上腕骨骨幹部に捻転力が加わることで生じる楔状の螺旋骨折線 を特徴とする骨折。AO分類12-B1に相当し、主骨折線が螺旋状に走り中間骨片(楔)を形成するが、楔は比較的インタクトな状態を保つ。骨幹部骨折の中でも橈骨神経損傷(Holstein-Lewis骨折)のリスク が最も高い骨折型の一つであり、受傷直後からの神経評価が必須。治療の第一選択は上腕骨プレート固定(ORIF または MIOブリッジプレート) であるが、骨折部位・患者背景に応じて順行性または逆行性髄内釘も選択される。
重症度・疫学
年間発生件数(日本): 上腕骨骨幹部骨折全体で約15〜20/100,000/年。12-B1(楔状・螺旋型)は全上腕骨骨幹部骨折の約10〜15%
好発: 若年〜中年成人(交通事故・スポーツ外傷・転落)。高齢者では骨粗鬆症性骨折として発生することもある
受傷機転: 捻転力(腕をひねった状態での転倒、スポーツ接触)。中遠位1/3の骨折ではHolstein-Lewis型(捻転+牽引)が典型
注意すべき合併症
橈骨神経麻痺(Holstein-Lewis損傷):骨幹部中遠位1/3骨折に合併しやすく、発生率は約8〜18%。初期麻痺の約70〜90%は神経失調症(neurapraxia)で自然回復が期待できるが、骨折骨片による神経絞扼・断裂例は手術が必要
腋窩神経・筋皮神経損傷:高エネルギー外傷による近位骨折で注意
上腕動脈損傷:まれ(約1〜2%)だが高エネルギー外傷・開放骨折で注意
偽関節・遷延癒合:上腕骨幹部骨折で約5〜10%(保存療法では高率)。中央1/3骨折に多い
術後感染:開放骨折・プレート固定後で約1〜3%
コンパートメント症候群:上腕での発生はまれだが高エネルギー外傷後に注意
肩・肘関節可動域制限:長期固定・癒着により発生
治療方針
上腕骨骨幹部骨折は多くの症例で保存療法も選択肢となるが、B1(楔状骨折)では骨折部の安定性がA型より低く、また橈骨神経損傷・遷延癒合リスクも考慮して手術が選択されることが多い。
⚠️ 保存療法の適応条件
→ 転位の軽微な骨折で許容できるアライメント範囲内(内外反≦20°、前後弯≦20°、短縮≦3cm、回旋≦30°) → 手術リスクが高く活動性の低い患者(重篤な全身疾患・麻酔リスク高) → 患者の強い希望により手術を行わない場合 → 初期はコイル式ギプス(coaptation splint)または U字シーネで固定し、腫脹軽減後にハンギングアームキャスト・ファンクショナルブレースへ移行 → ブレース管理では3・6・12週にX線フォローアップを行い、変位の増大・遷延癒合を確認
🔷 手術適応基準・術式選択
ℹ 許容範囲を超えた骨折転位・アライメント不良(内外反>20°、回旋>30°、短縮>3cm) ℹ 橈骨神経麻痺が合併し、骨片による神経絞扼・断裂が疑われる場合(手術探索・神経剥離) ℹ 開放骨折(Gustilo I〜III型) ℹ 多発外傷・多肢骨折(早期安定化のため手術が優先) ℹ 保存療法中の遷延癒合(3ヶ月以降の骨癒合不全) ℹ 第一選択:ORIF — ラグスクリュー(楔骨片固定)+中和プレート(neutralization plate)。解剖学的整復・絶対的安定性の確保 ℹ 代替選択①:MIOブリッジプレート — 楔骨片を軟部組織温存のまま保存し、相対的安定性で骨癒合を図る ℹ 代替選択②:順行性髄内釘(Antegrade IM Nailing)— 外科頸〜遠位5cm上方の骨折に適応 ℹ 代替選択③:逆行性髄内釘(Retrograde IM Nailing)— 肩病変合併・同側骨折・アプローチ上の問題がある場合 ℹ 代替選択④:創外固定(External Fixator)— 重症軟部組織損傷・多発外傷のダメージコントロール期
