橈骨頭の関節面を巻き込む粉砕骨折。臨床像としてはMason分類III型(橈骨頭の粉砕・転位骨折)に相当する。AO/OTA分類の軸との関係には注意が必要で、AO/OTAのA/B/Cは「関節面を含むか否か」で定義される——A(2R1A)=関節外(A1橈骨粗面裂離、A2橈骨頸部単純、A3橈骨頸部多骨片)、B(2R1B)=部分関節内、C(2R1C)=完全関節内。したがって橈骨頭関節面を巻き込む粉砕骨折は、AO/OTA 2018では完全関節内・多骨片型 2R1C3(相原CEO確認)に分類され、関節外の2R1A3(橈骨頸部多骨片)とは定義が異なる(Mason分類は橈骨頭に特化した重症度軸であり、AOのA/B/Cとは概念軸が異なり1対1には対応しない)。転位した多数の骨折片が関節の適合性を著しく損ない、単純な保存療法や骨片固定では対応困難なことが多い。肘関節の安定性に関わる内側側副靱帯(MCL)・外側側副靱帯(LCL)損傷、Essex-Lopresti損傷(橈骨頭〜骨間膜〜遠位橈尺関節の軸方向不安定性)の合併を必ず評価し、術式選択(ORIF・人工橈骨頭置換・橈骨頭切除)は損傷形態と肘安定性に基づいて行う。
重症度・疫学
年間発生件数(日本): 橈骨頭骨折は肘関節骨折の最多骨折型(全肘関節骨折の約33%)。Mason III型粉砕骨折は橈骨頭骨折の約14〜20%を占める
好発: 30〜60歳代の活動性成人・男女ほぼ同等。骨粗鬆症の目立つ高齢者では粉砕が増加傾向
受傷機転: 転倒時の手掌着地(FOOSH: Fall on outstretched hand)による軸圧・外反ストレス。高エネルギー外傷(交通事故・高所転落)では肘関節脱臼を合併することも多い
AO/OTA分類: 臨床像はMason分類III型(橈骨頭の粉砕・転位骨折)。橈骨頭全体の粉砕は完全関節内・多骨片型 2R1C3 が代表(関節外の2R1A3は橈骨頸部の多骨片骨折を指し定義が異なる)
注意すべき合併症
- 肘関節不安定性(MCL/LCL断裂):粉砕型の30〜50%に合併。見逃すと術後肘脱臼・亜脱臼を生じる
- Essex-Lopresti損傷:橈骨頭骨折+骨間膜断裂+DRUJ(遠位橈尺関節)損傷の複合体。橈骨頭切除単独では近位橈骨移動が生じ前腕不安定性の原因となる
- 冠状突起骨折合併(terrible triad):橈骨頭骨折+冠状突起骨折+肘後方脱臼。高エネルギー外傷に多く、多靱帯再建が必要
- 肘関節拘縮:外傷後の関節線維化。早期可動域訓練が予防に重要
- 骨化性筋炎(異所性骨化):約6〜15%。特に重度の軟部組織損傷を伴う症例で発生
- 尺骨神経障害:粉砕型では骨片による刺激・牽引で生じることがある
治療方針
肘関節の安定性評価(X線・CT・ストレス撮影)を優先し、橈骨頭の再建可能性(骨片数・骨質・転位量)を判断して術式を選択する。
⚠️ 保存療法(21-A3粉砕型では原則非適応)
- →Mason III型粉砕骨折に対する保存療法は原則として推奨されない
- →例外:高齢・低活動性・麻酔リスク極めて高い(ASA IV以上)場合に限り、肘関節安定性が保たれていることを条件に吊り包帯固定+早期可動域訓練を考慮
- →保存療法を選択する場合は7〜10日以内に再X線撮影し転位進行を確認する
🔷 手術適応基準・術式選択
- ℹ3骨片以内の粉砕型 → ORIF(T字型プレート + ラグスクリュー)を考慮
- ℹ3骨片超の粉砕型(再建不能) → 人工橈骨頭置換術(第一選択)
- ℹ孤立性骨折・肘安定性が保たれている → 橈骨頭切除術(低活動性患者・高齢者)
- ℹEssex-Lopresti損傷・MCL/LCL断裂合併 → 人工橈骨頭置換術(橈骨頭切除は禁忌)
- ℹTerrible triad → 冠状突起固定+橈骨頭再建(ORIF or 置換)+LCL再建を組み合わせる
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診断・評価
手関節〜前腕の疼痛・肘関節外側の腫脹・圧痛・前腕回旋痛(回内外制限)を呈する。転倒後の肘外側痛で本骨折を疑い、以下の順で画像評価を進める。
2R1C3 の診断ポイント:合併損傷の検出
X線正面・側面像(肘関節・手関節双方)でFat pad sign(前後脂肪体挙上)・橈骨頭の粉砕・転位・関節内骨片を確認する。同時に手関節X線でDRUJ転位(橈骨短縮)を評価する。CTは骨折形態の詳細評価と術前計画に必須。不安定性が疑われる場合は麻酔下ストレス検査を実施する。
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【必須】 肘関節正面X線・側面X線・手関節X線(DRUJ評価)・CT(骨折片評価・術前計画)
【考慮】 MRI:靱帯損傷(MCL/LCL)の精査。麻酔下ストレス検査:肘不安定性の確認
✅ 許容される整復・置換
- ✓橈骨頭プロテーゼの関節面が冠状突起関節縁と同高か、やや近位(突出しすぎない)
