上腕骨骨幹部の楔状骨折(12-B)のうち、楔状骨片が複数に分かれた粉砕楔状(fragmentary wedge)型 の骨折。AO分類12-B3に相当し、楔状骨片が複数に分かれている点で12-B2と区別される[3] 。単純骨折(12-A)より骨折形態が複雑である[1] 。最重要ポイントは橈骨神経(radial nerve)麻痺の合併評価 であり、整復操作の前に必ず橈骨神経を評価して記録する[1] 。上腕骨骨幹部骨折では機能的装具療法が最も広く受け入れられている治療方法であり[1] 、手術を選ぶ場合は大半の適応でプレート固定が第一の選択肢とされる(分節骨折・病的骨折・高度肥満・高度の骨量減少例では髄内釘が好まれる)[3] 。
重症度・疫学
年間発生件数: 上腕骨骨幹部骨折は全骨折の約1%を占める[1] 。発生率は約13/100,000/年との報告がある[4]
好発: 20〜30歳の男性と60〜70歳の女性にピークをもつ二峰性分布[4]
受傷機転: 典型的には直達外力で生じるが、野球や腕相撲のように回旋負荷の大きなスポーツでも起こる[1]
注意すべき合併症
橈骨神経麻痺:骨幹部骨折全体で約11.8%(21論文・4,517骨折)。骨幹部中央〜中遠位部の骨折で多く、横骨折・螺旋骨折は斜骨折・粉砕骨折より合併しやすい[2] 。整復操作の前に必ず橈骨神経と後骨間神経を評価する(手関節伸展・母指伸展など)[1]
偽関節・遷延癒合:偽関節率は報告により0〜23%と幅がある[4] 。保存治療例では骨片間間隙が骨癒合までの時間を延ばすリスク因子とされる[1]
DVT/PE:術後に臥床が長引く場合は一般的な予防を行う
コンパートメント症候群:上腕骨骨幹部骨折後はまれ[3] 。高エネルギー外傷では上腕部の腫脹・硬結に注意
感染:上腕骨骨折後の感染はまれで、開放骨折でも1〜2%[3] 。創外固定は広範囲の軟部組織損傷・重度汚染例などの初期治療に限って用いる[1]
肩・肘関節拘縮:肩・肘を含めるシーネ・ギプス固定では治療後に関節拘縮が残りやすい[4]
治療方針
上腕骨骨幹部骨折では機能的装具療法が最も広く受け入れられている治療方法であり[1] 、保存治療で整復位の維持が困難な場合は骨接合術の相対的適応となる[1] 。
⚠️ 保存療法の適応条件
→ 変形が機能的に許容される範囲(前方凸変形<20°・内反変形<30°・回旋変形<40°・短縮<3 cm)に収まると見込まれる症例[1] → 高齢・全身状態不良で麻酔リスクが高く手術不能な場合 → 機能的装具(ファンクショナルブレース)を軸にした治療:急性期の疼痛・腫脹が引いたら、通常受傷後1〜2週で装具を装着[4] → 保存療法中は定期的にX線で整復位を確認する → 保存療法で骨癒合が進まない場合(遷延癒合・偽関節)は手術を考慮する[1]
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 手術する場合(中央1/3):プレート固定(MIPO または直視下)— ほとんどの患者に3.5mm LCP(8穴以上)、骨折部の上下それぞれで皮質骨を6〜8か所貫通(通常3〜4穴分)[1] ℹ 近位1/3:プレート固定(三角筋大胸筋間進入法を遠位へ延長した前外側進入法)— 関節周囲に及ぶ場合はPHILOSシステムの骨幹端版などのアナトミカルプレート[1] ℹ 遠位1/3:ORIF プレート固定(後方進入法が最も多く用いられる。前方進入法を遠位へ延長することもできる)— 橈骨神経の同定・保護が重要[1] ℹ 代替:順行性髄内釘(Antegrade nailing)— 骨折線が外科頚から骨幹部と遠位骨幹端の移行部までの間にある骨折に適用できる。病的骨折・分節骨折で特に有用[1] ℹ 代替:逆行性髄内釘(Retrograde nailing)— 可能だが技術的に困難で、医原性の上腕骨遠位端骨折の重大なリスクを伴う[1] ℹ 広範囲の軟部組織損傷・重度汚染例:創外固定で初期治療を行い[1] 、その後に最終固定へ移行する[3] ℹ 橈骨神経麻痺(受傷時から存在する場合):閉鎖骨折では多くが一過性神経伝導障害で、一期的な神経探査の絶対適応ではない。診察と定期的な電気生理学的検査で経過をみる[1] 。一方、続発性橈骨神経損傷は骨接合術の絶対的適応で、開放創に伴う橈骨神経麻痺は外傷性の神経損傷を高率に合併するため展開が必須である[1] 。手術を行う場合、プレート固定では術中に神経を確認できる[3]