治療選択アルゴリズム — 保存療法 vs ORIF vs MIOブリッジプレート vs 髄内釘
診断・評価
上腕部の疼痛・腫脹・変形・上肢機能障害を呈する。受傷直後に橈骨神経の機能評価(母指・示指背側感覚・手関節・母指伸展筋力)を必ず行い記録する 。腋窩神経・筋皮神経・尺骨神経・正中神経も含めた末梢神経評価、末梢動脈(橈骨動脈)触知も確認する。
12-B1の診断ポイント:楔状骨片の同定と橈骨神経評価
X線正面像・側面像で骨折線の方向(螺旋)・楔状中間骨片の有無・部位(近位1/3・中央1/3・遠位1/3)を確認する。中遠位1/3骨折では骨折線が橈骨神経溝(radial groove)付近を通過するHolstein-Lewis型を念頭に置く。CTは骨折形態の詳細評価(楔骨片の大きさ・軟部組織付着・関節内合併)に有用。MRIは橈骨神経絞扼評価に補助的価値がある。
X線正面像 — 上腕骨骨幹部楔状螺旋骨折パターン(12-B1)
X線側面像 — 楔状骨片の形態・骨折部の転位確認
骨折パターン比較 — 12-B1(楔状・螺旋型)vs 12-B2(楔状・屈曲型)vs 12-A1(単純・螺旋型)
【必須】 上腕骨全長正面・側面X線(肩関節・肘関節を含む)
【考慮】 CT:楔状骨片の詳細・関節内合併の除外。MRI:橈骨神経絞扼・軟部組織損傷の評価
✅ 許容される整復
✓ 内外反(冠状面アライメント):≦20° ✓ 前後弯(矢状面アライメント):≦20° ✓ 回旋:≦30° ✓ 短縮:≦3cm ✓ (ORIFラグスクリュー法の場合)楔骨片の解剖学的整復・皮質骨接触の確認
❌ 許容されない変形・状態
✕ 内外反 >20°(外見上の変形・機能障害) ✕ 回旋 >30°(肩・肘機能の障害) ✕ 橈骨神経麻痺の見落とし(術前評価を記録しないまま手術へ進まない) ✕ 開放骨折を閉鎖骨折と誤認(デブリードメント・創処置の遅れ) ✕ 血管損傷の見落とし(橈骨動脈拍動・血色の確認を省略しない)
手術手技
体位
手術体位 — ビーチチェア位(前外側アプローチ)または仰臥位(後外側アプローチ)
前外側アプローチ(近位〜中央1/3): ビーチチェア位(体幹を45〜60°起こした半座位)または仰臥位。患肢は腕掛けに置くかフリーにして操作できる状態にする。Cアーム透視をAP像・側面像の両方向から確認できることを事前に確認する。
後外側(後方)アプローチ(中央〜遠位1/3): 側臥位または仰臥位(患肢を胸前に置く)。橈骨神経の同定・保護が必要。
ORIF ラグスクリュー+中和プレート — 第一選択(楔骨片インタクト例)
外側アプローチ — 橈骨神経の走行と安全な剥離(後外側アプローチ)
皮膚切開・アプローチ: 骨折部位に応じて前外側(近位〜中央)または後外側(中央〜遠位)アプローチを選択。後外側アプローチでは橈骨神経を骨折部から遠位まで追跡し、保護ループ(vessel loop)を設置する
骨折の展開・整復: 楔状骨片(中間骨片)を温存しながら血腫・介在軟部組織を除去。主骨折線を還元し楔骨片を解剖学的位置に整復する。骨鉗子・仮K線で整復位を保持する
ラグスクリュー固定: 楔状骨片を主骨折線から圧迫するようにラグスクリュー(通常3.5mm皮質骨スクリュー)を骨折面に垂直に挿入。最低2本のラグスクリューで骨片を固定(絶対的安定性)
