントを疑う1例を認めた[2] ✕ 関節面側から刺入したスクリュー頭の埋没不足(関節面に残存 → インピンジメント)[1] ✕ 後方の広範な剥離(小頭の血行遮断 → 無血管壊死リスク上昇)[4] ✕ 固定本数の不足(文献3は少なくとも2本の標準Herbertスクリューを用い[3] 、文献2はType I で後外側柱から3〜4本のスクリューが安定した固定をもたらすとしている[2] ) ✕ 術中にインピンジメントを確認しない(回内外を含む全可動域運動と触診で、スクリューやワイヤのインピンジメントと骨片間の不安定性を確認する)[1] ✕ 後方粉砕(type B)の見落とし(骨移植、プレート固定、またはその併用を要する。重度の後方粉砕では固定角度プレートが前方剪断骨片の位置保持に有用)[2]
骨片切除(Fragment Excision)— 代替術式
骨片の粉砕や小ささのために解剖学的整復が達成できず固定が現実的でない場合に選択する[4] 。骨片を摘出する。切除例(23例)の術後可動域は腕尺関節平均118°(健側比26°減)、回内・回外は各83°で、固定例と臨床成績に差はない[4] 。切除は安全とみなされる一方、拘縮形成と関節不安定性が観察されており、露出した海綿骨が軟部組織と接することで関節内癒着を生じうる[4] 。
術後管理
術後X線像(側面)— 上腕骨小頭にA→P方向ヘッドレス圧迫スクリュー2本(countersunk)、骨片整復位
手術タイミング: 緊急手術が必要なのは開放骨折か虚血性の血管損傷の場合のみで、ほとんどは閉鎖骨折であり迅速なタイミングで行う[1] 。文献では受傷後2週以内にORIFが行われている報告があり[2] 、著しい遅延は可動域損失・残存疼痛と関連する[4]
術後の運動開始: 術後1〜2日目からセラピストの監督下に早期自動介助可動域訓練を開始し、訓練の合間は日中に肘90°屈曲位の安静用副子を6週間装着する(夜間は屈曲拘縮を防ぐ伸展副子)[1] [2]
薬物療法: 文献2では28例中18例に、腫脹の抑制と異所性骨化の抑制を目的にインドメタシン(25mg 1日3回)が術後3〜6週間投与された。NSAIDsアレルギー・消化性潰瘍・65歳超の患者には使用されなかった[2]
疼痛管理: 標準的な周術期鎮痛を行う。
リハビリテーション: 術後1〜2日目からセラピストの監督下に肘の自動介助可動域訓練を開始する。他動的マニピュレーションは禁止し、他動ストレッチと筋力強化は術後6週から行う[1] [2] 。抵抗運動は術後少なくとも6週が経過し骨癒合が明らかに進んでから開始する[1]
フォローアップ
術後早期の外来:可動域訓練の経過を確認(訓練は術後1〜2日目からセラピストの監督下に開始している)[2]
術後6週:X線で骨癒合を確認(文献3のType I 11例では癒合までの期間4〜8週、多くは6週)[3] 。抵抗運動は骨癒合が明らかに進んでいる場合にのみ許可し[1] 、他動ストレッチと筋力強化は術後6週から行う[2]
骨壊死・異所性骨化・外傷後関節症の評価:肘の正面・側面単純X線像で行い、必要に応じて健側と比較する[2]
関節症変化・肘ROM の評価(可動域の改善は少なくとも1年間はみられる)[1]
予後:文献2(28例)ではMayo Elbow Performance Index 平均91±11、可動域は平均19°〜138°で全体として良好であった。粉砕した2例が癒合せず人工肘関節置換術を要し、Type 1骨折(11例)は全例合併症なく癒合した。MEPIはType 1がType 2・3より有意に良好で、提案分類(Type 1〜3と後方粉砕の有無)は成績をある程度予測する[2] 。骨片切除例の可動域は上腕尺骨関節で平均118°と概ね良好[4]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(13-B3 = 上腕骨遠位端セグメント・部分関節内・前頭面)[2] 2 単純X線は正面・側面・斜位像を撮り、前頭面の剪断骨片を確認——見落とし注意[1] 3 画像(単純X線・断層撮影・CT等)で後方顆部粉砕の有無(Dubberley 分類のA/B)と骨折型を評価し、深部進入路を計画する[2] 4 スクリュー方向の計画(後外側柱から骨片へ刺入する方法[2] [3] 、関節面側から後方柱へ刺入し頭部を埋没させる方法[1] [2] のいずれかを選ぶ。関節面にスクリュー頭を突出させないこと) 5 関節面整復目標(解剖学的整復)[1] [4] 6 スクリューが関節軟骨を貫通していないことを確認する[4] 7 術中に回内外を含む全可動域運動を行い、スクリューやワイヤのインピンジメント、骨片間の不安定性がないことを確認する[1] 8 橈骨頭骨折・外側側副靱帯複合損傷(外側上顆骨折を含む)・内側側副靱帯損傷の合併を評価[2]
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Dubberley JH, Faber KJ, Macdermid JC, et al.(2006)Outcome after open reduction and internal fixation of capitellar and trochlear fractures. J Bone Joint Surg Am, 88-A:46–54. PMID: 16391249
Mahirogullari M, Kiral A, Solakoglu C, et al.(2006)Treatment of fractures of the humeral capitellum using herbert screws. J Hand Surg Br, 31(3):320–5. PMID: 16616979
Trinh TQ, Harris JD, Kolovich GP, et al.(2012)Operative management of capitellar fractures: a systematic review. J Shoulder Elbow Surg, 21:1613–22. PMID: 22694882