治療選択アルゴリズム — 楔状・粉砕型上腕骨骨幹部骨折(12-B3)の部位別術式フローチャート
診断・評価
上腕部の疼痛・腫脹・変形・骨折部の異常可動性を呈する。橈骨神経の評価(手関節背屈・母指・示指伸展)と上腕動脈の拍動確認が必須。
12-B3の診断ポイント
X線は互いに垂直な2方向で、アライメントと回旋を評価できるよう肩と肘の関節を含む全長を撮影する[1] 。あわせて骨折線の形態(楔状骨折片の数・大きさ・骨折部位)を確認する。手術では軟部組織を愛護的に扱う(全周性の骨膜剥離は偽関節の原因となる)[1] 。骨折が肩や肘の関節に及ぶ場合はCTが役立つ[1] 。
X線正面/側面像 — 上腕骨骨幹部楔状骨折(12-B3)、中央1/3の粉砕楔状骨折片
AO分類比較図 — 12-A(単純)vs 12-B2(intact wedge)vs 12-B3(fragmentary wedge)vs 12-C(多骨片)
CT断面+3D再構成 — 粉砕楔状骨折片の範囲と橈骨神経走行域の確認
✅ 許容される整復(保存療法)
✓ 内反変形(冠状面):<30°(内反は整容上受け入れられにくい変形の一つ)[1] ✓ 前後方向角度(前方凸変形):<20°[1] ✓ 回旋:文献により<30°[3] ・<40°[1] とする報告がある ✓ 短縮:<3 cm[1]
❌ 許容されない変形・状態
✕ 許容範囲を超える角度変形(前方凸変形≧20°、内反変形≧30°)[1] ✕ 血管損傷(上腕動脈損傷):緊急手術適応(骨接合術の絶対的適応)[1] ✕ 閉鎖骨折で受傷時から橈骨神経麻痺がある場合、多くは一過性神経伝導障害で一期的な神経探査の絶対適応ではない[1] 。一方、続発性橈骨神経損傷は骨接合術の絶対的適応とされ、開放創に伴う橈骨神経麻痺では展開が必須である[1] 。手術を行う場合はプレート固定とすれば同時に神経を展開・確認できる[3] ✕ 開放骨折:迅速に対応する(骨接合術の絶対的適応)[1] 。抗菌薬投与とデブリードマンを行う
手術手技
体位
体位: 前外側進入法では仰臥位かビーチチェア位とし、理想的にはX線透過性の手術台を用いる[1] 。後方進入法では腹臥位か側臥位とする[1] 。
手術体位 — ビーチチェア体位(前外側アプローチ)と術野セットアップ、透視Cアーム配置
ORIF ブリッジプレート(Bridge Plating)
ブリッジプレートは粉砕骨折片を直接整復せず、軸アライメントと長さを回復させながら安定した橋渡し固定を得る手技。骨膜の血流温存がポイント[1] 。
前外側アプローチ — 橈骨神経の同定と保護、骨折部へのアクセス
アプローチ: 前外側進入法(三角筋大胸筋間進入法の遠位への延長)。遠位1/3では後方進入法が最も多く用いられ、橈骨神経を同定・保護することがこの進入法の鍵となる[1]
整復: 注意深く牽引しながら上腕の長さ・アライメント・回旋を整復する。多骨片骨折では一時的な創外固定器が整復とその維持に役立つ。骨膜の血流を温存するためプレートは骨膜上に設置し、プレート固定やスクリュー挿入のために骨膜を剥離しない[1]
プレート選択: ほとんどの患者では3.5mm LCP(大柄な患者では4.5mm DCP/LCP)を用いる。いずれも8穴以上で、モーメントアームが長くなるようできる限り長いものとする。プレートは後面・前面・内側面・外側面のいずれにもよく適合する[1] 。骨形態に合わせてコンタリングする