中和プレート設置: ラグスクリューの外側(通常前外側または後外側)に幅広DCP(dynamic compression plate)またはLCPを骨長軸に沿って設置。骨折部を跨いで各骨片に最低3本(推奨3〜4本)の皮質骨スクリューまたはロッキングスクリューを挿入
橈骨神経の確認: プレートを設置する前後に橈骨神経の連続性・保護ループの位置を再確認する。スクリューが橈骨神経溝付近を通過しないか透視で確認
最終透視確認: AP像・側面像でアライメント・楔骨片整復状態・スクリュー位置を確認
ラグスクリュー+中和プレート配置図(正面 / 側面)
⚠️ ORIF ピットフォール
✕ 橈骨神経損傷 — 後外側アプローチでは橈骨神経を同定・保護しないままの展開は禁忌 ✕ 楔骨片の血流損傷 — 骨片への軟部組織付着を過度に剥離しないこと(骨片壊死・偽関節の原因) ✕ ラグスクリューの滑走孔不足 — gliding hole を正確にオーバードリルしないと圧迫力が失われる ✕ プレートの短すぎる設置 — 骨折の遠近位で各骨片に3本以上のスクリューを確保できる十分な長さのプレートを選択する ✕ スクリューによる橈骨神経絞扼 — 遠位スクリューは橈骨神経溝付近への刺入を避け、必要に応じてフリーハンド法で方向を調整する
MIOブリッジプレート — 代替選択肢(軟部組織損傷が大きい例)
適応: 楔状骨片の軟部組織付着が保たれており、解剖学的整復よりも相対的安定性による骨癒合(仮骨形成)を目指す場合。重症軟部組織損傷・多発外傷・高齢者などで優れた選択肢となる。橈骨神経前方を走行するよう骨に沿ってプレートを経皮的に通す(遠位1/3ではとくに注意)。
軸整復: 徒手牽引または一時的創外固定で骨軸のアライメント・回旋・短縮を修正する
経皮的トンネル作成: 骨膜外に近位・遠位の小切開からトンネルを開通(橈骨神経の前方を通す)
プレート挿入: 10〜12穴のLCP(3.5mm)を遠位から挿入し骨折部を跨ぐよう位置決め
仮固定・透視確認: 近位・遠位の各1穴に仮スクリューを挿入し、AP・側面透視でアライメントを確認
最終固定: 各骨片に最低3本の皮質骨またはロッキングスクリューを挿入(骨折部近傍は空ける)
順行性髄内釘(Antegrade IM Nailing)— 代替選択肢
適応: 骨幹部の中央〜近位骨折(外科頸より5cm遠位〜遠位5cm上方まで)。保存療法後の遷延癒合・骨折後骨折にも有用。ビーチチェア位で経三角筋前外側アプローチにより上腕骨頭最高点にエントリーポイントを設ける。
エントリーポイント:上腕骨頭関節面の最高点、髄腔軸延長線上(正確な位置でないと整復困難)
リーミング:適宜施行(狭い髄腔では必須)
回旋評価:前腕の外旋25°を目標に回旋アライメントを確認
ロッキング:近位2本・遠位2本の静的ロッキング(遠位はフリーハンド法、橈骨神経保護が必要)
ネイル先端は関節軟骨面より1mm以内で沈める(突出はインピンジメントの原因)
術後管理
術後X線像(正面/側面)— プレート固定(ラグスクリュー+中和プレート)またはIM釘固定
手術タイミング: 全身状態が安定次第、受傷後24〜48時間以内が理想。開放骨折は緊急手術(デブリードメント・仮固定)
術後荷重(上肢): 術翌日から肘・手指の自動運動を開始。肩関節の振り子運動も早期から許可。骨癒合確認(術後6〜8週のX線)後から段階的に抵抗運動を開始。プレート固定では術後早期から前腕の自動運動が可能
VTE予防: 上肢骨折では下肢骨折ほどのVTEリスクは高くないが、長期臥床・高齢者・多発外傷例では弾性ストッキング・早期離床を徹底