- ✓肘関節の同心円的整復・脱臼なし(全可動域で安定)
- ✓前腕回内外全域でスムーズな動き・crepitusなし
- ✓C アームで橈骨長が健側と対称(Essex-Lopresti評価)
❌ 許容されない変形・操作
- ✕プロテーゼの over-stuffing(overfilling)→ 肘関節可動域制限・変形性関節症加速
- ✕Essex-Lopresti損傷での橈骨頭切除単独 → 近位橈骨移動・前腕不安定性
- ✕再建不能骨折に対するORIF強行 → 骨片脱落・内固定破綻
- ✕靱帯損傷の見逃しによる不安定肘放置 → 術後脱臼・亜脱臼
手術手技
体位
仰臥位(側方アプローチ): 仰臥位で患側上肢を体側に置き、前腕を胸部上に乗せる。上腕に空気止血帯を装着し、放射線透過性手術台でCアームが使用可能な体位を確保する。肘を90°屈曲した状態で外側アプローチ(Kaplan法またはKocher法)が標準。
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人工橈骨頭置換術 — 第一選択(3骨片超粉砕・肘不安定性合併)
適応: 再建不能な粉砕橈骨頭骨折(骨片3個超)、Essex-Lopresti損傷合併、MCL/LCL断裂合併例で肘の安定性を回復するため橈骨頭支柱が必要な場合。
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- 展開(外側アプローチ): 上腕骨外側上顆から橈骨頚部に向かう6〜8 cmの皮膚切開。肘筋(anconeus)と尺側手根伸筋(ECU)の間(Kocher間隙)を展開。輪状靱帯を確認・温存する
- 骨片摘出: 橈骨頭・頚部の全骨片を摘出し、サイドテーブル上で再構成して原寸を把握する。骨片の取り残しがないようCアームで確認
- 橈骨頚部の形成: スモールロンジュールで橈骨頚部断端を整形し、プロテーゼステムが適切に収まる長さに調整する(過剰な切除はover-stuffingを防ぐために重要)
- 髄腔開口・サイジング: アウルで髄腔を開口し、摘出した骨片で再構成した橈骨頭の直径・高さを参考にプロテーゼサイズを選択する。境界サイズでは小さい方を選択する(over-stuffing予防)
- プロテーゼ挿入・位置確認: プロテーゼを挿入し、関節面が冠状突起関節縁と同高であることを確認。肘を伸展・屈曲・回内外させ全域でスムーズな動きと安定性を確認
- 靱帯修復: 断裂した輪状靱帯を非吸収糸で修復。LCL断裂がある場合は上腕骨外側上顆への再縫着を行う
- 最終確認: CアームでAP・側面像を撮影し、プロテーゼ位置・橈骨長・肘関節の同心円的整復を確認
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⚠️ 人工橈骨頭置換術ピットフォール
- ✕Over-stuffing(プロテーゼが大きすぎる) → 肘関節屈曲制限・上腕橈骨関節の軟骨損傷
- ✕骨片の取り残し → 術後遊離体・疼痛・可動域制限
- ✕Essex-Lopresti損傷の見逃し → 橈骨頭切除後に近位橈骨移動・前腕不安定性
- ✕LCL断裂の未修復 → 術後肘後外方回旋不安定性(PLRI)
- ✕プロテーゼ頚部が輪状靱帯を締め付けすぎる → 回内外制限
ORIF — T字型プレート+ラグスクリュー(3骨片以内の再建可能例)
適応: 骨折片が3個以内で、各骨片が十分なサイズを持ち解剖学的整復・安定固定が可能な場合。骨質良好(若年成人)が前提条件。
- 展開: 外側アプローチ(Kaplan法:ECRB-EDC間)または Kocher法で橈骨頭を露出する
- 整復: ポインテッドリダクションフォーセップスで骨折片を解剖学的に整復し、Kワイヤーで仮固定
- セーフゾーン確認: 橈骨茎状突起とLister結節を触診し、前腕中間位を基準にした「safe zone(90°)」を同定。インプラントはこのゾーン内に設置する(前腕回内外で橈骨骨頭部の突出が橈尺関節に干渉しない範囲)
- スクリュー/プレート固定: 橈骨頭は小さいため、大骨片にはまずヘッドレス圧迫スクリュー(HCSなど1.5〜2.4 mm)で関節面を固定する。頸部まで骨折が及ぶ場合は、橈骨頭・頸部用の低プロファイルロッキングプレート(ブレード部を頸部の安全域内に配置)を選択し、頸部遠位を数本のスクリューで橈骨に固定する。プレートは必ず安全域内に置き、前腕回旋で橈尺関節に干渉しないことを確認する
- 最終確認: 前腕回内外全域でスムーズな動きを確認。CアームでスクリューがORIF後に関節内に突出していないことを確認する
⚠️ ORIF ピットフォール
- ✕セーフゾーン外へのプレート設置 → 前腕回内外でインプラントが橈尺関節に衝突
- ✕骨片が細小で固定力不足 → スクリュー把持力喪失・骨折部崩壊
- ✕3骨片超での ORIF 強行 → 内固定破綻・2次手術(置換術)へ移行