近位固定: elongated holeから1本の非ロッキングバイコーティカルスクリューで仮固定し、プレート位置を微調整
遠位固定: 遠位骨片を整復位に誘導し、最初の遠位スクリューを挿入
スクリュー完成: 近位・遠位それぞれ皮質骨を6〜8か所貫通(通常3〜4穴分)するスクリュー。ロッキングヘッドスクリューはバイコーティカルとし、骨質が不良な場合に用いる[1] 。粉砕部にはスクリューを入れない(ブリッジ構造を維持)
最終確認: 透視でAP・側面像のアライメント・長さ・回旋を確認。橈骨神経がプレートと骨の間に挟まれていないことを直視で確認する(必須)[1]
ブリッジプレート固定 — 近位・遠位各3本のロッキングスクリュー、骨折部を跨ぐスクリューなし
⚠️ ブリッジプレート ピットフォール
✕ 骨折片の過剰剥離 → 血流障害・偽関節リスク上昇(粉砕骨片は軟部組織付着を温存) ✕ プレートコンタリング不足 → スクリュー締め込み時の変形力が骨折部に伝播 ✕ 橈骨神経の見落とし → 特に遠位1/3アプローチで後方溝を通る神経を必ず同定 ✕ 粉砕部へのスクリュー挿入 → ブリッジ固定の原則から外れ、骨片の血流を損なう ✕ プレート長さ不足 → 上腕骨は回旋可動域が広いためできる限り長いプレートを使い、骨折部の上下で皮質骨6〜8か所(3〜4穴分)を固定[1]
順行性髄内釘(Antegrade Nailing)— 代替術式
髄内釘は骨折部を展開せずに固定できるが、閉鎖式では術中に橈骨神経を確認できない[1] 。ネイルの径と長さは挿入前に決めておく[1] 。
エントリーポイント: 大結節内側の溝部。ネイル挿入中は骨のすべての部分をX線で確認できるようにしておく[1]
ガイドワイヤー誘導: 骨折部を越えてオリーブ型ガイドワイヤーを遠位まで進める
リーミング(必要に応じて): 挿入時に大きな抵抗がある場合は、エントリーポイントの拡大・リーマによる拡髄・細いネイルへの変更のいずれかを選ぶ[1]
ネイル挿入: ハンマーを使用せず、慎重に小刻みに回転させながら徒手的に進める。骨折部通過は透視で確認[1]
近位ロッキング: ジグ(エイミングデバイス)を使用。腋窩神経を損傷しないよう小切開から骨まで鈍的に剥離し、保護用カニューレを用いる。横止めスクリューは対側皮質から2mm以上突出させない[1]
遠位ロッキング: フリーハンド法[1] 。小切開から鈍的に剥離し、神経血管束を保護してからドリリング
最終確認: 骨折部に隙間(gap)がないことを透視で確認
順行性髄内釘 — エントリーポイント、骨折部通過、遠位ロッキングのフリーハンド法
⚠️ 髄内釘 ピットフォール
✕ エントリーポイントのずれ → 上腕骨頭への偏心挿入で皮質破損・固定力低下 ✕ 骨折部のギャップ → 骨片間間隙は骨癒合までの期間を延ばす因子とされる(保存治療例での報告)[1] ✕ ネイル近位端の突出(挿入が浅い・ネイルの移動)→ 肩峰下インピンジメント[3] ✕ 遠位ロッキング時の神経血管損傷 → 小切開から骨まで鈍的に剥離し、神経血管束を保護してからドリリングする
術後管理
術後X線像(正面/側面)— ブリッジプレート固定後(12-B3)、アライメント・スクリュー位置・骨折部の安定を確認
手術タイミング: 血管損傷を合併する症例以外は緊急手術の適応はほとんどなく、開放骨折は迅速に対応する。それ以外は適時に経験豊富な外科医が行う[1] 。広範囲の軟部組織損傷・重度汚染例では創外固定で初期治療を行い[1] 、その後に最終固定へ移行する[3]
術後荷重: 上腕骨のプレート固定や髄内釘挿入後は、状況が良好であれば制限なしで歩行補助具(杖など)を使用できる[1] 。抵抗運動はX線像で架橋仮骨を確認してから開始する[1]
VTE予防: 上肢骨折単独での予防の要否は、臥床・多発外傷などのリスク因子に応じて判断する