疼痛管理: アセトアミノフェン定期投与を基本とし、神経ブロック(腕神経叢ブロック)を術後疼痛管理に活用。橈骨神経麻痺合併例ではNSAIDs・神経障害性疼痛薬(プレガバリン等)を併用
リハビリテーション: 術翌日から肘関節・手関節・手指の自動運動を開始。橈骨神経麻痺合併例では手関節・指伸展の装具療法(wrist drop splint)を使用。神経回復は月単位での評価(4〜6週ごとに神経評価)
フォローアップ
術後2週: 創部確認・X線撮影(アライメント・プレート/ネイル位置・スクリュー位置の確認)、橈骨神経の回復評価
術後6週: X線撮影(仮骨形成・骨癒合初期の確認)、自動関節可動域・筋力評価、橈骨神経回復評価(電気生理学的検査を考慮)
術後12週: X線撮影(骨癒合判定)。遷延癒合(3ヶ月での骨癒合不全)は骨刺激・ダイナミゼーション・骨移植を検討
術後6ヶ月〜1年: 最終機能評価、インプラント抜去の要否検討(症候性・若年者)。ハードウェア抜去は骨癒合確認後1年以上が目安(抜去時の橈骨神経損傷リスクに注意)
橈骨神経麻痺が3〜4ヶ月経過しても回復傾向がない場合:EMG/NCV評価・手術(神経剥離・移植)を検討
予後
骨癒合率:プレート固定で約90〜95%(楔状骨折はA型より複雑だが適切な固定で高い癒合率)
骨癒合期間:約12〜16週(楔状型は単純型より若干長い傾向)
橈骨神経麻痺(一次性):約70〜90%が保存的に回復(3〜6ヶ月)。残存率(回復不全)は約10〜30%
術後橈骨神経麻痺(医原性):後外側アプローチ後で約2〜5%(術前比較評価が重要)
偽関節:適切な固定例で約3〜8%(保存療法では約15〜20%)
インプラント感染:閉鎖骨折で約1〜3%
📋 上級医報告前チェックリスト
1 AO分類コードを確認(12-B1 = 上腕骨骨幹部・楔状骨折・螺旋型楔) 2 部位を確認(近位1/3・中央1/3・遠位1/3)— 中遠位1/3はHolstein-Lewis型(橈骨神経リスク高) 3 橈骨神経の術前評価を記録したか(母指・示指背側感覚、手関節伸展、母指伸展筋力) 4 開放骨折の有無を確認(Gustilo分類)、開放骨折であれば緊急デブリードメントの計画を立てたか 5 X線(上腕骨全長正面・側面)で楔状骨片の確認・整復位の評価を行ったか 6 術式を確認(第一選択:ORIFラグスクリュー+中和プレート / 代替:MIOブリッジプレート or 髄内釘) 7 術中に橈骨神経を同定・保護したか(後外側アプローチ使用時は必須) 8 術後の橈骨神経麻痺(医原性)を術前評価と比較したか 9 術後リハビリ(肘・手指自動運動の早期開始)と橈骨神経麻痺合併時の装具処方を計画したか
文献
Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767
Holstein A, Lewis GM(1963)Fractures of the humerus with radial-nerve paralysis. J Bone Joint Surg Am, 45:1382–8. PMID: 14069777
Ouyang H, et al.(2013)Operative versus non-operative treatment in complex humeral shaft fractures: a meta-analysis. Arch Orthop Trauma Surg, 133:745–53.