- ✕プレートコンタリング不十分 → 整復位の消失・骨折片の転位
橈骨頭切除術(適応を限定した代替術式)
適応: 孤立性橈骨頭骨折・肘関節安定性が確認されている・Essex-Lopresti損傷なし・低活動性患者または高齢者。骨間膜損傷・MCL/LCL断裂・冠状突起骨折合併例では禁忌。全骨片を摘出後、断端をロンジュールで滑らかに整形し輪状靱帯を修復する。術中にCアームで橈骨短縮・DRUJ転位・健側橈骨長との比較を必ず行う。
術後管理
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手術タイミング: 腫脹が強い場合は5〜7日以内を目安に手術。肘関節脱臼合併(terrible triad)では閉鎖整復後に可及的早期(24〜72時間以内)
術後荷重(前腕): 置換術・ORIF ともに術後6〜8週間は抵抗負荷を禁止。日常生活動作(食事・書字)は早期から許可
VTE予防: 上肢手術では基本的に全身VTEリスクに準じる。高リスク例(長時間手術・術後臥床)では低分子ヘパリンまたはDOACを考慮
疼痛管理: アセトアミノフェン定期投与を基本とし、手術当日〜翌日はNSAIDs(腎機能正常の場合)または神経ブロック(超音波ガイド下上腕神経ブロック)を補助的に使用
リハビリテーション: 術翌日〜数日以内に能動補助的な肘屈伸・前腕回内外の可動域訓練を開始(拘縮予防のため早期開始が最重要)。三角巾は疼痛管理のためのみ使用し、可及的早期に除去する
フォローアップ
- 術後2週: 創部確認・X線(プロテーゼ位置・骨片取り残しなし)
- 術後6週: X線(橈骨長・DRUJ評価)・可動域評価。抵抗運動開始判断
- 術後12週: X線(骨統合・プロテーゼ緩み・異所性骨化評価)・筋力・機能評価
- 術後6〜12ヶ月: 長期フォロー(プロテーゼ周囲骨吸収・関節変性の確認)
予後
- 人工橈骨頭置換術:良好な肘機能回復(屈伸可動域約130°・回内外各約75°)。中長期のプロテーゼ緩み・シャフト骨折は数%に生じる
- ORIF(3骨片以内):適切な症例選択で良好(骨癒合率 約85〜90%)。骨片崩壊による再手術は約10〜15%
- 橈骨頭切除術(孤立性):短期成績は良好だが長期で近位橈骨移動・外側コンパートメント過負荷による疼痛が生じる可能性あり
- Terrible triad:多靱帯再建を要し、機能予後は骨折型・靱帯修復の質に依存。外傷後関節症は約20〜30%で報告
📋 上級医報告前チェックリスト
- 1AO分類コードを確認(2R1C3=橈骨頭・完全関節内・多骨片〈Mason III 粉砕型〉。旧21-A3。※旧21-A3は橈骨頸部・関節外の意味で本骨折とは不一致。AO/OTA 2018で橈骨近位は2R1、A/B/C軸とMasonは概念軸が異なる)
- 2骨折片数を評価(3個以内→ ORIF考慮 / 3個超→ 人工橈骨頭置換術)
- 3Essex-Lopresti損傷を除外(手関節X線でDRUJ転位・橈骨短縮を確認)
- 4肘関節安定性を評価(MCL/LCL損傷・冠状突起骨折の有無 → terrible triadの除外)
- 5術式を決定(ORIF / 人工橈骨頭置換術 / 橈骨頭切除術)と適応条件を確認
- 6プロテーゼサイズ選択はover-stuffing防止のため境界サイズでは小さい方を選ぶ
- 7術中セーフゾーン(safe zone: 橈骨茎状突起〜Lister結節間の90°範囲)にインプラントを設置したか確認
- 8術後早期(術翌日〜数日)からの可動域訓練開始を指示(拘縮予防)
文献
- Mason ML(1954)Some observations on fractures of the head of the radius with a review of one hundred cases. Br J Surg, 42(172):123–32. PMID: 13209035
- Calfee RP, et al.(2008)Management of elbow fractures and dislocations. J Am Acad Orthop Surg, 16(12):690–700.
- Herbertsson P, et al.(2007)Surgical versus non-surgical treatment of Mason type III radial head fractures. J Shoulder Elbow Surg, 16(4):420–5.
- Buckley RE, Moran CG, Apivatthakakul T(編)(2018)AO Principles of Fracture Management(第3版). Thieme.(日本語版:AO法骨折治療 第3版、医学書院、2020) DOI: 10.1055/b-006-149767