疼痛管理: 神経ブロックを用いる場合は、術後の橈骨神経機能の評価を妨げないよう配慮する
リハビリテーション: 皮膚創が治癒するまでは自動介助運動で肘と肩の可動域を徐々に広げ、その後自動運動へ進める。抵抗運動はX線像で架橋仮骨が確認できてから開始する[1] 。髄内釘固定後は肩・肘の運動を直ちに開始できるが、回旋抵抗運動は避ける[1]
フォローアップ
術後2週: 創部確認・X線撮影(アライメント・スクリュー位置)。橈骨神経麻痺の改善経過を評価
術後6週: X線撮影(仮骨形成の確認)。橈骨神経麻痺は診察と定期的な電気生理学的検査で経過をみる[1]
術後12週: X線撮影(骨癒合の経過確認)。遷延癒合を6か月〜1年で癒合したもの、偽関節を1年で癒合せず再骨接合を要するものとした報告がある[3]
術後6か月: 最終評価。プレート抜去の要否は症状に応じて判断する
橈骨神経麻痺: 診察と定期的な電気生理学的検査で経過を追う。受傷時からの麻痺については、初期は待機的に経過をみても早期に探索した場合と最終成績に差はないとの報告がある[2] 。術中に神経の全長を確認しておらず、術後に神経麻痺がみられた場合は展開して確認する[1]
予後
骨癒合率:プレート固定で1年時平均96%、保存治療で90%超(いずれも骨幹部骨折全体の値で、楔状・粉砕型に限った値ではない)[3]
骨癒合期間:手術例の約70%が6か月以内に癒合[3] 。保存治療例では骨片間間隙が骨癒合までの時間を延ばすリスク因子とされる[1]
橈骨神経麻痺の回復率:全体で88.1%、保存的に経過をみた例の自然回復は70.7%[2]
偽関節:報告により0〜23%と幅がある[4] 。手術例(プレート・髄内釘)で1年時の偽関節8.8%[3]
肩の症状:順行性髄内釘後に肩の症状(インピンジメント)が21.4%(6/28例)にみられた[3]
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(12-B3 = 上腕骨骨幹部・楔状粉砕型) 2 骨折部位を確認(近位1/3・中央1/3・遠位1/3)と術式選択(プレート vs 髄内釘) 3 初診時の橈骨神経機能を記録(手関節背屈・母指伸展・示指伸展の有無) 4 上腕動脈拍動を確認(手首の橈骨動脈・尺骨動脈) 5 術式の決定と橈骨神経の取り扱い方針(プレート術中に同時探索するか否か)を上級医と確認 6 開放骨折の有無(Gustilo分類)と抗菌薬投与タイミングを確認 7 術後の橈骨神経麻痺の回復評価(診察と定期的な電気生理学的検査)の予定を患者に説明 8 プレート抜去の方針(症状に応じて判断)を患者に術前説明
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Shao YC, et al.(2005)Radial nerve palsy associated with fractures of the shaft of the humerus: a systematic review. J Bone Joint Surg Br, 87-B:1647–52. PMID: 16326879
Denies E, et al.(2010)Operative treatment of humeral shaft fractures. Comparison of plating and intramedullary nailing. Acta Orthop Belg, 76:735–42. PMID: 21302570
Clement ND(2015)Management of humeral shaft fractures; non-operative versus operative. Arch Trauma Res, 4:e28013. PMID: 26401493